#02 水の少女(01)
*
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……しつこいなぁ」
とりあえず異形の生物から逃げおおせたようだ。
それにしてもここはどこなのだろう? 突然、眼の前の風景が歪んだかと思うと、見知らぬ世界に迷い込んでいたのだ。私はこの世界であいつらに追われ続けている。
見たことのないあいつらを、あえて言うなら“トカゲ人間”。時々二足で立ち上がるけれど、基本的には四足で地面を這いずり回る。動きが鈍いのと、高い場所に注意がいかないことから逃げること自体は簡単なのだが、とにかく数が多い。木の上で生活するわけにもいかず、移動しては木の上に待避するという生活をもう三日も続けている。
「この木でいいかな?」
すっかり周りは暗くなっている。とりあえず近くの木に登った。もう、すっかり木登りのベテランだ。太めの枝に座り、太い幹を背もたれにして一息つく。
「ああ、もう着替えたい!」
もう三日も制服のまま。さすがに女の子として、どうかと思う。肌身離さず持っているスポーツバッグに体操着などが入っているけれど、追われている身では着替えるのは怖い。
幸いにして、この木はいくつかの大きな果実がなっていた。味のしない、ただ水分だけの実だ。それでも今は胃に何か入れないと。
シャク。
そんな果実でも疲れ切った身体にはごちそうだ。ものすごい勢いで水分が行き渡っていくのが感じられる。
「なんで、こうなっちゃったかなぁ……」
唯一の希望は、この世界に人間は私ひとりではないということだ。私はポケットの中にあるその確証に手を触れた。一刻も早くその人に会いたい。そうすれば、きっと現状が改善される。とにかく人が恋しい。
静かすぎる森の中は13歳の女の子にとって、つらすぎる。私は思わずスポーツバッグを強く抱きしめた。
…………。
シャアアアアア!
奇っ怪な怪声で目が覚めた。すっかり周りは明るくなっている。木の上でスポーツバッグを抱いたまま寝落ちしてしまったらしい。何か変な方向にスキルが身についているなぁ。ずいぶん寝た気がするけれど、あまり疲れは取れていない。それはそうか。ぼんやりとそんなことを考えていた。
ケシャシャシャ、シャアアア!
ふっとと我に返った。真下に例のトカゲ人間たちがいるのだ。私は気取られないように身を堅くする。
早く、あっち行って!
ところがトカゲ人間はワラワラと集まってくる。あっという間に、数匹のトカゲ人間が集まって下には逃げられなくなってしまった。一匹のトカゲ人間が果実を手に(前足?)に持ちながら、何かを喋っている。
し、しまった……。
あれは私が口にした物だ。寝落ちした際に落としてしまったらしい。私のいた痕跡と考えているのだろう。ただ、相変わらず上方に注意が向かないのは助かる。このままジッとしていればやり過ごせるはずだった。
「きゃあぁぁぁっ!」
一世一代の不覚。私は大声を出してしまった。同じ枝に蛇がいたのだ。ペロペロと舌を出しながら私の方に向かってくる。同時に私の声に気付いたトカゲ人間たちが一斉に反応した。絶体絶命だ。
私は立ち上がって逃げ道を探すが、めぼしい所が見つからない。疲れ果てた夜に登ったため、そこまで配慮が回らなかったのだ。
ドン! ドン! ドン!
下でトカゲ人間たちが木に体当たりを始めた。ものすごい力だ。この太い木が大きく揺さぶられている。蛇は枝に身体を器用に巻き付けながらもこちらに進んでくる。私はとりあえず、幹の反対側の枝に移動した。
シャアアアア!
トカゲ人間がひときわ大きな声を上げ、体当たりを続行する。
「ああ……」
そして私は絶望の淵へと落とされる。私の登った木は、崖の端に立っていたのだ。枝を移動して初めてその事実を私は認識した。休むべき場所の選択が間違っていたことを思い知らされる。
ドン!
トカゲ人間の渾身の一撃で、私は大きく木から投げ出された。
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