第42話 パン
カリーナとデート。
恋人繋ぎが気に入っているらしい。
あんな手の繋ぎ方で歩いているカップルはいない。
街の一角で人だかりがしてる。
喧嘩なら仲裁しないと。
「いらっしゃい。いらっしゃい。パンが美味しいよ。運が良くなる不思議なパン」
大評判のパンらしい。
縁起物なのかな。
話の種に買うか。
「ファントム」
金貨を投げる。
金貨が空中で消えてしばらくしてパンが5つ入った袋が現れた。
パンを手に取ってみたら、違和感がある。
パンの中に魔力回路がある。
大きいのじゃなくて小さいのがいくつも。
気持ち悪いパンだな。
「召し上がらないのですか?」
少し不思議そうなカリーナ。
「うん」
「わたし買い食いというのをしてみたかったのですが」
仕方ない。
「ファントム食ってみろ」
「へい」
手からパンが消えて、咀嚼音が聞こえた。
うん、ファントムの中に小さい魔力回路がたくさんできたな。
どうやら呪いの一種らしい。
呪いのパンとは物騒だ。
だが、観察していたら、泡が消えるように少しずつ小さい呪いが消える。
魔力回路が小さいので消えやすいんだな。
なるほどね。
ええと魔力回路を解析。
ああ、この呪いは筋力アップだな。
悪い効果ではないのか。
それに自動的に消滅する。
気持ち悪いと言ってちょっと済まなかった。
「どうぞ」
カリーナにパンを差し出し、俺もパンをひとつ食う。
バターの味が濃厚な美味いパンだ。
カリーナも美味しいですわと言って食べている。
「どけっ!!」
「きゃっ」
怒声が響き渡った。
列を無視して人をかき分けている奴がいる。
見たらプリンクではないか。
「おい娘、俺の物になれ。毎晩可愛がってやるぞ。そして商売の後ろ盾になってやる」
「嫌です」
全く懲りない奴だな。
「プリンク、そこまでにしておけ。間抜けのルーンを刻まれたくなければな」
「お前はライド。ちっ、ゴキブリみたいにどこにでも現れる」
「そっちこそ」
「おい、娘。考え直すなら今だぞ」
「お断りします」
「どうなっても構わないのだな。覚えていろよ」
プリンクが去って行った。
プリンクのことだから報復に来るな。
俺は分身ナンバー2と、分身ナンバー3を呼んだ。
「三つ子ですか。親切にありがとうございます」
「礼を言うなら少し待て、これから。このナンバー2とナンバー3が護衛に就く」
「そこまでして頂かなくても」
「俺が勝手にやることだから気にするな」
「そこまで言うのなら」
パンをハムハムするカリーナを見て、プリンクのことは忘れた。
カリーナは良く食べるな。
3つ目だぞ。
「ファントム、追加だ」
金貨1枚を投げる。
「買い食いっていうのは美味しいものですね」
「このパンは特別美味いような気がする」
前世で売っていても人気店になっただろう。
パンに呪いを付与するなんてどうやったんだろう。
付与魔法はまだ会得してない。
デートを終え、サマンサ先生の所に顔を出す。
「筋力アップのパンを見つけまして」
「珍しいですね。ポーションでも練り込んでいるんでしょうか」
「もってきましたから。調べてみて下さい」
「
「付与魔法の一種かと思うんですが」
「なるほど」
「身体強化は付与魔法ではないですよね」
「ええ、あれは力場を構成する魔法です。筋力が上がっているように見えますが、実際は力場です。ただし、筋肉や骨も力場で保護してます」
「そんな感じなんですね。筋力アップの魔法というのもありますね」
「あれも付与魔法の筋力アップと、普通の魔法の筋力アップは違いがあります。付与魔法の筋力アップは術者が解除しなくても消えていきます。普通の筋力アップの魔法は術者が解除しないと消えません。ただし維持には集中力が要りますが」
「サマンサ先生は付与魔法出来ますか」
「ええ、物になら掛けられます」
俺はナイフを出した。
「やってみて下さい」
「
ええと、ナイフの中に呪いがある。
パンと同じだ。
ナイフを手に取ると呪いが動き始めた。
ええと、力場の魔法だな。
身体強化と同じ感じだ。
こんな感じなのか。
じゃあパンも付与魔法だな。
ナイフの中の付与魔法はパンの呪いみたいに、少しずつ数を減らしていく。
なるほど。
付与魔法から、呪いができたのかもな。
古代魔法王国の人に話を聞いてみたい。
分かってすっきりしたが、あまり役に立たない知識だな。
付与魔法を覚えるつもりもない。
暇になったら研究しても良いかもな。
「あら、美味し」
サマンサ先生もパンを気に入ったようだ。
2個平らげて圧力計を握った。
「
「大発明ってわけでもないようでほっとしました」
あのパン屋には変わらずに今の味を続けてほしい気がする。
味的には俺もファンだから。
また買いに行こう
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