#04 落陽の村、ビギ(02)

 奇怪な叫び声は間違いなくこちらを目指している。黒い身体に鋭い嘴と鋭い爪を持ち、アンバランスな位に大きな翼を広げている。

 「あれは……翼竜?」

 「にーちゃん、あれはルネットだ。今のおいらじゃ、あいつに攻撃する手段がないよ」

 視線を下にずらすと夏美さんは人工呼吸をやめる気配がない。僕は夏美さんのバッグを持ってコーディの中に移動し、宝石コーディを彼の定位置に設置する。

 「救助が終わるまで夏美さんを守ってくれ! タイミングを見て撤退する」

 僕は夏美さんのバッグを床に置き、唯一の武器であるお手製バッドを持って外に出ようとした。

 「にーちゃん! 荷物はロッカーに入れて!」

 うぅ、緊急事態だというのに細かい奴だ。急いでバッグをロッカーに入れて外に出ると、ルネットがこちらに向かってくるところだ。

 ギャーッス!

 コーディを威嚇するように真横をかすめていく。機動力の違いからか、こちらを嘗めているようだ。大きさとしてはコーディよりもやや小さいくらい。それでもあの巨体で高速に空を舞うのは脅威だ。僕が地面に降り立つとコーディは胸の扉を閉め腰の剣を抜いた。銀色に輝くその剣は鋭い輝きを放っている。僕は夏美さんを庇うように立ち、バットを向ける。そしてコーディが足の間に僕たちが入るように移動した。今の僕たちにできる最善の防御だ。奇声をあげ、こちらに向かってくるルネット。

 ブワッ!

 巨大な翼が巻き起こす風で僕は立っているだけで精一杯。ブンっとコーディが剣を振るうが圧倒的に遅い。ルネットのスピードに全くついていけていない。

 シャシャシャー!

 敵は勝利を確信したのか、笑うような雄たけびを上げる。

 「来るぞ!」

 翼竜のするどい爪がコーディの治りかけの身体を傷つけては飛び去っていく。剣を警戒しているため、一撃離脱の戦法を採っていくようだ。

 僕は……この場において無力だ。

 今、できる最善のフォーメーションを取るべきじゃないのか?

 「夏美さん! 人工呼吸は僕がやる。魔法で攻撃を!」

 僕がそう言った時、子供が咳き込む声が聞こえてきた。

 「げほっ! げほっ! げほっ!」

 「やった! 生き返った!」

 夏美さんの苦労のかいがあって子供は蘇生したようだ。僕は子供を抱き上げた。軽い。そして身体が濡れていることもあり、ブルブルと震えている。依然として油断ならない状況だ。見たところ僕の双子の兄妹と同じくらいの年齢だろうか。僕は子供を服の中に入れて抱き、少しでも熱が伝わるようにした。

 夏美さんは僕の前に仁王立ちし、「任せて!」と力強く叫んだ。

 こちらに向かってくるルネットは完全に舐めきっていて甘いコース取りをしてくる。夏美さんがファイアーボールを作るため、集中を始めた。それを察したコーディはガクッと膝をつき、剣を地面に刺した。上手い! ファイアーボールを隠すための演技だ。ファイアーボールの威力はここ数日でさらに増している。これなら……。

 ギャーッス!

 ルネットの雄たけびに合わせるように夏美さんはファイアーボールを放つ。スピードに乗ったルネットは慌てて回避しようとするが間に合わない。

 ズーン!

 ファイアーボールが命中した。目の前で大きな爆発が起き、翼竜の姿が視界から消えた。

 「やった!」

 僕が叫んだ瞬間、爆発の中からルネットが現れた。

 「そんな……」

 多少のダメージを与えてはいるものの、それはほんのわずか。サイズの違いは戦いにおいて絶対的である。僕たちはその現実を理解せざるを得なかった。

 「くそっ!」

 夏美さんが速度と飛距離に秀でたファイアーショットを続けて放つが、焼け石に水。状況はあまり改善していなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る