#02 水の少女(10)

 鎧の両手で階段のような道を作ると、コーディは先にピョンピョンと跳ねて先に出ていった。渋る僕を強引に連れ出す作戦だ。仕方なく僕は彼を追いかける。

 今まで見たことのない深い緑色の光を放つコーディは僕が追いつくと、いきなり話しかけてきた。

 「にーちゃん、ナツのことなんだけど」

 「すまん! 黙っててくれ!」

 僕は両手を合わせ懇願したが、コーディは無視して話を続ける。

 「……ナツって何者なんだい?」

 「え? えーっと、同じ学校に通う同級生で、トップクラスの競泳選手で……」

 「そんなことを聞いてるんじゃないっ!」

 いきなり真っ赤になり声を荒らげるコーディ。

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ。怒ることないだろ?」

 「……ごめん。でも、あの人は何者なんだい? おいらはそれを知りたい」

 「僕と同じ世界の人だよ。僕と違って魔法が使えるみたいだけど。ほんと、天才っているんだなぁ……って、おい聞いてるのか」

 再び緑色に戻ったコーディは黙り込んでしまう。しばらくたった後、つぶやくように言った。

 「そんなはずは……ない。ナツが炎の魔法が使えるわけがないんだ」

 「でも実際、夏美さんは使えてるぞ」

 「違うんだ。彼女の属性は“水”なんだ。炎の魔法が使えるわけが、そんなことが……」

 「ちょーっと待ってくれ。僕は魔法について全然知らないんだ。説明してくれるか?」

 「そうか。ちょっと長くなるよ、にーちゃん。人によって魔法属性があって、熱、雷、水の3つなんだ」

 「炎はないのか?」

 「属性には上位属性があって、熱が炎、雷が光、水が氷になる。それは経験や修行によって進化するんだけどね」

 「じゃあ、別の属性の魔法が使える夏美さんがおかしいってことかい?」

 「いや、別属性の魔法を使える人はいるよ。でも自分の魔法属性が上位の場合のみ、他属性の下位属性の魔法が使えるのさ」

 「じゃあ、氷属性の人が熱属性の魔法を使うことはできるんだ」

 「そう。でもナツは下位の水属性なのに、上位他属性の炎の魔法をいきなり使いこなしたんだよ」

 コーディはものすごく大変なことだとばかりに言うが、僕にはなんでもできてしまう彼女ならありえると単純に考えていた。

 「それって何か問題なのか?」

 「……例えばにーちゃんが赤ちゃん産んだとしてもおいらは別に何も感じない。けど」

 「なるほど……、それが異常であると知っている人にとっては大変なことだな。何が起きているのか知りたくなる」

 「しかもナツの使う炎の魔法はかなり強力なんだ。まだ制御できていないだけで。それでもナツの水属性の方が圧倒的に強い。強いはずなのに水魔法は使えない。こんなこと聞いたことないよ」

 「実は炎属性だとか?」

 「それはありえないんだ……」

 なるほど、コーディが今日おとなしかったのは、夏美さんの魔力に混乱しているからか。

 「じゃあ、夏美さんは炎の魔法を使わない方がいいのか?」

 「……逆だね。たくさん練習してちゃんと制御できるようにすべき。でないと……」

 「でないと?」

 「魔法が暴走するかもしれない。ナツは泥の上に建てた家みたいなもの。家が立派すぎていつ崩れるか分からない状況なんだ」

 「おいおい、それじゃ魔法は使わない方がいいんじゃないか?」

 「前例がないから分からないんだ。でも、放置しておくと確実にマズイ方に向かうよ。だいたい、おいらナツにはちゃんと魔法を教えていない。ちょっとしたコツみたいなことしか言ってないんだ。でもナツはあっという間に習得して使いこなしてる。こんなの……見たことも聞いたこともない! 制御できるようにならないと何が起きるかわからない。もしかするとナツの精神に過大な負担がかかって……廃人になってしまうかも」

 「……そんな!」

 これは、とんだ爆弾を抱え込んでしまったものだ。

 「コーディ、このことは夏美さんには内緒で。僕が何気なく訓練させるよ」

 「うん。ただ……」

 「ただ?」

 「おいら……、ナツが怖い……」

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