第13話 決闘

 順位戦の初日から10日が過ぎた順位戦の真っただ中。

 学園の廊下で言い争う声が聞こえた。


「カリーナ、なんで俺の贈り物を受け取らない!」

「贈り物を受け取るのは贈られる側の自由ではないでしょうか」

「おかしいだろ。婚約者からの贈り物を受け取らないなどという話は聞いたことがない」


 言い争っていたのはプリンクとカリーナだ。


「プリンク、しつこい男は嫌われるぞ」

「お前に言われたくはない。さてはまだお前達は未練があるんだな」

「だとしたらどうだ?」

「決闘を申し込む」


 プリンクから申し込んできたが、勝算はあるのかな、


「分かった、俺が負けたら、カリーナには近づかない」

「俺が負けたら贈り物はもう送らない」

「では私は、ライド様が負けたら、贈り物を受け取ります」


「決まりだな。順位戦でやることで良いか」

「ああ、ついでに順位戦の1位も奪い取ってやる」


 プリンクは手を回したのか、順位戦の俺の相手はプリンクになった。

 いや偶然だな。

 本当にそうか。


「ファントム」

「へい」


「対戦の抽選に細工した者がいたか?」

「良くお分かりで」

「誰だ?」

「あっしがやりました。早くやりたいだろうと思いましたので」

「良くやった」

「へい、お褒めに与り光栄でさぁ」


 待機室でいつも通りで行こうと考えた。

 飲み物に手をやると。


「毒が入ってまさぁ」


 ファントムからの警告があった。

 十中八九、プリンクの仕業だな。

 こんなのが奥の手か。

 幼稚だな。


 面白そうなので乗ってみるか。


「青い顔に塗っても良い塗料があるか? 薄っすらと青くなるのが良い」

「ありますぜ」

「お前、何でそんな物を持っているんだ」


 誰だって不思議に思う。


「へい、あっしの出身は山奥の部族でして、狩に行くときに顔に赤と青の塗料で化粧をするんでさぁ」


 まるで未開の狩猟民族だな。

 まあ風習にケチをつけても仕方ない。

 塗料があるなら使うだけだ。


 俺はうっすらと青い塗料を顔に塗ってみた。

 鏡で見ると体調が悪そうに見える。

 奸計が成功したと思わせてから落とす。

 プリンクが得意満面で勝利宣言してから、やっつけたら爽快だろうな。


「くくくっ、見てろよ」


 俺とプリンクの順位戦が始まった。


「顔色が悪そうだな。棄権しても良いぞ。決闘は勝ちとさせてもらうが」

「そうか、おかしいと思った。毒を盛ったな」

「さてどうかな」

「くそっ」


「ではよろしいか。両者構えて、始め!」


 俺はわざとふらついた。


火球ファイヤーボール

「ぐがぁ」


 俺は食らったふりをした。

 実際は破壊領域デストロイフィールドで魔法は霧散され体には届いてない。

 被害は服だけだ。


「くっくっくっ、あれは思考がもうろうとする特別製。この間の借りを返す。火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール

「うわっ、熱い。体が焼ける。もう勘弁してくれ」

「はははっ、ひとの婚約者に色目を使うからだ。これでとどめだ大火球ビッグファイヤーボール


 大火球の魔法は俺とプリンクの中間で消えた。

 ぽかんと口を開いて間抜け面を晒すプリンク。


 俺は魔道具のスイッチを身体強化に合わせてから起動した。


「ぶべっ」


 蹴られて転がるプリンク。

 俺はプリンクの頭を何度も踏みつけた。


「ぐがっ、何で、毒は?」

「ほら、この魔道具を見ろ解毒の機能もあるだろ」


 実際はファントムの警告だが、ファントムの存在は隠しておきたい。


「ぐわっ、初めから効いてなかったのか。ぐがっ、ごがっ」

「そういうことだ」


 何度も激しく踏みつけにする。

 身体強化を使っているので、振り下ろす足が見えなくなるほどだ。


「ぐがっ、がっ、ごがっ」


 ダメージが一定に達したので、プリンクが外に出される。


「ダメージ蓄積により、ライドの勝ちとする」


 俺は悠々と石舞台を降りた。

 服が焼けて少し火傷になっていた所が治る。


 良い気分だ。

 カリーナに贈り物でも贈ろうか。

 花束が良いか。

 そう言えば薬草で花の綺麗なのがあったな。

 ローズハーブだ。

 薬草にならない偽ローズハーブは、ただの白い花を咲かせる。

 薬草になるローズハーブの花は虹色だ。


 薬草になるとても貴重な花だが、俺なら作れる。

 偽ローズハーブもそれなりに綺麗な花なので栽培されている。

 俺は花屋で偽ローズハーブの鉢植えを買った。


 魔力を循環させて、偽ローズハーブの中に入れ、そこでも循環させる。

 偽ローズハーブは、虹色の花になった。

 成功だ。

 100本ほどあるから、金貨100枚相当だ。

 だが、お金ではない。

 贈り物は心だ。


 事実元は偽ローズハーブだ。

 メッセージカードには偽ローズハーブが虹色に色づきました。俺の才能も偽から本物へと花開けました。あなたと俺の間の思いもローズハーブのようになれたら良いと思います。


 カリーナからの返礼の品は鍵付きの交換日記だった。

 表紙にはローズハーブが書いてあり、中を開くと、ローズハーブの押し花のしおりが挟んであった。


 私を迎えにきてくれる日を心待ちにしておりますとある。

 カリーナの家はいま揺れているらしい。

 プリンクとの婚約はなかったことにして、元の鞘に戻すという動きがあるらしい。

 実情が事細かに書かれていた。

 なるほどね。

 カリーナを取り戻す日も近いようだ。

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