第122話 差し入れ

 分身ナンバー2の映像。

 プリンクを監視する必要はないが、こいつは笑えるからな。

 だから見ている。


「プリンク、差し入れ持ってきたわよ」


 面会室にいるプリンクに蛇女が差し入れを持ってきた。

 パン、毛布、そして、果物。


「おう、金はいつも通り」


 そう言ってプリンクの面会は終わった。

 牢でプリンクがパンを割る。

 中から出て来たのはヤスリとナイフ。


 パンはプリンクの胃袋に消えた。

 5個も食うなんて太るぞ。


 脱獄でもするのか。

 運動の時間。

 プリンクはヤスリとナイフを別の囚人に渡した。


 プリンクは脱獄しないのか。

 まあ、鉄格子を破っても、詰所が突破できるか分からない。

 さすがに剣は持ち込めないからな。

 首輪の魔道具で、魔力は全て吸い取られている。

 なので、魔法は使えない。


 武器は20センチぐらいのナイフしかない。

 パンの中に入れられるはそれぐらいだ。


 脱獄するには心許ない。

 そして、持ち物検査で、ナイフとヤスリが見つかったようだ。

 看守も命が掛かっているから、こまめに検査はする。

 俺が警告する必要もない。

 看守は間抜けではないようだ。

 腐敗看守を調べてあとで密告してやるか。

 なので、しばらくプリンクは泳がせておく。


「くっ、やっぱりな。脱獄は簡単じゃない」


 プリンクがそう言って唾を吐いた。

 プリンクは分かっていたようだ。


「毛布をくれ」


 囚人が毛布を買いに来た。


「金貨1枚だ」

「しょうがない。金は家族から受け取ってくれ。プリンクだけになんで差し入れが許可されるんだ」

「袖の下を使っているに決まっているだろう」

「だから、毛布がこんなに高いのか」

「まあな」


 プリンクは毛布と果物を囚人に売った。

 余った果物はプリンクが作ったハーレムの女達に分けられた。


「果物なんて久しぶり。このお礼は体で」

「俺も楽しまないとな。でないと死んでしまう」


 いや、死なんだろ。

 まったくプリンクはどうしようもないクズだな。


 女達とのセックスはいつするのかと思ったら、シャワーの時間だ。

 まあ、映像と音声は服を脱ぐ前に切った。

 カリーナも見ているからな。

 シャワーが終わったプリンクは気怠げた。

 女達も疲れた様子だ。

 その感じで、こいつらやったなと察した。


 男女一緒に入るのを良く許可されているな。

 袖の下を使ったにしても、まともな看守もいるだろう。

 囚人に暴動を起こさせないための息抜きの一種かな。

 まあ、聞いたわけじゃないけど。


 作業の時間は、見てて退屈だ。

 男の囚人が作っているのは焼き物。

 粘土を捏ねてろくろを回す。

 木ベラとか糸とか使ったりする。

 金属せいの道具は渡せないからこの仕事なんだな。


 窯の火の管理は囚人ではない人がやっている。

 それを分身が見て来た。


 女達の作業はポーション作り。

 薬草を煮て、漉したり、調合する作業。


 大釜で煮るので、力と根気が要る作業だ。

 うん、囚人の映像は面白くない。


 薬草に煮てた大釜からあぶくが出てパチンと弾けた。


「あつっ! 火力調節! 何をやっているの! 沸騰させたら駄目じゃない! しぶきが飛んだら熱いんだよ! 釜の中に手を入れてやろうか!」

「そんなことをいうならお前がやれ!」


 女の囚人の喧嘩が始まった。

 看守が来て、警棒で叩きのめす。

 おお、日本の刑務所より厳しいな。


 喧嘩はすぐに収まった。

 叩きのめされた囚人にポーションを飲ませて終わり。

 ポーションを飲ませるのは優しいな。

 殺したら魔力を搾り取れないから、そうなっているんだろう。


 男の囚人のほうも見る。

 喧嘩の声が聞こえていたのか、囚人がイライラし始めた。

 分かるよ。

 ろくろを回して、何か作っている時に大声を出されたら集中できない。


「ああ、もう!」


 作った壺がぐちゃぐちゃになった。


「喧嘩してた女達を犯してやる!」

「お前が大声を立てるから俺も失敗したじゃないか!」


 こちらでも喧嘩が始まった。

 警棒で容赦なく叩かれて、喧嘩が収まった。

 カルシウムが足りてないのか。

 囚人達に煮干しを差し入れてやろうかな。


 煮干しを100キロぐらい届けてやった。


「名誉勇者のファントム様から差し入れだぞ」

「何だ、煮干しかよ」

「いや意外と美味い」

「酒が欲しくなるな」

「こんなのでも食えば腹にたまるぜ」

「魚の開きとか食いたい」

「俺は獲れたての魚を塩焼きが良いな」

「馬鹿、そんなことを言うと想像しちまうだろう」


 煮干しはそれなりに好評だった。

 名誉勇者の名前を使えば、差し入れは可能なんだな。

 地位の力というのを実感した。


 差し入れはたまにしてやろうと思う。

 ファントムの設定は裏の者出身だから、囚人を手懐けるのはやりそうな行動だ。


「ライド様は慈悲深いですね」


 脇で見ているカリーナがそんなことを言った。


「いや、気まぐれだよ。カリーナも何か差し入れしてみる」

「ええ、女囚人たちに腹巻を差し入れてあげたいですわ」

「次に差し入れする時はそうしよう」


 何で腹巻なのかは聞かない。

 カリーナは冷え性なのかな。

 冷え性を改善する魔道具を開発してみるか。

 魔力式、温熱スリッパとか手袋とかかな。

 低温火傷しないような物となると難しいな。

 血流を改善する方が早いか。


 明日、バッタ屋に行って相談してみよう。

 何か良いアイデアがあるかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る