第82話 魔勁

 サマンサ先生が魔石モーターで歪な円盤を回して、顔を赤らめている。

 どうした、熱でもあるのか。


「風邪なら研究はやめて寝た方が良いですよ」

「風邪じゃないのよ」


 じゃあなんだ。

 こういう時はバッタ屋に聞こう。


「この魔道具なんだが」

「俺はこの魔道具を絶対に売らないぞ」


 えっと、歪な円盤を回すだけの魔道具を何で拒否するんだ。

 重心がぶれているのが何かあるのか。

 バッタ屋はこの魔道具の意味を分かっているらしい。


「ファントム、これってそんなにやばいブツか」

「分からないなら、分からないままが良いですぜ」


 ファントムにも分かっているらしい。

 まあいい。

 聞かないでおこう。

 どうせしょうもないことだろ。


 翌日、サマンサ先生の研究室に行くとスッキリした顔をしてた。

 うん、風邪か何かは知らないが治って良かったよ。


 いい加減にインテリジェンスアイテムを作りたい。

 コンピュータの基礎なら知っている。

 アンド、オア、ノット、そして水晶発振子。

 メモリーの基礎の回路になっているフリップフロップ回路もこれがあれば作れる。

 だが、魔力回路はアナログ回路。

 しかも、デジタル魔力回路が見つかってもコンピューターには程遠い。

 電卓が作るのが精いっぱいだ。

 何か革命的な物がないと


「ていう訳なんですが」

「素晴らしい発想ですね。この4つの回路があれば足し算も可能だと」

「でも、3つの魔力回路は見つからなくて。ノーヒントはつらい」


「まず、魔力の波形を四角にすることから始めましょうか」

「四角の波は矩形波くけいはって言うんですが、可能ですか?」

「いまの知識では無理ですね。知識は広く集めれば良い。矩形波くけいはですか、その有用性を論文に書きましょう。そうすればそれを実現しようと、研究者がやっきになるはずです」


 まずはそれで良いか。

 インテリジェンスアイテムへの道は遠い。


 やりたいことリストの魔力掌打は魔力で打撃か。

 魔力結晶で殴れば良いけど。

 それじゃロマンが足りない。


 漫画の発勁みたいにしたいんだよな。

 魔力結晶を霧にしてぶつけると風を受けたぐらいにはなるけど、相手をぶっ飛ばすほどじゃない。


 硬い敵に対して内部破壊とか最高にロマンだ。


「ふふふ、どうして男の子ってそんなことを考えるのでしょうね」


 話したらサマンサ先生に笑われた。


「魔力で物体の内部が破壊できたら恰好いいじゃないですか」

「先生はフライングソードも恰好良いと思いますが」

「まあね。でも魔勁まけいも恰好良いんだ」

「もう技の名前が決まっているのですね」


 とりあえずやってみるか。

 研究室になぜか置いてある的に向かって手を突き出し魔力を放出してみた。

 濃くやるとサマンサ先生が魔力中毒になるから、ほどほどにやった。


「ふふふ、手を添えて魔力放出で的が破壊出来たら、確かに凄いですね」

「よし今度は」


 重力魔術をやってみた。

 的がミシミシと軋む。


 これを強くすれば確かに破壊はできる。

 でも違う。

 重力球は魔勁まけいじゃない。


「重力魔法ですか」

「ええ」


「破壊力なら念動や電撃でも良いのではないですか」

「それではなんか負けた気分なんです。あくまで魔力そのもので破壊を実現したい」


 魔力って思念で色々なエネルギーに変換される。

 思念を受ける前は影響をほとんど及ぼさない素粒子みたいな物だ。

 物体を突き抜けるものな。


 これでは破壊力にはならない。

 魔力を衝撃波に変換すれば良いのか。


 衝撃波は波だ。

 圧力が強まったり弱まったりの波。

 念動なら再現できるか。

 でも違う感が半端ないんだよな。


 手を的に沿えて、魔術で衝撃波を出してみた。

 的がバシンと音を立てた。


「ええと、念動にしては音がありますね」

「圧力が高い音で攻撃してみました」

「まだるっこしいですね。内部破壊も難しそうですし」


 そうか、衝撃波は空気の圧力の波。

 魔力の圧力の波を作れば。


 魔力衝撃波を作ってみたところ、的は粉々になった。

 やった出来た。

 圧力と波が肝心なんだな。

 でも地味な技だ。


 あれって、拳法の立ち回りがあるから恰好良いんだよな。

 手を添えてぶっ飛ばしただけじゃ恰好良くない。


「できたけどいまいち」

「光と音でも出したらどうですか」


 的を新しい物に取り換えて、魔勁まけいをやってみる。

 光と音が加わって派手になった。

 でも内部破壊とか、敵の背中が裂けるみたいなことはできない。


 ああ、魔力衝撃波を内部とか背中に発生させたら良いのか。

 なるほど。

 完成だ。

 でも思ったより良くなかった。


 今日はゴーレムも見に来たんだった。

 サマンサ先生が従来型のゴーレムを見せる。

 魔力筋肉という物が従来型のゴーレムには使われている。

 これは、魔力で力を増すタイプのモンスターの肉を加工して作られている。

 魔力筋肉に魔力を流すと収縮する仕組みだ。


 当然、歩かせるのも一苦労だ。

 筋肉のひとつひとつを制御しないといけないからな。

 だからゴーレムには歩く魔道具とか、パンチ魔道具とか、1動作につき1つの魔道具が付いている。

 命令の数だけ、魔道具が必要ってわけだ。


 サマンサ先生と俺が作ったゴーレムは関節のひとつひとつを動かす。

 煩雑になっているから、命令ごとに魔道具を作るべきかな。

 でも、それをやっても既存のゴーレムより高性能とは言えない。


 何か考えたい


 今のやりたいことリスト。

 死者蘇生、クリア。

 インテリジェンスアイテム作成、未達成。

 変身、半分。

 霧化、半分。

 魔力掌打、クリア。

 ゴッドドラゴン瞬殺、未達成。

 魔石エンジン、、未達成。

 魔力デジタル回路、未達成。

 高性能ゴーレム、未達成。

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