第84話 すねたカリーナ

「マイム男爵だ」


 プリンクの所にいる分身ナンバー2が聞き覚えのある名前を聞いた。

 マイム男爵はワイズベルが汚れ仕事をやらせるために、抱き込んだ貴族じゃないか。


「プリンクだ。家名ははく奪された」

「知っているとも」

「世間話は良い。ほしい品物を言え」

「魔力電池式の攻撃魔道具を10個と魔力電池100個」

「どこかにかち込みでもするのか?」

「互いに詮索はなしにしよう」

「そうだな。品物は今日中に用意する」


 プリンクはバッタ屋に行ったが、バッタ屋は渋い顔。


「品切れだって」


 不満げなプリンクの顔。


「まあな」


「魔力電池、下さい」


 魔力電池を買いに、プリンクとは別の客が来た。


「はいよ」

「あるじゃないか」

「商人には売らないんだ。うちは卸しはしない。個人客しか売らない」

「くっ」


 プリンクは冒険者ギルドに行くと魔力電池と魔道具の購入依頼を出した。

 冒険者が何人もバッタ屋に行って、魔道具と魔力電池を買ってきた。

 バッタ屋に警告するのも手だが、魔力電池には悪事には使えない回路がある。

 まあ、注視はするが、泳がせておこう。


 スパイの手に魔道具と魔力電池が渡った。

 スパイは試し撃ちをするらしい。

 森へと入った。


「どれぐらい使える魔道具なのかな。事と次第によっては急ぎ本国に連絡を取らないといけない」

「試してみるさ」


 試す相手としてオークを選んだようだ。

 オークを前に魔道具を構えるスパイ達。


「撃て」


 魔道具から火球が飛んで、一撃でオークは死んだ。


「こんなにも性能が良ければ、野心があれば本国は危ういぞ」

「いや、魔力電池には欠点がある。時間が経つと何もしなくても魔力がゼロになってしまうんだ」

「兵站に問題ありか」

「それに作っている貴族が偏屈でな。戦争には加担しないと言い張っている」


「だが、攻めたら、その時はやられるだろうな」

「まあな」


「迂闊には攻められないな」

「ああ、本国へはそう報告しよう」


 とりあえず、魔力電池が戦争の抑止力になったようだ。

 だが、魔力電池の秘密を探り出そうとスパイは躍起になるだろうな。


 とりあえず、カリーナの実家に潜入したスパイは、永遠睡眠エターナルスリープを施した。


「カクルド伯爵家に潜入させた仲間との連絡が途絶えた」


 カクルド伯爵家はカリーナの実家だ。

 質問領域クエッションフィールドでセキュリティはばっちりだ。


 久しぶりにカリーナの顔を見に行く。


「どちら様で?」


 カリーナの態度は素っ気ない。


「分かっているけど、ライドだよ」

「ライド様なんて方は存じ上げません」

「何をすねているんだ?」


「サマンサ先生との逢瀬は楽しかったですか?」

「嫌だな、商品開発だよ」

「そう、その商品が問題なのです」

「えっ、どの商品?」

「恥ずかしくてわたくしの口からは言えません」


 えっと、心当たりがあるとすれば、歪な円盤を回してたあれか。

 参ったな。

 あれが何か分からないと、カリーナの機嫌は直りそうもない。

 思い出せ。

 どんな魔道具だったかな。

 重心が狂った物がクルクル回ってた。


 うん、ブーと音を立ててたな。

 あんなような音をどこかで聞いたことがある。

 どこでだ。

 ええと、そうだ、スマホだ。

 スマホのバイブ機能だ。


 サマンサ先生はあれを作ったのか。

 そりゃ不味いな。

 カリーナにそれがばれたようだ。

 きっとメイドとかが愛用者なんだろうな。


 どうやってなだめよう。

 素直に謝るしかないな。


「すまん。サマンサ先生があんな物を作るなんて知らなかったんだ。俺は一切関与してない。誓っても良い。あれを作ったのは今気づいたんだ」

「本当ですか」

「ああ、本当だ。どうしたら機嫌を直してくれる?」

「今後、サマンサ先生に会いに行くときは、わたくしも連れてって下さいませ」

「そんなことで良いのなら」


 さっそく、カリーナを連れてサマンサ先生の研究所に行く。


「おや、今日はゴーレムではありませんね」

「カリーナに会う時は本体って約束なんだよ」

「お邪魔しますわ」


「いらっしゃい。二人して何ですか」

「サマンサ先生、とんでもない物を作りましたね。しらばっくれても無理です。あの歪な円盤を使った魔道具です」

「だって、彼氏いないし、振動魔法は集中力が切れると使えないし。ライド君は良いですよ。可愛い婚約者がいるんですから」

「サマンサ先生のせいで誤解を受けたんですからね。あれの開発には俺は関わってないと言って下さい」

「ライド君はあれには関わってないわ」


「カリーナ、これで良い」

「ええ、赦します。ところで今日は何を開発するんですか」


「矩形波の魔法理論を提示した研究者はいる」

「ええ、意外に簡単だったみたいですよ」

「矩形波ってなんですか」


「カリーナ、四角い波だよ」

「それがどう役に立つのです」

「デジタル魔力回路の基礎なんだ。ここからが難問だな。アンド、オア、ノットのデジタル魔力回路をどう作るか」


「これも研究者に調べさせましょう」

「難しい、研究をしているのですね。てっきり」

「カリーナのメイドが考えていたようなことはしてない。まったく、誰が吹き込んだんだ」


 とりあえず、研究が一歩進んで嬉しいよ。

 3つの基本回路が出来上がっても、フリップフロップ回路は覚えていない。

 加算回路もだ。

 そこからはまた研究者が何とかするんだろうな。


 俺はアイデアだけを提示するとしよう。

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