#12 あがき(05)
ジーウィの放った嵐が直撃した。氷球ひとつひとつは小さいのだけど、そのパワーは凄まじくコーディの身体を吹き飛ばしてしまうほどだ。
「あはははは。まだまだ行くよ!」
ジーウィの氷球攻撃は終わらない。ただギルトは細かな制御が難しくなっているようで、狙いが雑。それを補うように膨大な数の氷球は放ってくる。せっかく溶かした氷が再び凍って段々と走りづらくなってくる。
オオオオオオォォォォーー!
ジーウィのあげる声は雄叫びか、断末魔か。
もはやこの場は狂気が支配していると言って良かった。僕らはその狂気をひとつひとつ受け止め、反撃の機会をうかがうしかなかった。僕は体勢を立て直し、コーディは必死に耐え、夏美さんはコーディの回復に集中。しかしジーウィの攻撃は終わらない。
「まだだ、まだ早い。今は耐えるんだ……」
オオオオオオォォォォォォォォォォォー!
再びジーウィが雄叫びをあげた。
「見て、勇司くん! ジーウィの身体が!」
それはほんの少しであった。少しであったがジーウィの身体にヒビが生じていた。
「あの子、あの攻撃そのものを支えることができなくなってる!」
夏美さんの言葉が終わる前に僕は走り始めた。タイムリミットだ。これ以上はギルト自身を傷つけるだけだ。するとまた薬に手を出すだろう。それだけは避けたい。接近するコーディに次々と攻撃が加えられるが、それを避けつつタックル。ズズッと少し下がったが、ジーウィはそれを受け止めた。いまやジーウィとコーディではまるで大人と子供ほどの違いがある。それでもコーディはその両腕でジーウィの腰回りを締め上げる。すでにダメージを負っているそのボディは見た目よりも脆く、コーディの腕が食い込んでいた。
「ぐぬううぅ、離せぇ!」
ジーウィも殴って抵抗してくるが、こちらだって必死だ。僕も、夏美さんも絶対に離す気はない。痛みによって精神集中ができないからか、魔法攻撃はなかった。
「もう抵抗しないで、ギルト!」
夏美さんは周りの溶けた水を吸い上げ、コーディの身体に纏わせた。言わば、コーディの補助筋肉。急激にパワーアップするコーディの腕が、ジーウィの腰をジリジリと締め上げ、押し込んでいく。次第に劣勢に追い込まれるジーウィは後退していく。と、突然バランスを崩し、尻餅をついた。その足元にはランペットの残骸が落ちていた。ギルトはかつての愛機に足をすくわれた形となった。
「いける! このまま一気に」
強く締め上げた手のひらからファイアーショットを放つ。その衝撃と共にギルトの悲鳴が聞こえてくる。
「ぐぇ! うぐぅ! うわぁぁ!」
コーディを操縦している時は耳を塞ぐことができない。傷つけたくて傷つけている訳ではないのが辛い。その声は僕らの心をも抉っていった。
……やがて、ジーウィの抵抗が弱まり、ガクンと身体を力なく外側に反らした。
「よし! これで終わらせられるっ!」
僕らはとどめを刺すべく、コーディの腕に最後の力を入れる。
その時、僕らの左腕に強烈な痛みが走った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然、コーディの悲鳴が上がり、主導権が奪い取られた。
「どうした! コーディ」
僕が眼を開けると、前方のスクリーンに映るのは制御を失い飛び散る大量の水しぶき。その背景にコーディの切り離された左腕が飛んでいくのが見えた。宙に浮かぶ宝石コーディは赤と黄色の明滅を繰り返し、煙のようなものを噴いていた。そして眼の前には折れた剣を持ったジーウィがいた。あいつはランペットのそばに落ちていたコーディの大剣を使い、腕を切り取ったのだ。片手を失ったコーディを引き離すのは造作ないことだった。
「くそ、一気に逆転された」
コーディの左腕はジーウィを挟んで反対側に落下し、その手のひらをこちらに向けていた。
ゥゥゥゥゥオオオオオオオォォォ……!
ドクン!
「もう止めてぇぇぇぇl!」
夏美さんの悲痛の叫びをあざ笑うかのように、ジーウィは回復をしていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます