第29話 決闘と人助け

「決闘を申し込む」


 プリンクから4回目の決闘を申し込まれた。

 おいおい、プリンクはなんか変な物でも食ったか。

 勝算がないことぐらい幼稚園児にも分かるだろう。


「金貨でいいな。何枚賭ける?」

「400枚だ」


 倍プッシュなんだな。

 よっぽど自信があると見える。


 また、商業ギルドで証文を作った。


「では、これより。プリンクとライドの決闘を始める」


 審判は先生ね。

 怪我をしない例の結界内で戦闘は始まった。


「いままで、この時を何度夢見てたか」

「御託は良いよ。掛かって来い」


デス、あれっ札が発動しない。お前、札を偽物にすり替えたな。汚いぞ」


 えっと、なんのことだ。

 意味が分からない。

 ファントムが何かしたのか?

 それならひと言あるだろう。


「知らないんだが」

「しらばっくれるな。ワイバーンも倒せたんだ。お前がワイバーンより強いわけないだろ」


 俺はワイバーンより強いし、あの時ワイバーンを倒したのは俺だ。

 こいつ試し打ちして成功したから、自信満々だったのか。

 この札は最初から偽物だったのだろう。


「こいつを食らうか」


 スタンガン魔道具をチラつかせた。


「ひっ、こ、降参だ。だが厳正な捜査を要求する。不正があったんだ」

「もう、好きにしろよ」


 どうなるかなと待っていたら、商業ギルドから、プリンクが証文の内容を果たさないと言ってきた。

 決闘をなかったことにしたいらしい。

 そんなわけ行くかよ。

 商業ギルドは決闘に不正はなかったと言っているし、不正があったとしても、貴族同士の戦いではよくあること。

 防げなかったプリンクに非があるとなった。


 証文が不良債権化したな。

 とりあえず、商業ギルドは今回のことで、プリンクの商業ギルドとの取引を中止した。

 商業ギルドもプリンクにだいふ貸しているらしい。

 ギルドが取り立てに行ったら、金が無いの一点張り。


「困ったものです。このままだとプリンク様が伯爵をお継ぎになったときに無理やり取り立てることになります」


 商業ギルドの職員に愚痴られた。


「伯爵家は俺の実家でもある。俺がプリンクの借金を買い取ろう」

「よろしいので」

「ああ、いざという時は父上に泣きつくさ。爵位が継げない見返りにプリンクの債権を買い取れと迫るつもりだ」


 そこまで待つつもりなどない。

 プリンクが弱った時に叩きつけて毟り取るつもりだ。

 払えないならプリンクは奴隷にでも落とす。


「親分、プリンクは闇金から金を借りて遊んでるみたいですね」


 ファントムが報告に来た。

 スペシャルコースはまだやっていたのか。

 成長しない奴だな。


 プリンクの借金を買い取ってかなり散財した。

 黒虹こっこうで作ったエリクサーの代金を半分貰おうかな。

 でもカリーナにそれを言うのはちょっと格好悪い。


 いっちょ、謎の治療師でもやって見ますか。

 黒虹こっこうでエリクサーを作る。

 なに、材料を用意して薬化メイクメデシンの魔法を使えば良いだけだ。

 この魔法の魔力波長は習得済みだ。


「金持ちで危なそうなのはここですね」


 ファントムの案内である邸宅の前に立つ。

 俺は魔力結晶を纏っている。


「エリクサーを持っている」


 門番に告げた。


「偽物だろう」

「効果が無かったら金は要らない。それに偽物なら俺を殺しても構わない。そこまで言っているのに試さないのはもう俺も知らん」

「分かった」


 門番が報せに行き、俺は寝室に通された。

 死臭に似た匂いがする。


「飲ませろ」


 医者と思われし人がエリクサーを寝ている老人に飲ませる。

 老人は意識を取り戻した。

 そして立ち上がった。


「さあ、命の値段にいくらつける? 金額は少なくても良い。ただしその場合は次はない」

「金貨200枚を払ってやれ。わしの命なんてそんなものだろう。もう引退しておるしな」

「よい取引ができた。紹介状を書いてくれるとありがたい。他の病人の家も訪ねるつもりだからな」

「それぐらいならやってあげよう」


 何件か回って、プリンクの債権分は稼いだ。

 帰ってくるとゲイリック王子に絡まれた。


「エリクサーの横流しか。何を考えている?」

「なんのことかな」

「また惚けるのか? エリクサーを作れるのはカリーナ嬢しかいない。横流しができるとしたら貴様だけだ」


「証拠は?」

「ない、近衛もエリクサーの受け渡しは見てないと言っている。昼も夜も警護している。どうやったのだ」

「知らんな。俺は疑われている方。やり方を推理するのは疑う方の役目だ」

「くっ、まあいい。エリクサーを貴族が独占していて、平民から不満があったところだ。ガス抜きになったからちょうど良い」

「じゃあな」


 取り巻きが、俺の気安い応答に気色ばむ。

 ゲイリック王子はそれを制止した。

 俺を刺激して勇者を目指されたら厄介だとでも思っているのだろう。

 自分の派閥に組み込みたいという欲もあるのかな。


 王子の派閥に組み込まれたら、どういう仕組みでチートしているのかは聞かれる。

 そうなったら、惚けることは無理だろう。


 それは避けたい。

 それにしても、エリクサーを庶民が使えなくて不満が溜まっているのか。

 下手するとカリーナが憎まれるな。


 金持ちだけでなく、人物を見て治療してやる方が良いな。

 特に子供などは治療してあげたい。


 組織が欲しいな。

 エリクサーを作るのはそんなに手間じゃないから、投薬を手伝ってくれる組織が欲しい。

 とりあえずファントムにやらせよう。

 俺が授業を受けている間は暇だろうから。

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