第87話 極毒トカゲ
分身ナンバー1の映像。
ワイズベルがまた悪だくみしている。
「極毒トカゲを仕入れるのか」
「その毒ならライドも死ぬと思われます」
極毒トカゲはその名の通り、極めて猛毒な粘液を出すモンスターだ。
生きている本体も、死骸も、毒も、全て禁制品だ。
「マイム男爵にやらせよう」
ライド邸にカリーナが遊びに来ている。
学園にいるカリーナは分身だ。
「ワイズベルは悪人ですね」
「小悪党なんだよ。始末しても良いが、そうすると別の弟が来る。弟達を皆殺しはさすがに俺もやり過ぎだと思うからな」
「何で、ライド様の良さを分からないんでしょうね」
分かっている、糞親父は、俺が人殺しの危ない奴だと思ってるってな。
プリンクもワイズベルもクズだけどな。
だが、危険度で言ったら俺に敵う奴はいない。
そういうのを肌で感じるのかもな。
「カリーナは俺が怖くないのか」
「ええ、怖くありませんわ。武力は確かに国で一番でしょうけど、心根は優しいと思っています。力なき貴族などゴミより価値がないと父が申しておりましたわ」
そうだよな。
力がないとやられるだけだ。
ある程度の強さはないとな。
カリーナとお茶を飲みながら、分身の映像を見る。
「大変です。ユーム男爵が裏切りました。武闘派に付いたようです」
蝶々部隊のひとりが報せに来た。
裏切り者は出るよな。
「カリーナ、どうする?」
「資金援助を打ち切るだけでは舐められますね。殺し屋を送るのは愚策です。良心派として通ってますから。ではこうしましょう」
カリーナの動きは早い。
ユーム男爵の債権を安値で買い漁った。
ユーム男爵の所は火の車だから、債権を安値で手放す者は多い。
債権を持っているのは商人で、色々な物をツケで買っているのだ。
回収の見込みはほとんどないが、商人は他の貴族達を紹介してもらって、利益を得ている。
債権を買ったからには、もう首根っこを押さえたも同然だ。
新しく仰いだ武闘派が価値を見出せば、借金の肩代わりをしてくれるだろうが、どうかな?
どっちにしても安値で債権を買い取ったから、額面通りに払って貰えればかなりの儲けだ。
面白そうなので、ユーム男爵の映像をカリーナと見る。
「くそっ、裏切りがばれた。誰か密告したのか。使用人の誰かだな。カクルド伯爵かの紹介状で雇った使用人はいなかったはずだが」
「債権の支払いはどうします?」
「払えるならとっくに払っている」
「武闘派はなんと言っているのでしょうか」
「知らんと言っている。カクルド伯爵は取り立てに来るかな?」
「来るでしょうね」
「くそっ、使用人の首を残らず刎ねろ」
側近が出て行きしばらくして戻ってきた。
「大変です。使用人が金目の物を奪って逃亡しました」
どっちもどっちだな。
だが、沈む船には残りたくないのは分かる。
「くそっ、見つけ出せ。何としてもだ」
「裏の者も呼び出しに応じません」
「俺が何をしたって言うんだ。苦しいからカクルド伯爵家の支援を受けた。たしかに支援は受け取ったさ。でも暮らしていくのが精一杯の金額だ」
「必要以上は普通、出しません」
「汚職をなくして領内を改革しろとか、税金を安くしろとか、従えるわけない。汚職しているのは一族だぞ。税金を安くしたらさらに苦しくなる」
「こうなったら、仕方ありませんよ。大人しく破産しましょう」
ユーム男爵は頭を抱えたまま、動かなくなった。
そして、カクルド伯爵の役人が来て、差し押さえを始める。
ありとあらゆる物が運び出された
何にもない部屋でうなだれるユーム男爵。
「足りませんね。一族の何人かは奴隷落ちしてもらいましょうか」
役人が無情にも告げる。
「やめてくれ」
「では爵位を売りますか。それならお釣りが出ますよ」
「くっ、足元みやがって。ああ、仕方ない爵位を売る」
実質的に、ユーム男爵は貴族ではなくなった。
実質的にというのは、爵位を買った人が養子になって、新しいユーム男爵になる。
今のユーム男爵は、引退して隠居だ。
裏切り者の末路はこんなものだ。
命を取られないだけ恵まれている。
「これで良心派も引き締まりますね。汚職追放がなかなか進んでないですから」
「一族が悪いことするのが普通なのか。カクルド伯爵家は大丈夫か?」
「うちは父が厳しいですから。父は善良でもないですけど、汚職は色々と弊害があって百害あって一利なしですから」
俺はカクルド伯爵家に
うん、王都のカクルド家には汚職している者はいないようだ。
だよな。
蝶々部隊は増設されて、カクルド家の内部も見張っている。
我ながらデストピアだなと思う。
「カリーナ、汚職してた役人がいたはずだ。どうしたんだ」
「職を首にして、罰金ですね。汚職額が凄いと奴隷落ちですが、犯罪奴隷でないのでましでしょう」
人死は出さない方向らしい。
俺も見習うべきか。
殺し屋とか問答無用で殺してたからな。
これからは
いま、犯罪奴隷は、魔力のもとだからな。
引く手あまただ。
確かに殺すのは勿体ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます