#08 赤キ魔女(06)
ブォォオオオオーーーーン。
エンジン音を響かせ、それはまるで太陽に吸い込まれるように舞い上がった。こちらからはシルエットでしか認識できないが、私にはすぐ分かった。彼が来てくれたのだ!
そして、太陽の光から巨大な手が、足が伸びる。彼は空中でコーディを展開したのだ。巨大な影が大きくなり、私たちの眼の前に着地した。そしてすぐさまランペットの腕を掴みブンと放り投げた。操縦者を失ったギガントは固まったままだ。
「し、しまったっ!」
ギルトは慌てて振り返り走り始める。そこに隙が生まれた。誰が合図することもなく、一斉にギルトに向かって魔法弾を打ち始めた。
ピシィ!
ギルトが右手を振ると一斉に魔法弾が砕け散る。凍らせ、衝撃を加えたのだ。ギルトの周りに魔法弾の欠片が舞う。
「ぐぇっ……!!」
突然、ギルトの身体が弓なりに反り返り弾き飛ばされた。その影から彼が現れる。
「勇司くんっ!」
そこにいたのはエアバイクに乗った勇司くんだった。彼はコーディを展開したけれど、搭乗はしていなかったのだ。コーディの陰に隠れ、チャンスをうかがっていたのだ。そういえば広場で彼に会った時、エアバイクのエンジン音はしなかった。さっきはわざとエンジン音を響かせたのはこの為の布石だったのだ。しかし、ギルトはやはりバケモノだった。すぐさま身体をひねり着地する。
「そうか! 貴様だったのか!」
その顔は笑ってる。獲物を見つけた野獣のように。激突の勢いが止まらないエアバイクを振り向きざま受け止めた。
「くそっ!」
勇司くんはエアバイクの出力を上げるが、ギルトはそれを受けきる。続けて勇司くんの左手首を掴みハンドルから引き離す。と同時に、パンッと骨の砕ける音がして、勇司くんの手首があらぬ方向を向いた。勇司くんは、その痛みで絶叫する。ふたりの距離が近すぎるため、魔法による援護攻撃ができない。リーダーが攻撃隊に突撃の号令を出そうとした、その時。
「ふんっ!」
ギルトの体中の筋肉が膨れあがった。そして勇司くんの身体が宙高く吹き飛んだ。ギルトはエアバイクごと彼を投げ飛ばしたのだ。
「ぐぇっ!」
勇司くんの身体は壁に叩きつけられた。地面に落ちた彼の胸ぐらを掴み、ギルトは蹴りを入れる。一発、二発、三発。彼の腕がだらりと落ちる。そして彼の胸倉を掴んだまま高々と掲げた。首が力なく落ちる。糸の切れた人形のようなその姿は攻撃隊の足を止める盾として十分な役目を果たしていた。
そしてギルトにとって、稼ぐべき時間はその一瞬で充分だった。まるでゴミでも捨てるように勇司くんを投げ捨てた。情けないことに、私はそれを呆然と見ていることしかできなかった。
「にーちゃん!」
コーディの剣がギルトの前に突き刺さる。その後ろには翼をもがれたリネットが横たわっていた。
「あ、姉さん! 助けて!」
籠城組から悲鳴が上がる。彼らはリネットを失い、脱出方法が無くなったのだ。ギルトはプイと横を向き、ランペットの方に走っていった。やがて黒い天使が舞い上がり、この街を後にした。
戦いは唐突に終わった。そして籠城組は降伏を申しでた。
「勇司くんっ!」
私は勇司くんの元に駆け寄る。彼は完全に虫の息、生きているのが不思議な状態だった。
「いやだっ! 勇司くん、勇司くん!」
私はまた、大切な人を失うのか。また、私の気持ちを伝えることができないのか。パトルさん、マカロさんに言うべきことを言えなかった後悔をまたしなければいけないのか。
彼は私のことを受け止めてくれた。魔法ができるようになった時も特訓に付き合ってくれた。私の競泳の話もニコニコして聞いてくれた。そんな話をしたのは勇司くんが初めてだった。そんな彼を失いたくないっ!
……!
競泳の話……。あれは、結局私の身体の中の水分を魔法でコントロールして、身体能力を上げていたんだった。私は水の中なら疲労も簡単に回復する。溺れたアモちゃんも、私が水分を補給したら急激に回復した。
それなら、勇司くんの身体の水分をコントロールして新陳代謝を上げることもできるんじゃないか? コーディはかつて言った。『この世界に治癒魔法はない』と。
でも、これに賭けるしかない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます