第119話 一件落着

 俺の本体はファントムの仮面を被った。

 こうすると顔が投影されている分身も仮面を被った姿になる。

 顔の造形は変えないといけないが、魔力結晶の変形はお手の物だ。

 そして、3体の分身が姿を現した。


「むっ、お前は人ではない者」


 ドラゴンには正体がばれてしまった。


「お前はファントム! なぜ3人もいる?!」


 プリンクが驚いている。


「そうか、影武者だな」


 ワイズベルは分身を影武者だと思ったらしい。

 半分当たりで、半分外れだ。

 分身は人間ではない。


「くそっ、ファントムの野郎。高みの見物してやがったな」

「ファントムの出自が謎だったけど、暗殺者集団だったのね」

「全員が名誉勇者のファントムと同じ実力があるのかしら」


「ドラゴンよ、あっしに免じて怒りを沈めちゃ貰えませんかねぇ」


 従者のファントム口調を真似る。


「この者達を赦せと言うのか」

「いえねぇ、人間には人間の法ってものがありやして」

「ドラゴンである我にそれに従えと?」

「でないとどうなるか、さっしが付いているんじゃございませんか」


「その体を解き放つというわけだな」

「ええ、その通りで」


「ここにいる人間もみな死ぬぞ」

「仕方ありません。運がなかったということで」


「くっ、我でも無事に済むかどうか分からない。愛しの我が子は確実に死ぬであろうな」

「ええ」


「仕方ない、折れてやる。我も命は惜しい。さらばだ、人間でない者よ」


 そう言ってドラゴンは巣穴に引っ込んだ。


「ファントム、でかした。金なら払う。ドラゴンを殺せ」


 プリンクが面倒なことを言い始めた。


「こいつどうしよう」


 今いる部屋にだけ聞こえるように言った。


「ライド様、昔の王の入った者、死刑と処すは法が廃止されていますわ」


 カリーナは法律を調べたらしい。


「じゃ、罪に問えないのか?」

「モンスターをトレインしたものは法律で罰せられます」

「ああ、そんな法律があるのか」

「罪の重さはトレインしたモンスターの強さによって変わります」

「じゃあ、レジェントドラゴンなら重罪だな」

「間違いなく」


 くくく、今に見てろよ。

 ブタ箱にぶち込んでやる。


「寝言は寝て言って下せぇ。金貨100万枚も積めば別ですがね」


 分身はプリンクにそう言い放った。


「足元を見やがって」

「プリンク様、命があっただけ大したものなのでは」

「掛かった費用が回収できないだろう」


 プリンクの所の店員も呆れて言葉が出ない。


「分割払いでどうだ」


 ワイズベルがそう言った。


「いやですぜ。現金払いが裏の者のルール」

「仕方ないか」


 ワイズベルはあっさりと引き下がった。

 ワイズベル達は罪に問えないんだよな。

 でも授業をさぼったから、課題と便所掃除が待っている。

 ワイズベルからパクった4ビットコンピュータは儲かっているから、まあ許してやろう。

 この4ビットコンピュータはじつによく出来ているからな。


 他の魔道具にも搭載したいと考えているところだ。


「くそっ、ファントムのいいとこ取りかよ。納得いかない」

「クラフティ、どうしようもないよ。今回は諦めようよ」

「情報を売った金で儲かってよしとすべきです」


 この3人はトレイン罪で罪に問えるな。

 ちょっと楽しみだ。


 分身ナンバー5は隠蔽魔法を使って王様の執務室にお邪魔した。


「正規の手続きを踏めといつも言っているだろう」

「ドラゴンの件が片付いた」

「殺したのか?」

「いいや、話ができる奴だから、納得してもらった」


「レジェンドドラゴン素材の武具は欲しかったが」

「なんだそんなこと。抜け落ちたウロコがあるはずだから貰ってこようか」

「それはありがたい」

「ちょっと待って」


 ウラント山にいる分身の一体を巣穴に侵入させた。


「何だ、まだ用か」

「抜け落ちたウロコを10枚ほど貰えないか」

「そんなの糞と一緒に埋めてあるから、勝手に掘り出せ。何枚持って行ってもいいぞ」


 分身なら汚くてもすぐに洗える。

 それに嗅覚はない。


 分身が土を掘ると骨の破片と魔石がたくさん現れた。

 たしかに糞らしき物もある。

 掘り進めると、50センチはあるウロコが見えた。

 じゃ頂きますか。

 ウロコを貰って、それじゃ悪いと酒樽を置いた。


「何だ?」

「ウロコのお礼のお酒」


「ふん、お前は毒を使う必要はないから、飲んでやろう」


 ドラゴンが酒樽を飲み込んだ。


「美味いな」

「気にいったか。またウロコを貰いにくるかも知れないからその時は酒を持ってくるよ」

「ああ、頼む」


 ドラゴンと友達になれそうだ。


「ウロコは貰えたよ」

「そうか楽しみだ」

「ただ、うんこ臭いけど、怒らないでね」

「そんなの何度も洗って何年か干して置けば良いだろう」


 気の長いことだな。

 まあ、レジェントドラゴン装備が手に入るなら気も長くなるか。

 どうせ加工もそうとう時間が掛かると思う。


 鋼鉄ぐらいじゃ歯が立たないからな。

 ダイヤモンドカッターぐらい、ないとな。

 ウロコの加工の依頼が来るかもしれないな。

 魔力結晶で削れれば良いけど。

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