第47話 海

 スキル屋は徐々に客が増えて来て、大繁盛になった。

 手軽だしこれと言った副作用もない。

 強いて言えば、起動してない時に維持に少し魔力を取られるぐらいか。

 スキルは特に冒険者達に好評だ。


「聞いた?」

「えっ何?」

「スキル屋ってのがあるらしい。場所は下町の超三流の魔道具店なんだけど」


 魔法学院でクラスメートが噂しているのを、分身ナンバー1が聞いた。

 ここまで噂が広がったか。


 こちらの希望としてはゲイリック王子かスェインが客としてきて、スキルで実力を上げて勇者になることだ。

 そうなれば勇者の称号に悩まされなくなる。

 活躍のし放題だ。

 活躍を狙っているわけじゃないけど、俺の場合、何かやると活躍になっちゃう場合が多いから。


 スキル屋の施術は1スキルにつき大銀貨1枚だ。

 小金が貯まったのでカリーナとデートする。

 カリーナはグラビアのバッグを手に持っていた。

 俺がプレゼントしたものだ。

 もっとも女性用のバッグにはあまり物が入らないから、重力軽減は必要ないけど。


 流行りだからね。

 街を歩くとカリーナのバッグを羨ましそうに見る女性が何人かいた。

 カリーナはそれを見て得意げな顔をしている。

 やっぱりそういう視線は嬉しいんだな。


「どこに行きたい?」

「グラス魔道具店に行きたいです。回復のスキルが欲しいのですの。両手に付けてもらうつもりです」

「今日スキル屋は休みだよ」

「ええっ、残念です」


「目をつぶってごらん」


 カリーナは素直に目をつぶった。

 俺はカリーナの両手を手に取るとスキルを植え付けた。


「もういいですか」

「スキルを付与したよ」

「えっ、じゃあスキル屋はあなたでしたの」

「まあね」


 カリーナは両手から何度も回復の光を出して悦に浸った。

 よっぽど嬉しいんだな。

 魔法と併用するとブーストできるけどね。


「行きたい所がなくなってしまいましたわ」

「楽しみを奪ってしまったかな」


「そうですね。何か楽しい魔法でもして下さらない」


 楽しい魔法か。

 考えていなかったな。

 腰に差した魔力結晶の剣を子犬に変えて、はしゃがせるか。

 いまひとつ芸がないな。


 昼間に花火は無粋だし。

 そうだ、空の散歩と行こうか。


「ファントム、飛ぶ座席を」

「へい」


 ファントムが飛ぶ座席を収納魔法で出す。


 ああ、スキルに収納魔法を忘れてた。

 これはできない人が多くて究極便利魔法なのに。

 今まで思いつかなかった。

 ファントムがいつもそばにいて物を出してくれるせいだな。

 まあいいや。


「さあ乗って」


 俺とカリーナとメイドとファントムが座席に乗り込む。

 そして空へと舞い上がった。

 景色の良い所まで行きたいな。

 海を目指すか。


 時速100キロほどで飛ばすと次第に海が見えて来た。

 風に潮の匂いが混ざり始める。


 砂浜に着陸。

 ふわふわ結界を広げた。

 くっ、食べ物がない。


「ファントム、お菓子と飲み物はあるか」

「ございます」

「でかした」


 金貨1枚をファントムに投げる。

 モンスターが海の中にいるので泳ぐつもりはない。

 水着とシャワーがあれば、泳ぐのもいいけどね。


「海は初めてですわ。あんなにも水があって平気なのでしょうか。陸地が飲み込まれそう」

「心配しなくて良いよ。地震でも起こらないかぎり海に飲み込まれたりはしない」


「あら、貝殻が落ちてますね」

「一緒に拾うか」


 カリーナと二人、貝殻を拾う。

 カリーナは嬉しそうだ。

 海が初めてなら貝殻も初めてか。


 だいぶ、時間を潰したな。


「さて、デス


 魚が浮かび上がった。

 何も言わなくてもファントムが食えそうな魚を集めてくれた。


「おっ、毒を持っているのがいますぜ」

「ファントムは意外に物知りだな。海の近くで暮らしていた時があるのか?」

「掏りの稼業は根無し草でして。それに荒稼ぎすると居づらくなっちまうんでさぁ」


 お土産は魚と貝殻か。

 素朴だな。


 俺はひと際でかい2枚貝の貝殻を何かに加工しようと思った。

 帰ってバッタ屋に行くと。


「助かった」


 冷や汗を流しているバッタ屋がいた。


「何かあったか」

「あったかじゃないよ。この客の数を見て。スキル屋はまだかという苦情でもう大変です」

「休むって言ったじゃないか」

「客にそれは関係ないですよ。とにかく客を捌いて下さい」

「おう」


 おちおち休めないな。

 休みの日は札にすれば良いのか。

 それならバッタ屋で対応できる。


技能製作スキルメイカー。ほらよできた」

「スキル屋さん。貝殻とは珍しい物を持っているわね」

「海に行って来たんだ。その記念だよ」

「それだけ大きい貝殻だとオルゴールが入りそうね」


 女性の客だとこういう発想か。

 貝をバカっと開けたらオルゴールが鳴るのか。

 洒落ているな。

 採用。


 貝殻はオルゴールに加工された。

 そしてカリーナへ贈られた。


 スキルのリストを作ろう。

 身体強化フィジカルブースト

 回復ヒール

 結界バリヤー

 生水ウォーター

 病気治療キュア

 千里眼クレアボヤンス

 収納ストレージ

 警告音クラクション

 

 この8つだな。


 警告音クラクションは遊びと実用と二つを考えて追加した。

 防犯にもなるし音楽みたいに鳴らしても良い。

 音程を変える機能も盛り込んである。


 あまり流行らないだろうけど、いろどりのひとつとして良いだろう。

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