#06 ホーム(09)
動揺している夏美さんをおいといて、ザドさんに質問をしてみる。
「えーっと、僕らのことはどの程度把握されているんですか?」
「ほぼすべてじゃな、ユージ。そこのナツミが頼みもせんのにくろにゃあに色々と喋ってくれたんでな。『こんな楽な仕事はなかった』と言っておったぞ」
あぁぁぁと声を出して頭を抱える夏美さん。当面役に立ちそうにない。
「わかりました。では、単刀直入にお伺いします。〝ここはどこなんですか〟?」
「ほっほっほ。そうくるか。面白いのう、主は。ここはどこでもあって、どこでもない。儂らは〝寄せ集めの世界〟と呼んでおるがな。うーん、どう話したらいいものか。主らの世界では……そう! “パラレルワールド”とか言ったかな。この世はいくつかの世界が平行して存在するんじゃ。そして、その世界を移動することはできん、通常はな。他の世界と“寄せ集めの世界”との移動だけ、数々の条件が合致した時、可能になるんじゃ。主らは、その条件が合ったためにこの世界に来た、と推測される」
「それで僕らの世界は〝水の領域〟という訳ですか?」
「そうじゃ。主らの世界は七割近くが水なんじゃろ? ちなみに儂は〝火の領域〟と呼ばれる世界から来たんじゃ」
「失礼ですが、ザドさんのような風貌の生き物が生活しているんですね」
「そうじゃ。〝寄せ集めの世界〟には、お主らのような二足歩行の猿……失礼、気を悪くせんでくれ……とにかく、お主らのような〝人類〟が先におったのでな、我々は第三の知的生物〝サーディアン〟を名乗ったのじゃ」
「……もしかして〝人類〟の前に知的生物がいたって事ですか?」
「そうじゃ! 我々よりも遙か昔にこの世界に住んだ存在がおったのじゃ。便宜上、〝神〟と呼んでおるがな。かなり高度な文明を築いていたと思われるのじゃがな、今はいない。領域を渡る船を創りここを旅立ったとも、大戦争を起こし滅びたとも言われておる。今はいくつかの遺跡や資料が残るのみなのじゃ」
ザドさんがそこまで言うと、外に出ていたアイハさんがひとりのサーディアンを連れて戻ってきた。
「リドを連れてきたよ」
夏美さんに向かってシャアァァァァと叫ぶリド。ビクっと震える夏美さん。
「ナツミ、お前さんはこの世界に来てこのリドと出会っておるじゃろ? リドはお前さんを迎えに行ったのだよ。お前さんは逃げ回ったようだが。見覚えはないか?」
ザドさんが説明するが、夏美さんは頭をブンブンと振った。
「ごめんなさい。確かにサーディアンの方とは出会いましたが正直、見分けがつかないです」
その言葉にリドは頭をがくんと下げた。ザドさんはトーンを下げて言う。
「そうか、覚えておらんか。お前さんとリドは仲が良かったのじゃがな」
「……え?」
「元々お前さんはこの世界の生まれ。とある事情で〝水の領域〟に飛ばされていただけなのじゃ。お前さんがリドを忘れていたのでは話にならないか。リドは人間の言葉を発することはできんからな、コミュニケーションが取れなかったという訳か。儂の判断ミスじゃな。リド、忙しいところ済まなかったな。日をあらためよう」
リドはそう言われると、シャアと一言鳴いた。夏美さんがその声にビクリと反応すると残念そうな表情を見せて部屋を出て行った。
「気にすることはない。この世界ではよくあることじゃよ。色々と話したい所じゃが……今日は終わりにしよう。今日はオジーとアイハの所に泊まるが良い」
その時、アモが妙な反応を示していることに僕は気づかなかった。
「わかりました。今日は遅くまでありがとうございました」
僕らは頭を下げると、ザドさんの家を後にした。
「じゃあ、今日から私たちの家に泊まってもらうわ。ナツミとアモ、それにくろにゃあは私の家。ユージはオジーの家ね」
アイハさんがそう言うと、夏美さんは猛烈に抗議した、若干の涙目で。
「えー! 嫌です。私もオジーさんの家がいい!」
「だめよ、ナツミ。かわいい女の子をこんな野獣の家に泊める訳にはいかないわ」
そう言ってアイハさんはオジーさんをギロっと睨みつける。夏美さんはアモに助けを求めた。
「ねぇ、アモちゃんもオジーさんの所が良いよね、ね、ね」
すると、無表情のままアモがぽつりと言う。
「あきらめよう、ナツミちゃん」
「ええええぇぇぇ、そんなぁ。助けて! 勇司くんっ!」
「じゃ、決定ぃ!」
泣きわめく夏美さんをアイハさんは嬉しそうに引きずっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます