第86話 魔力鉱山

 従者のファントムが戦っている。

 うん、隠蔽ハイド魔法を破れる人材のようだ。

 姿が見えないファントムに的確に攻撃している。


 ファントムは魔力電池式の魔道具を駆使している。

 サイレンサー付きの銃魔道具だ。

 サマンサ先生の自信作。


 殺し屋は足を撃たれて御用になった。


「酷い目に遭いましたぜ。ああ、おっかない」

「ご苦労様」

「分身がいるなら、デス魔術で援護してくれませんかねぇ」

「危なくなったらな」

「期待してますぜ」


 従者のファントムが狙われる展開は読めてた。

 あのスパイ以外にも、恐らく情報が飛び交っているだろう。

 脅威に思っている隣国は1つではないはずだ。


 頑張れファントム。

 負けるなファントム。


 魔力電池でたくさん金が入ってくるので、金貨10万枚どっかんをする。

 守備兵様、ご苦労様です。

 装備を一新してやった。

 魔力電池式の魔道具も配備してやった。


 魔力電池の顧客になってくれ。

 割引はする予定だけどな。


 魔力電池で困った問題が起きた。

 それは廃棄問題だ。

 魔力が抜けるとただの魔石になってしまい、10分の1の威力しかでなくなってしまうのだ。


 俺なら再充填できるが、1個ずつそれをやるのは面倒だ。

 そこで、魔力の抜けた魔力電池は回収して、巨大魔石にすることにした。

 こうすれば、再充填は1回で済む。


 カリーナとサマンサ先生の研究室に遊びに行こうと思う。

 何か研究材料を持っていかないといけないんだったな。


 モンスターの肉は美味い。

 これは魔力が旨味になっているに違いない。

 でないとオークの肉があんなに美味いわけがない。


 薬草もそうだが、魔力と結びつく触媒みたいな物質があるに違いない。

 研究テーマとしてどうだろうか。


「こんにちは」

「お邪魔致します」


「いらっしゃい。この前の約束を忘れてないですよね」

「もちろん、覚えている。モンスターの肉や、薬草には魔力と結びつく触媒があるはず」


「ええ、それは知ってます」

「それを研究したらどうですか?」


「かなり手垢のついた題材ですね。そういう物質の抽出は既に行われています。でないとポーションが作れないですから。ライド君はどんな視点があるのですか」

「それをこれからどうかなと」

「話になりませんね」


「サマンサ先生、未知の触媒を発見するためにデス魔術を展開すれば、触媒の物質はなんらかの効力を持つのではないでしょうか」

「カリーナ、賢い」


 という訳で、触媒を持っていそうな物が集められた。

 デス魔術を展開する。

 おお、半分ぐらい、魔力がこもったぞ。


 鉄鉱石と書かれたサンプルを手に取る。

 ただの鉄なのに魔力がこもっているな。


「素晴らしいですね。未知の薬草や未知の鉱物がたくさんあります。これの効力を研究するのは、大変ですね。色んな場所の研究機関に送って調べてもらいましょう」


「どう、研究の題材としては良かったんじゃない」

「わたくしの発案で、世の中が便利になるなんて」


 サマンサ先生は、鉄鉱石がお気に入りらしい。

 精錬したようだ。


 色々な試験をして、どうやらこの触媒は鉄を固くする効果があるようだ。


「何で鉄なんです?」

「鉄鉱石はありふれた鉱石ですからね。もうウハウハですよ」


 俺の高濃度魔力がないと鉄に魔力はこもらない。

 鉄を作って暮らすなんて勘弁してほしい。



「あの、ゴーレムを魔脈の近くで働かせたらどうでしょう」


 カリーナがまた意見を出した。

 魔脈は、高濃度の魔力の流れで、たまに魔力の噴出事故を起こす。

 噴出した高濃度の魔力は生き物を殺す。

 たしかにゴーレムなら働ける。


「ええと、できそうだけど、意味は。ああ、鉄鉱石を持っていって魔力を込めるのか。魔力電池の再充填も出来るな。これが隣国にばれると不味い」

「ええ、ライド君の魔力電池は制限が掛かっているけど、制限なしの魔力電池が作れるわね」


 かなり不味い状況だ。

 だが、こんなことはどうにでもなる。

 名誉勇者を舐めるなよ。


 隣国の魔脈近くに中継器リピーターを飛ばす。

 魔脈を捉えた。

 ふんがっ。

 魔脈の流れを変えて、地中深く沈めた。

 これを利用しようとしたら、そうとう深く掘らないといけない。


 全ての魔脈を沈めるのは大変だったが、俺は魔力の流れのエキスパート、集中すれば造作もない。

 魔脈を利用できるのは俺達が住んでいる国だけで良い。


 カリーナの動きは早かった。

 国中の魔脈がある山を買い取ったらしい。


 ゴーレムが働く、魔力鉱山ができた。


「カリーナ様、先生にも分け前を」

「どうしようかしら、あんな卑猥な物を作る先生なんて知りません」


「そんなこと言わないで。メイドの中にも愛用者がいるのでしょう。私が作らなくなったら悲しみます」

「仕方ありませんね。魔力鉱山のひとつをサマンサ先生の研究に充てます」

「やった。山ひとつ下さるなんて、もうカリーナ様としか呼べない」


 カリーナの実家のカクルド伯爵家は巨万の富を得た。

 もし、カクルド伯爵家が堕落するなら、魔脈の流れは変えて、利用できなくするつもりだ。

 今のところ、そういう兆候もない。


 慈善事業したり、善良な貴族に金銭を支援して派閥を作っている。


 分身と拡大された蝶々部隊を使って、たまにそういう調査もしているからな。

 蝶々部隊は、カリーナの直属だ。

 間違った報告など上げないだろう。

 そこは信用している。

 定期的に嘘判別魔法にも掛けているし。

 それにしても、魔脈が宝の山になる日がくるとはな。

 それも10倍力ゴーレムが出来たからだ。

 技術革新は色々と影響が大きい。

 今回はそれを思い知った。

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