第14話 殺し屋

 夜中、流体把握フルイドグラスプの循環に魔力が引っ掛かった。

 寝ている時も循環は忘れない。

 とうぜん妨げられれば起きる。


 この感じはファントムではないな。

 最近、そういうのも分かるようになってきた。

 声がひとりひとり違うのと同じで、魔力の流れもひとりひとり違う。


 横に来たので、スタンガン魔道具をバチっとやる。

 灯りを付けるとナイフを握った黒装束の男が倒れていた。

 気絶してもナイフを離さないのは流石だ。

 気絶してからが本番だ。


 俺も寝ている時にもデスが無意識で放てるようにならないとな。

 もちろん、敵味方識別付きでだ。


 こいつはどうかな。

 椅子で突くとピクリとも動かん。


 どう処分しよう。

 殺しても良いが学園の寮でそれは不味い。

 ファントムを呼び出すか?


 仕方ない。

 縛って、覆面をはぎ取って私は殺し屋ですと書いた紙を貼る。

 廊下に放り出し、石を投げまくった。

 石が扉に当たったのに気づいた奴が廊下を見ると、殺し屋に気づいて大騒ぎになった。


 殺し屋の口から俺がターゲットだとはばれないだろう。

 それぐらいのプライドはあるはずだ。

 もっとも俺がターゲットだと喋られても、返り討ちにしました。

 眠いので廊下に放置しましたと言うつもりだ。


 たぶんお咎めはないだろう。

 注目されるのは良くないが、その時は仕方ない。


 翌日、順位戦を終えてから、ファントムの案内で暗殺者ギルドに出向く。

 暗殺者ギルドに所属してない暗殺者は素人だそうだ。

 ファントムがなんで暗殺者ギルドと伝手があるかと言えば、前に何度かスカウトされたらしい。


 隠蔽ハイドは確かに暗殺者向けだ。


「ひゃ、ひゃ、ひゃ、お前さんここがどういう場所か知ってきたのか」


 あばら家に入ると占い師の恰好をした婆さんがいる。

 壁の向こうに5人いるのが分かった。


「ああ、暗殺者ギルドだろう。壁の向こうに5人いるな」

「ひゃ、ひゃ、ひゃ、殺し屋を返り討ちにするだけのことはあるね」

「もし、今後も俺を狙うのなら、暗殺者ギルドを潰さないといけない」

「できるのかい」


 声から笑いが消えた。


「ああ、もちろん」

「驚いた」

「嘘判別魔法を使ったな」

「それも分かるのかい。魔法が正しけりゃ、坊やは暗殺者ギルドを心から潰せると信じている。信じるには、それに値する自信と実力があるってことさね」

「もちろんだ」

「参ったね。狂人の戯言だと一蹴したいが、どうも悪い予感がする。長年、暗殺者をやってきたわしの勘がやばいと告げている。降参だよ。今後、あんたを目標とした殺しの依頼は受けない」

「命拾いしたな」

「ひゃ、ひゃ、ひゃ、引き際も肝心さね」


 帰り道。


「親分の実力は今まで見て来て知ってますぜ。ですが、暗殺者ギルドを皆殺しにできるほどとは知りませんでした」

「今回だって寝込みを襲われたが、大丈夫だった。今後は眠っていてもデスが放てるように訓練する」

「そいつは剛毅なことで」


「いまから街を出て森の中で眠る。訓練だ」

「そいつはまた」

「近づくなよ」

「へい。遠くから見守りますぜ」


 王都から出て、シートを敷いて森で眠る。

 さて、朝になったらモンスターが死んでいると良いな。

 流体把握フルイドグラスプをしているから、最悪でも起きるでしょ。


 夜中にモンスターに起こされた。

 駄目か。


デス


 循環を断ち切られると自然にデスを放つのはどういう訓練をしたら良いんだ。

 まあ、良い。

 やってみるだけだ。


 何度も起こされては殺し、夜が明けた。

 くっ、なかなか上手くいかないな。


「本当に寝てても接近がわかるんですかい。魂消ましたぜ」

「循環が断ち切られるのは痛みが走るのと似ているんだ。だからすぐに起きる」

「攻撃に繋げられたら確かに凄いですが、寝てても攻撃できたなんてのは物語の中だけですぜ」


 うーん、何日か試してみるか。

 5日ぐらい森で寝たが、進展はなかった。

 どうやら俺は達人にはなれないようだ。


「もう諦めた。俺は達人にはなれん」

「近づくのが分かるだけで達人なのでは」


 ファントムが呆れ顔。

 いや、だって寝てて攻撃とか恰好良いだろう。

 俺の背後を取ったら自動的に反撃するとか、そういうのに憧れる。


 漫画の世界だけとは知っているけど。

 ここは異世界なんだろう。

 異世界なら許されると思うんだ。

 魔力の循環にカミソリとかを浮かせられたら。

 魔道具なら出来るのかな。


 もっとも寮では使えないけど。

 朝起きたら血まみれで殺し屋が倒れていたらさすがにドン引きだ。

 でも会得したいんだ。


「なあ、ファントム。魔力の中を浮遊するインテリジェンス・フライング・ソードとかできないか」

「そんなのができたら、ひと財産を築けますぜ」

「あのバッタ屋ならきっとできる。できると信じている」

「そいつは無茶というものでは」


 納得のいかない俺は朝一でバッタ屋を訪ねた。


「インテリジェンス・フライング・ソードはあるか?」

「まずインテリジェンス・アイテムなんて魔道具が作れたら、俺はこの店を畳んでる。一直線に飛びだすだけのフライング・ソードなら出来ますが」

「そんなのフライング・ソードとは言わない。ここならあると思ったのに」

「自衛のための魔道具が欲しいのなら結界の魔道具があるよ。ただし普通の魔力量だと1分経つとミイラになる。強度は保証するがな」

「まあそれで手を打つか」

「今回も買うんかい!」

「だって勧めてきたのは店主でしょう」


「買わないと思ったんだが。本当にいいのか。使い過ぎると死ぬよ」

「使い過ぎると死ぬシリーズは気に入っている。次も何か作られたら買わせてもらうよ」

「あんたが良いのならいいけどよ」


 結界の魔道具はそこそこ使えるだろう。

 そう思う。

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