第30話 エリクサー量産
俺ならどんな魔法回路も作れる。
ただし、俺が魔力波長を変えて再現できるという前提だが。
何か作ろうかなとも思ったが、お金儲けの効率が良いのが思いつかない。
俺には発明家の才はないらしい。
蘇生の札を作ろうと思ったが、厄介事を招き寄せると思う。
やるなら、カリーナに渡して、カリーナの功績にするのだが。
そうすると俺への婚約破棄圧力がますます強まる。
眠らせておくには惜しい技術だ。
当たり障りのない物品修復の札を作ろうか。
これを作れば、後世の人が回復魔法と電撃魔法を組み合わせるだろう。
そうすれば、俺に実害はないし、技術を眠らせることにもならない。
物品修復の札ね。
便利だが、生きた人間は駄目だし、物の欠損は治らないんだよね。
接着剤みたいな効果だ。
魔法は失伝してない。
だから、札はそれほど便利じゃない。
まあ、物品修復魔法が苦手な人には札は売れるだろうけど。
物品修復の魔力回路を公表する一択になったが、どうしよう。
名声が上がると勇者が近づく。
サマンサ先生が公表してくれればいいけど、きっと共同研究にしましょうと言うに決まっている。
隠れ蓑が必要だ。
そうだファントムの仕業にしちゃえ。
「あっしがですかい」
「ああ、仮面をつけて魔道具ギルドに行って、物品修復の魔力回路を公表する」
「まあ、構いませんけど。あっしはいざとなればまた名前を変えてドロンしまさぁ」
俺は客を装って魔道具ギルドに入った。
そして、書類を書くふりをして机に向かう。
しばらくしてファントムが入ってきた。
完全に場違いな雰囲気を出している。
ファントムって裏の住人という雰囲気があるんだよな。
顔を隠していてもそれは拭えない。
仕草と視線だろうか。
ファントムがカウンターに近寄った。
「物品修復の魔力回路を公表したい」
「いくらでですか」
「ただでだ」
「その魔力回路はもしかして工房から盗みましたか?」
「悪人からだったが不味かったか」
「ええと、処刑が決まっているような悪人なら、グレーですね」
「そういう悪人からだ」
「分かりました。魔道具ギルドで預かります。掲示板に貼って、真っ当な工房がうちの秘伝だと言わない限り、公表することにします」
「頼んだぞ」
そういうとファントムは消えた。
消えることなんかないのに。
「きっ、きっ、消えた」
「驚くことはないわ。
驚いている受付嬢に年上の受付嬢をそう言って落ち着かせた。
まあ、いいか。
さてと、エリクサーの投薬組織だな。
ファントムは信用しているから良いとして、裏の者だとやらかしそうだ。
かと言って、堅気の奴にこういう任務は難しいだろう。
医者に卸せればいいんだが。
店を作って大々的にやるのも不味いような気がする。
俺はこの悩みをカリーナとの交換日記に書いた。
そうすると、カリーナの実家のカクルド伯爵家が、御用商人に卸すという。
カリーナも貴族だけでエリクサーを独占する今の状況は不味いと思ったらしい。
俺にだって作れたぐらいだからな。
さすがに毎日100個をただでというのはカクルド伯爵家が遠慮した。
うほっ、毎日金貨500枚。
お金大しゅきだが、さすがに使わないわけにいかないよね。
ローンで大邸宅を買った。
金の出所はカリーナの持参金の前渡しということになっている。
商業ギルドはその説明を信じてくれて、ローンを組んでくれた。
プリンクの債権を買った実績が役に立っている。
カリーナしかエリクサーが作れないというのはなしの設定にするらしい。
その鉱山を見つけたのはカリーナで所有権はカリーナにあると。
上手く考えたものだ。
カリーナを殺しても鉱山は手に入らない。
拉致とかそういうのも手に入る確率は少ない。
鉱山の権利を人質と交換だとやっても、その時は別に良いが。
犯罪で取られたと裁判したら、拉致した側は負ける。
嘘判別魔法があるからね。
カリーナを娶っても鉱山の権利が手に入るということにはならない。
持参金としては大きすぎるから、実家の誰かに鉱山の権利は残すだろう。
俺への婚約破棄圧力が弱まったな。
事実、鉱山のことを発表してから、嫌がらせがピタリとやんだ。
エリクサーの上級ポーション並みの値段で手に入るようになった。
平民のエリクサーへの渇望も弱まった。
「ファントム、貧しい病人にエリクサーを投与して回れ」
「へい」
「投与するのに悪人はやめろよ」
「へい、そういう情報はよく分ってますんで」
ファントムが貧しい人にエリクサーを投与して回るという噂を流した。
俺とファントムが表裏一体だと疑っているのはそれなりにいる。
スタンピードでオークを派手にやったし、郊外実習での件があるからな。
ただ、投与は俺が授業を受けている時間だ。
分身でも使わないと無理だ。
俺とファントムの関係は否定も肯定もしない。
そういうスタンスで行く。
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