第21話 魔法祭

 カリーナ争奪戦に表立って動きはない。

 だが裏では婚約破棄しろという脅迫状まがいな物まで届いた。

 これが逆だったらカリーナはきっと病んでいただろう。

 ニワトリの首が届けられてもそんなにショックではない。

 前世では鳥をさばいたこともある。


 前世が農業科がある高校だったからな。

 俺は機械科だったが、農業科の実習にお邪魔して覚えた。


 ニワトリではなくて食える新鮮な豚の頭を寄越せと言いたい。

 婚約破棄圧力は日に日に強まる。


 エリクサーが作れるポーション職人は世界を取れる。

 どんな病気も治す特効薬だものな。


 カリーナが隠すことにしなかったのは英断だと思う。

 隠してもきっと見ていたメイドから漏れるに違いない。

 全員を口封じで殺すことなどできないから仕方ない。


 学園で見たカリーナは護衛の近衛騎士に囲まれている。

 警備は他国の王族並みだ。

 まあ、エリクサーの影響力を考えたら仕方ない。


 あの、魔力を極限まで込めた魔石は黒虹こっこうと名付けて、細々と作って密かにカリーナに渡している。

 渡すのを頼んだファントムがよくばれないなと思う。

 俺にばれるまで、ばれなかったのは伊達じゃないか。

 ファントムの隠蔽ハイドは感知系魔法には反応しないらしい。


 さすがに空気の流れみたいな魔力の流れはどうにもならないらしい。

 迂回して流すようにしているが、俺はその曲がった流れを捉えてしまう。

 感知系魔法は、迂回してしまうと、感知できないみたいだ。

 俺の魔力受流マナパリィも同じ理屈だ。

 話が逸れた。

 近況はこんな感じだ。


 ああ、そうそう。

 学園は今日から魔法祭だ。

 魔法祭というのは魔法の美しさを競うものだ。

 どういう魔法が美しいものなのか俺は分からない。

 まあ、なんか基準があるんだろう。


 使う魔法は火球ファイヤーボールと決まっている。

 全員参加なので、時間が物凄く掛る。

 1週間の日程だ。


「では、24番始めなさい」


 他の人の魔法がどんなものなのか見学する。

 ちなみに順番はくじ引きで決まる。


火球ファイヤーボール


 燃え盛る火の玉が的に向かって飛んだ。

 そして、的を少し焦がして終了。


「1点」

「2点」

「1点」

「0点」

「1点」


 各審査員10点満点で、5人の合計で決まる。

 ただの火球だと5点か。

 厳しいな。


 生徒のほとんどはお祭り気分だ。

 露店も出ているので思い思いの食べ物を食べながら他人の魔法を見てる。


「では25番始めなさい」


火球ファイヤーボール


 妖精の形をした火が的に向かって飛んだ。

 そして、的を少し焦がした。

 歓声が沸いた。


「6点」

「5点」

「7点」

「8点」

「4点」


 おお、形を変えたりすると点数が高いのだな。

 なるほどね。

 なんとなく傾向が見えた。

 点数が半分ぐらいだったのは恐らく威力不足だな。

 威力も点数のうちらしい。


 よし、俺が何をやるか決まった。

 俺の順番は3日目だ。

 もう見てても仕方ないな。


 カリーナが見えた。

 胸元には黒虹こっこうのペンダントが虹色の光を放っている。


 俺の姿が見えたのだろうカリーナは手を振った。

 俺は片手を上げて応える。

 微笑むカリーナは美しい。

 近衛騎士が無粋だな。


 俺が守ってやれたらな。

 そのうち何か考えよう。


 噂では、カリーナのポーション作りの腕はメキメキと上がっているらしい。

 Aランクポーションを作れるようになってエリクサーが作れなくても国が保護するレベルだとか。

 Aランクポーションが作れているのは恐らく、薬草変換グリーンサムでランクCぐらいの物を底上げしたのだろう。

 この間まではFランクだったのに、カリーナ頑張っているな。

 俺も頑張らないと。


 次は魔道具にでも挑戦するか。

 それとも全ての魔法を極めるか。

 いいや、それらは全て魔力操作の余技だ。

 俺の本質は魔力操作。


 新しい魔力操作の形。

 波はやったよな。

 魔力の流れの衝突とか、直線の流れコイル状の別の流れを巻きつけて循環させるとか。


 流れの衝突は流れが減速しただけ。

 コイルの方は直線の流れが加速した。

 おっ、無限死インフィニティデスが強化できるな。

 無限死インフィニティデスはレールガンみたいになって射程がさらに伸びた。


 弾丸状の魔力を回転、その周りにコイル状の魔力の循環が取り囲む。

 弾丸状の魔力は加速して飛びだした。

 鳥を狙ったら、外れてしまった。

 バネの方式だと軌道修正が効く。

 弾丸の方も魔力の繋がりを作って軌道修正できるようにすべきだな。


 いや、コイルの魔力はバネの形だ。

 段階をふたつ踏むか。

 コイルをバネの要領で延ばせられるだけ延ばす。

 そして、延ばした状態で弾丸を飛ばす。

 バネの砲身の長さより目標が近ければ、ゼロ距離射撃になる。

 遠ければ命中率は下がるが、砲身が長い分、今までより良く当たるに違いない。


 一旦バネを伸ばせば、その後は弾丸は撃ち放題だ。

 砲身の向きを変えるのも簡単だ。


 カリーナのとの交換日記を書かないと。

 何にするかな?

 炎に対する考察でも書こう。


 そして、私のカリーナへの愛はまさに青い炎の如く燃えていますと書いて締めた。


「ファントム、頼む」

「へい」


 黒虹こっこうを何個かと、交換日記をファントムに託した。

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