第123話 温熱魔道具
分身ナンバー3の映像。
分身は姿を現し、バッタ屋に来ている。
「冷え性対策の魔道具を作りたい」
「いきなりだな。そんなものなら既にあるぞ」
出された商品を見る。
スリッパと手袋だ。
きっとほんのり温かいのだろうな。
分身には温度を感じる機能はないから分からないけど。
「これってずっと使っていると、皮膚が赤くなって火傷みたいにならないか?」
「なるよ。良く知っているな」
前世の電気あんかとか、電気カーペットとかそうだったからな。
まあ、温度調節をつけてやれば問題ないように見えるが。
低温火傷は気づきにくいんだよ。
寒いからちょっと強めにしたりすると、1時間もすれば低温火傷になる。
コンピュータを搭載して温度調節するのも手だが。
それとは別のアプローチもしたい。
「血液の流れを改善するようにはできないかな」
「おっかないことを考えるな。体の中を弄り回すとろくなことはないぞ」
バッタ屋にしてはまともな意見。
うん、副作用とかでない方法で、血流を良くするのは難しい。
そこまでの医学知識なんかないからね。
でもここは異世界で魔法世界。
「魔法ならではの解決方法があるんじゃないか」
「どんな?」
「魔力って暖かく感じるよな」
「まあな」
「あれって暖かくなっているんだろうか?」
「うん? そんなことを調べたことはないな」
「調べようぜ」
「まさか俺に実験台になれって言うんじゃないだろうな」
「その通り」
「かなり嫌だが、儲かりそうなんだよな。くっ、金には逆らえん」
魔力電池から魔力を放出するだけの簡単な魔道具。
温度を調べる魔法は光魔術で、赤外線を見るだけ。
なんちゃってサーモグラフィだ。
「おお、魔力には温める効果があるらしい。これなら低温火傷はしないはず」
「この温度を見る魔法って、冷え性グッズと同じぐらい儲かるんじゃ。どうやっているのか教えろよ」
「暗殺者が使いそうな魔法だから教えられない」
「くそっ、無詠唱だから、なんの魔法なのかさえ分からない」
うん、魔術はみんな本来無詠唱だからね。
詠唱はごまかしと恰好つけでやっているだけ。
こういう時は無詠唱は便利だ。
「しかし、この魔道具は種がばれるとすぐに真似されるな」
「だよな」
「無駄になるが赤い光も発するようにしようか。そうすれば赤い光で温かいと思って、魔力の放出で温かいと気がつかない」
「おう、起動しているか、してないか、一目で分かるな。一石二鳥だな」
「名前は小春日和かな」
「どうせ洒落た恰好良い名前を付けたって、温かいのとか言われるぜ」
「気分だよ、気分」
魔力放射式温熱グッズができた。
理論は分からない。
魔力が体内にあるとなぜ温かいのかは、偉い学者にでも調べてもらうさ。
小春日和の仕組みが分かってしまうと嫌だから、サマンサ先生には言わないでおこう。
「カリーナ、お土産」
「まあ、手袋と靴下ですね」
「手首と足首の所に魔道具があるだろ。起動してみろよ」
「ええ」
カリーナが手袋を装着して魔道具を起動する。
「どう?」
「ほんのりと温かいですわ。ああ、この赤い光で温めているのですね」
「違うんだよ。体内の魔力をカリーナはどう感じる?」
「温かく感じます」
「そう、これは魔力を放出するだけの魔道具なんだ」
「そんな簡単な仕組みだったのですね」
「盲点だろ。魔力が温かく感じるのは知っているけど、魔力で体を温めるなんて考えた人はいない。まあ魔力電池がなきゃこれは実現しなかった魔道具だけどな」
「わたくしが冷え性だと誰から聞いたのですか?」
「腹巻とか言ってたから、そうじゃないかなと」
「ひとつ秘密を知られてしまいましたわね。この魔道具、腕輪と足環に出来ませんか?」
「できるよ」
「わたくしは仕組みを知ったので赤い光はなしでお願いします」
まあ、手袋と靴下に魔石が付いていたら邪魔だものな。
そっちの方が良いが、仕組みがばれるまでのしばらくの間だ。
どれぐらい仕組みがばれないだろうな。
まあ、ばれても問題ないから些細なことだ。
バッタ屋が手袋と靴下の次に何を作ったかと言えば便座だ。
温かく感じる便座。
お前、日本人なのか。
まあ、分かるよ。
何が冷たいのが嫌かといえば便座っていう人がいたんだろうな。
それをバッタ屋が聞いて作っただけだろう。
どうせならウオシュレットも作れよ。
俺はバッタ屋にアイデアの図を描いて渡した。
ノズルを出すのは念動で、水の噴射は水魔法で簡単にできるらしい。
温水にするとなお良いぞとも書いた。
分身ナンバー3の映像には忙しく便器を売るバッタ屋が映っていた。
「便器がこんなに売れるなんて。だが、俺はトイレの工事は絶対にやらないぞ」
「まあ、そんなことは言わずに。大工が顔を顰めるんですよ。売ったら設置もしてくれないと」
「いくら金を積まれてもやらん」
設置を求める客を断るバッタ屋。
うん、俺もトイレ工事は嫌だ。
分身なら匂いはしないし、病気にもならないが、気分的に嫌だ。
こういう時こそゴーレムの出番だな。
今度、バッタ屋に提案してみよう。
ゴーレムにトイレ工事をさせろと。
きっと気に入るに違いない。
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