第83話 スパイ

 ワイズベルの所に行った分身ナンバー1がまた悪だくみを捉えた。


「隣国のスパイをこの学園に入学させたいと」

「ええ、そういう打診です」

「隣国に伝手を作っておくのも良いだろうな」

「では先方にはそう伝えます」


「ははは、留学の身元保証は、落ちぶれたマイム男爵を使うとしよう。金さえあれば、裏工作など容易い」

「ではマイム男爵には裏の者を使って指示を出します」

「王家の影には気取られるなよ」

「はい」


 俺にはモロばれだけどな。

 王様の執務室に入った。


「またお前か。正式な手続きを踏むつもりはないのだな」

「まあね。マイム男爵が敵国のスパイを招き入れるらしい」


「そうか」

「それだけ」


「ああ、敵国のスパイなどそこら中にいる。判明したスパイは脅威でないので大抵は泳がせている。たまに些細な情報や偽情報を渡したりしてな」

「破壊工作とかの前兆があったら伝えるよ」

「そうしてくれ」


 敵国のスパイを殺しても限がないので殺さないらしい。

 質問領域クエッションフィールドを国中に展開すれば皆殺しも出来る。

 だがそれは言わない。


 王は利用するつもりだからな。

 スパイに偽情報を掴ませるのは確かに効率的だ。


 ワイズベルは隣国からお金を貰うようだ。

 少し懲らしめてやりたいな。

 そうだ、クラフティ達が使っている情報屋にワイズベルとスパイの情報を流そう。

 そして、最後はあれだな。


 そうと決まったら。


「情報を売りたい」


 情報屋の前に仮面を被って姿を現した。


「その仮面はファントム。本物ですか?」

「偽物かどうかは関係ない。売りたい情報をお前が買いたいかどうかだ」

「そうですね。情報は?」

「隣国のスパイが、来る」

「それですと金貨3枚程度ですね。詳細な情報を聞きましょう」


「スパイは魔法学園に留学してくる。黒幕はワイズベルだ」

「金貨1枚上乗せしましょう」

「また、情報があったら持って来る」

「期待してますよ」


 情報屋はこれで良い。

 蝶々部隊の報告によれば、留学生は5人。

 まあ、人数は関係ない。


 さて、ゴーレムのことでも考えよう。

 魔石関節を動かす魔道具は簡単だ。

 念動の魔道具で事足りる。

 だが、魔力筋肉に比べるとパワーがない。


 制御は従来品と変わらず、パワーが低い。

 これは駄作だな。


 ただ優れている点はある。

 魔力筋肉は劣化が早い。

 元がモンスターの肉だからな。

 魔石関節はその点魔石だから、摩擦で削られたり、欠けたりしない限り長く持つ。


 念動の魔道具のパワーアップが、ゴーレムのパワーアップに直結する。

 魔力結晶か、せめて黒虹が使えれば問題ない。

 そこで、考えたのが、100倍魔力を込めた100倍魔石だ。

 黒虹は何万倍もの魔力を込めている。

 それに比べればどうってことないが、100倍程度でも、かなりのパワーアップにはなる。

 ただ、作れるのが俺しかいない。


 作るのは正直めんどくさい。

 100倍魔石を作る魔道具を作りたいが、これは悪用されると危険だ。


 なので大は小を兼ねる作戦。

 巨大魔石を100倍魔石にする。

 これなら1度で済む。


 後は巨大魔石を細かくして使うだけだ。

 高性能ゴーレムのプロトタイプが完成。

 1動作につき1つの魔道具が必要なのは今までと一緒なので、これも追々なんとかしたい。


 100倍魔石をバッタ屋の所に持って行く。


「これは赤黒い魔石。これが何?」

「100倍の魔力がこもっている」

「えっと、大々的に売り出しましょう。今までの魔道具の性能が100倍になるってことですよね」


 ちょっと不味ったな。


「もとい。10倍魔石でどうだ?」

「10倍でも十分です」


 100倍はやり過ぎたらしい。

 10倍魔石は売れに売れた。

 ただ一度魔力を使い切るともとの普通の魔石に戻る。


「100倍魔石はお蔵入りですか。私に下さいよ」


 サマンサ先生にねだられたが、考えてみれば、従来品のゴーレムが2馬力ぐらいで、魔石関節ゴーレムが1馬力ぐらい。

 それが10馬力になったのだから、十分に革命的だ。

 100倍魔石は、収納の肥やしになった。


 巨大10倍魔石は、細かく切られ、四角く加工され、魔力電池となった。

 魔力電池は売れたが、犯罪も多発した。

 武器に使う奴がいるからな。


 魔力電池に嘘判別魔法の魔力回路を組み込んだ。

 悪事には使えない仕組みだ。

 ただ、魔力回路を削られると元の木阿弥。


 魔導インクの色を魔力電池と同じ色にした。

 更に削ろうとすると、自壊する回路も付けた。

 そして、こうすることで削られないようにした。


 概ね上手くいったと思っている。

 魔力電池を使った魔道具の犯罪は減った。


 ただ、嘘判別と自壊の魔力回路が常に動作しているので、魔力消費があって魔力がなくなるまでの寿命は短くなった。

 仕方ないよな。

 冒険者達には受けている。

 3日も使えれば、便利だからな。

 遠出する人用には、大容量の魔力電池ビッグを作った。

 これを魔道具に付けると取り回しはちょっと難しいが、馬車に常備して固定砲台にするには申し分がない。


 魔力電池は輸出品にはならない。

 なので、隣国は悔しがったらしい。

 嘘判別と自壊の魔力回路が付いてない魔力電池を手に入れられないかワイズベルの所に打診が来たが、どうにもならなかった。


 魔力電池の魔力回路を印刷しているのはカリーナの所だから、あそこは情報管理がしっかりしている。

 俺も質問領域クエッションフィールドでカリーナの所のスパイなどをあぶりだして、永遠睡眠エターナルスリープしている。

 魔力電池は美味しい商売だ。

 金がみるみる貯まっていく。

 また金貨10万枚どっかんをせねばなるまい。

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