#01 無能の少年(01)
パーンという甲高い破裂音。そして、どこまでも深く、深く、落ちていく感覚。それがすべての始まりだった。
「いたたたた……」
13年も生きてきて、いきなり道が抜ける経験をしたのは初めてだ。その痛みから僕は数分はせき込むことになる
「誰だ! こんな街中に落とし穴を作る馬鹿は!? それにしても……何でこんなに暗いんだ?」
土と湿った空気の臭い。そして異様な静寂さが違和感を抱かせる。何より光が入り込まず、周りの状況が全く分からない。今日から中二の授業開始。さすがに初日から遅刻するのはみっともない。とっととこんな所から脱出して登校しなくては。
僕は立ち上がり、スマホの電源を入れる。
「あああ、何てこった」
スマホの画面はひび割れて、一切の情報を表示しない。これでは一切の連絡はできない、まいったなぁ。それでもバックライトで周りが照らされるだけマシか。高価な懐中電灯だ。
あかりのおかげで自分の置かれている状況が徐々に分かってきた。
僕は今、直径3メートルくらいの深い深い穴の底にいること。
穴の壁は恐ろしいほど綺麗で、まるでドリルで開けたように美しい断面で構成されている。石も一緒に削られているので、手足を掛ける場所さえ見当たらない。つまり、壁をよじ登ることはできないということだ。そもそも、この穴は何メートルあるんだ? 上を見あげると10円玉ほどの小さな光の円があるだけだ。脱出口はあそこだけ。
あまりの理不尽な状況に僕は思わず頭を抱え、腰を落とした。
「どーするんだ、これ?」
初日ゆえの荷物の多さが恨めしかった。学校に置いておくための教科書やら体操着など、ありとあらゆる物がスポーツバッグに入っている。しかも、それだけ物があっても脱出に使えそうなものは何ひとつない。まぁ、ハシゴやロープを持ち歩く中学生がいたらお目に掛かりたい物だけど。
「誰かいませんかぁぁぁ。穴に落ちてしまって抜け出せないんですぅぅぅぅ」
僕の声はむなしく穴の中で響くだけだ。いや、このエコーで遠くまで音が届くと信じよう。情けないことに、それが唯一の希望だ。
何度も、何度も叫んでみたけれど、反応は一切返ってこなかった。
つまり、今の僕は人通りの激しい街中で密室に閉じ込められたようなものだ。
「まいったなぁ……」
普通、街中に穴が開いたら覗いて見るよなぁ? うーん、見ないか。土木会社の人とかが調査にくるのを待つしかないのかなぁ?
ダメだ。ただ考え込んでいると悪い方に、悪い方に考えがいってしまう。無駄でも良いから行動している方がマシだ。僕はそう思い、立ち上がった。
「誰かぁぁぁぁ、助けてくださぁぁぁーい」
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。これが、今の僕に出せる最大限の声だ。やはり反応はない。もう一度、半ばあきらめつつも声を出そう。これでダメなら別の方法を考えよう。
そう思った瞬間、僕は一生忘れられない出会いをすることになる。
「●×▼※♂◇&÷ー?」
はるか上から声が帰ってくる! 希望の声だ。何を言っているのか分からないけれど、それは確かに人の声だ。あぁ、自然と涙が出てくるよ。希望が見えてくるというのは、こんなにも嬉しいことだったんだ!
僕は声をあげ、画面をつけたスマホをブンブンと振り回した。
「助かったぁ! ここでーす、ここ、ここ。僕、穴の中に落ちてしまったんです。助けを呼んでもらえませんかぁぁ?」
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