第88話 山芋トカゲ

「今度欲しい品は極毒トカゲだ」

「分かった用意する」


 これは分身ナンバー2の映像。

 プリンクの所の映像だ。

 注文したのはマイム男爵。


「どうするつもりですか?」


 プリンクの所の店員が尋ねる。


「変態御用達の店のアイテムに山芋トカゲというのがあるのを知っているか?」

「知りませんよ」

「こいつは形だけは極毒トカゲとそっくりだ。だがその粘液に触れると痒くなるだけ。こいつを渡してやろうと思う」

「報復されませんか」


「男爵程度どうにでもなる。男爵が禁制品を要求したとお上に訴えれば、終わりだ」

「色と模様が違うんですよね」

「巷で流行っているピンクダイヤを知っているか。こいつを作るのには魔力染めを使う。入れ墨が痛いので、魔力染めで入れる者もいる。山芋トカゲも染められるはずだ」


 俺が開発した魔力染めの技術は公開したからな。

 プリンクも色々と知っている。


 魔力染めの職人が呼ばれ、山芋トカゲが、染められた。


「どうです。どっからどう見ても極毒トカゲでしょう」


 プリンクが揉み手しながら、マイム男爵に言った。

 いつものぞんざいな口調がないのは、騙しているからだな。


「そうだな。試しに触ってみるわけにもいかない」

「でしょう」


 プリンクが金を受け取ってホクホク顔だ。

 蛇女が呼ばれたようだ。

 カリーナにこの映像は毒だ。

 見せないようにしよう。

 分身ナンバー2は霧になって密談部屋から出た。


 それにしてもマイム男爵はころっと騙されたな。

 まあそれぐらい抜けているから、ワイズベルに利用されるんだけどな。


 さてもクラフティ達にも情報を流してやるか。

 クラフティが利用している情報屋に極毒トカゲの情報を売る。


 今回も罪には問えないな。

 プリンクのせいだが、極毒トカゲが本当に持ち込まれたら大勢に被害が出てたところだ。

 よくやったとも言えないな。

 詐欺をやっているからな。

 本当はプリンクが密告してマイム男爵から芋づる式にワイズベルまで逮捕されるのがいいが、プリンクが変な知恵を出したせいで喜劇になりそうだ。


「山芋トカゲをどうするおつもりですか?」

「分身に粘液が掛けられるだろうから、ちょっと懲らしめるつもりだ」

「物騒なことにならなくて良かったですね」


「カリーナはもう学園に通うつもりはないのかな」

「ええ、座学は終えましたし、実技はほとんど腕は上がらないと思っています」

「まあ、良いけど。分身の映像を見ていて楽しい?」

「ライド様がいる場所ならどこも楽しいですわ」


 あまり楽しそうではないな。

 仕方ない。

 蝶々部隊のひとりを呼んで映像で観光してもらおう。


 座ってばかりじゃ駄目だから、体も動かすか。

 お茶して、適度に運動して、映像を見て、雑談にふける。


 健康的な生活だな。

 ストレスもないし、危険もない。


 カリーナの姿をした分身と分身ナンバー1がサマンサ先生の研究室を訪れる。


「カップルでゴーレムですか」

「見破られたね」

「ですわね」


「ゴーレムのいちゃいちゃなんか見たくないです」

「先生、そうむくれないで。この間の研究題材は、良かったでしょう」

「カリーナさんの所が、一人勝ちじゃないですか」


「言うほど勝ってませんよ。色々抱き込むとそれだけ責任が生じます」

「でも彼氏がいるだけで勝ちです」

「ライド様は王国一の男性だと思っています」

「くっ、もう駄目。ピンクの波動に当てられた」


「魔力を帯びた鉄の名前を考えた。魔鉄だよ」


 そう言って俺は話題を変えた。

 ちょっと照れ臭かったからな。


「まんまですね。それを言いにきたのですか」

「黒い色の魔鉄を作ってきてあげたのに。物凄い魔力が込められていて、アダマンタイトより硬いですよ」

「それで何を作れば良いのですか。彼氏ができるのですか」

「剣を作ると良いかも知れません。彼氏になるならこの剣の使用権を与えましょうと言えば良いです」


「それがいいですわね。釣った魚には餌はやりませんから、剣をあげたらだめですよ」


 カリーナの身も蓋もないアドバイス。


「そんな、利用される関係は嫌ぁ」


「サマンサ先生の理想とする男性はどんな方ですか?」


 カリーナが聞いたらややこしくなりそうなことを聞いた。


「頭が良くて、優しくて、強い人、お金持ちなら、なお良いかも」


「ライド様は渡しませんよ」

「いくら私でも生徒にそんな感情は持ちません」

「私の一族に条件にぴったりな方がおられます」

「ひとりと言わず、全員紹介して」

「ではパーティを催しましょう。条件に合う男性を招待しておきますわ」


 サマンサ先生がもてないのはアレとか開発しちゃうからかもな。

 男性がアレのことを聞いたら、大抵は引くだろう。

 好色な人なら一緒に楽しむかも知れないけど。


「その目は何? アレのことを婚約者候補に言ったら赦しませんよ」


 考えが読まれている。


「そう思うなら開発しなければ良いのに。蝶々部隊のメイドの話ではまだ開発を続けているんですよね」

「仕方ないじゃない。需要があるんだから」


 仕方ない先生だな。


「アレがばれても平気な男性を見繕います」


 カリーナに耳打ちされた。

 そう、まあサマンサ先生の婚約者になる人が嫌でなければ問題ない。

 二人で存分に楽しんでくれ。


 パーティは開かれ、カクルド伯爵の一族の男性とサマンサ先生は婚約した。

 カリーナはサマンサ先生を取り込むことにしたようだ。

 まあ、やばい技術を開発しているからな。

 魔力鉱山で働かせるゴーレム開発にサマンサ先生が欲しかったのかも知れない。

 色々な利害を計算してのことだろう。

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