第19話 本当の最強に

 なぜか王様に謁見することになった。

 なぜに?


「国難を排除してくれたことを嬉しく思う」


 あの程度で国難なんだ。

 たかがオーク2万だぞ。

 国軍を集めれば2万ぐらい容易いはずだ。


「ははっ、ありがたき幸せ」


 マナーなんかろくに習ってないから、こう言う他はない。


「褒美を取らすが何がよい?」


 褒美ねぇ、後継ぎになぞなりたくない。

 領地経営はつまらなそうだからな。

 あれしかないか。


「色々と手違いがありまして、半日、死んだと家に伝わったのです。それでなんというか婚約がなくなったことになりまして、元の鞘に戻したいのです」

「ふむ、喪が明けるぐらいは婚約の取り消しなどすべきではないな。1年ぐらい待ってやってもよかろうに。これではお家簒奪ぐらいみっともないことだ。よし、わしが元の鞘に戻れるように取り計らおう」

「ありがたき幸せ」


 カリーナが再び俺の物に。

 やった。

 握り拳を握り締めた。

 プリンクはうるさいだろうが、そんなのは関係ない。

 カリーナ以外の物ならそれを賭けて決闘に応じても良い。


 寮に帰ると、さっそくカリーナが来てた。


「やっとですね。家中も元の鞘で一同一致しました」

「王様の一言が大きいよね」

「ええ、そうですわね」


 カリーナがもって来た交換日記にも喜びがつづられていた。

 寮の食堂に行くとみんなが噂している。


「きゃっ、略奪愛だって」

「素敵ですわ」

「そのうち吟遊詩人の歌になりますわ」

「半日の報で婚約取り消しは確かにないですわね」

「金に物を言わせたのに違いありません」


 プリンクが悪者で、俺がヒーロー扱いされている。

 オークのスタンピードを対処したのも効いているんだろうな。


 噂は別に良い。

 技を考えないと。

 俺ができないのは、魔力を魔法に変換することだ。

 無色の魔力に色を付けられないという感じだ。

 魔力に属性を付けられたらな。

 そうすれば回復もどんな技も可能なのに。


 そうだ。

 魔力に属性を付ける魔道具なんてどうだ。


 俺は食事を終わらせて、サマンサ先生の研究室の扉を叩いた。


「はーい。どうぞ」

「あの、前の注文の魔道具はキャンセルで。それで、魔力に属性を持たせる魔道具って出来ますか」

「ええと、魔法になってない魔力に属性を持たせるのですか。難しいですね。特定の魔法になら変換できますが、意思に応じてですよね」

「無理なら良いです」


 がっくりきた。

 だよなそう簡単にはできないか。


「面白い研究テーマなのでやってみます」

「お願いします」


 やはり、他力本願はいけない。

 自分でなんとかしないと。


 カリーナからの交換日記を読む。

 かなり前のページだ。

 それが偶然、目に留まった。

 あなたへの想いは波のよう。

 何度も私の心に打ち付けては、疑念の砂をさらっていく。

 うんうん、波ね。

 そうだ。


 魔力操作で循環させることだけをやってきた。

 とにかくスピードと量を重視してきた。

 あながち間違ってはいない。

 だが、流れというのは速さと量だけじゃない。


 電気の流れでいうと波なんかもある。

 波はいいね。

 難しい魔力操作だ。

 これをやって何も効果が出なくても修行にはなる。


 最近修行がマンネリだったんだよな。

 波ってことは強弱だよな。

 魔力ポンプは強くできる。

 これに心臓みたいに鼓動を加えれば。


 難しいけど出来ないことはない。

 さっそく部屋のベッドの上で座禅を組み、魔力波をやり始めた。

 ゆったりとポンプが入ったり切れたりする。

 なだらかな波ができた。


 これを一分間に60回をまずは目指そう。

 ぐぬぬ、難しい。


 思考の速さでは限界がある。

 そんな早くはビートを刻めない。

 思考で魔力ポンプを制御しているからだ。

 魔力ポンプにビートを刻む振り子のイメージを取り付ける。

 カッチンカッチンとリズムを刻み、それに従ってポンプが動く。

 よし、リズムをもっと短く。


 段々早くなり、思考で追えなくなった。

 その時、波長を持った魔力が体から出て、火を灯した。


 やった。

 魔法を魔力操作で使えたぞ。

 波長が魔法の肝だったのか。

 普通の人は無意識にやっているのか、何かの器官でやっているのだろうな。

 俺はそれが欠如している。

 でもできた。

 これであらゆる魔法ができるはずだ。

 苦手属性などもない。


 これから、どの周波数がどの魔法か突きとめないといけない。

 回復魔法などはパッと見では分からない。

 そうだサマンサ先生に魔法の周波数計を作ってもらおう。


 まだ起きているかな。

 サマンサ先生の研究室の扉を叩いた。


「はーい」

「ライドです。度々すみません」

「いえ良いですよ。今度は何ですか?」

「魔法ってのは魔力の波だと判りました。それでその波の周期を測る魔道具を作って欲しいのです」

「大発見じゃないですか。魔法は魔力の波。そんな学説は初めてです。これなら、魔力に属性を持たせる魔道具もできるかも知れません。とりあえずは魔力感知マナセンサーの魔道具を作ればいいのですね。周波数を色とかで表現するような。簡単にできますよ」


 魔法の周波数を調べる魔道具ができ上がった。

 さっそくサマンサ先生に魔法をやってもらい色のイメージをリストにする。


 微妙な色の違いとかもあるが、大体でも分かれば大きな前進だ。

 俺の出す魔力の色と比べる。

 回復、結界、身体強化、解毒、火球、水球、石弾、電撃、収納の魔法は物にした。


 魔道具はもう必要ない。

 ないが、殺したくない時にスタンガン魔道具は便利なのでこれはこれからも使おうと思う。

 それと魔力に属性を持たせる魔道具はキャンセルしない。

 思うところがあるからだ。


 技は変換器コンバーターとした。

 これは普段、詠唱する必要はないな。

 心の中で唱えるだけだ。

 変換器コンバーターを使った魔法は無詠唱だ。

 サマンサ先生に羨ましがれた。

 無詠唱も伝説だからな。


 もう大抵の困難には打ち勝てる気がする。

 後は趣味の領域で技を増やして行こう。

 カリーナとの婚約も嬉しいが、魔法が使えるようになったことはそれと同じぐらい嬉しい。

 カリーナの言葉がヒントになった二人の成果だ。

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