第89話 痒い

 分身ナンバー3の映像。

 クラフティ達が映る。


「極毒トカゲは不味い。強奪する時にケースが割れて触ったら、お陀仏だ」

「ええ、でも密告するぐらいじゃ、手柄にならない」

「褒賞金も出ないわよね」


「綿密な計画が必要だ」

「取引相手を名乗って横取りするのはどう。そうすれば王に提出するまでに毒が採れる。採った毒の使い道なら色々と考えられるわ」

「良いわね。毒を高値で売ってもいいし、やりようはいくらでもある」


 悪だくみが終わったクラフティ達が出陣。

 覆面を被ってだ。


 魔法学園の校門でクラフティ達がマイム男爵を待ち受ける。

 のこのこやって来たマイム男爵。


「俺が取引相手のワイズベルだ」

「取引相手の名前は聞いてないが。合言葉を言え」


 だよね。

 ワイズベルが名前を出してマイム男爵と取引するはずがない。


「とにかく極毒トカゲを渡せ」

「お前ら、どこの者だ」


 もみ合いになりケースが落とされ、割れた。

 逃げ出す山芋トカゲ。

 それを分身ナンバー3がむんずと掴んだ。

 掴まれて粘液を盛んに出す山芋トカゲ。

 分身を構成している魔力結晶には毒物は効かない。

 山芋トカゲを握りつぶした。


 さて、お仕置きタイムだ。

 分身ナンバー3は霧になって、クラフティ達を包む。

 霧には山芋トカゲの粘液がたっぷり含まれている。


「痒い」

「くっ、手が届かない」

「痒い。痒い」

「痒いぞ。誰か」


 手の届かない所を掻こうとして転げまわるクラフティ達。

 霧は魔法学園に侵入して、ワイズベルを包んだ。


「何だ? 痒い。新手の毒攻撃か」


 ワイズベルものたうち回る。

 そして霧は、プリンクの所に行って、プリンクを包んだ。


「痒い。痒っ、堪らん。誰か掻いてくれ」


 プリンクものたうち回った。

 山芋トカゲは考えようによっては劇物だな。


 邸宅の執務室で分身からの映像をカリーナと見ていた。


「わっはっはっ、あの転げまわりようと言ったら」

「少し可哀想」

「毒を商おうとするからだ」

「それもそうかもですわね」


 毒を使おうなんて考える奴は赦さん。

 忌むべき行為だ。

 魔力毒を使うお前ほどじゃないと言われそうだが、知らん。

 俺は良いんだ。


 俺とカリーナの分身がサマンサ先生の研究室に入った。


「もう、山芋トカゲの解毒剤を作れなんて、余計な仕事を」

「忙しそうですね。ノックしたんですが返事がなかったので」

「お邪魔いたします」


「山芋トカゲで悪戯した人がいて、この学園にも犠牲者が出たんですよ。ワイズベル君なんて全身です。彼の体を掻こうとして、粘液が付いた者が多数」


「でサマンサ先生の所に依頼が来たと」

「ええ、それと校門の所にいた怪しい男女が4人。こちらも全身粘液べったりで手の施しようがありません、とりあえず触らないように手袋して助けたみたいですけど」


「山芋トカゲの痒み成分は、魔力と結びついているのかも知れません。魔力を枯渇させてみては」

「やってみますね」


 サマンサ先生が出て行ってしばらくして帰ってきた。


「どうでしたか」

「魔力を枯渇させたら、我慢できる程度になったそうです。付着した粘液は、手を使わず魔法で除去してます。皮膚から体内に染み込んだ分はどうにもならないですが、そのうち痒みも治まるでしょう」


 あの粘液は皮膚に浸透するようだ。

 極毒トカゲ並みにおそろしい奴だな。

 国王に言って禁制品にしてもらわないと。


「皮膚に浸透する効果は残して、それに痛みを取る効果をプラスしたら痛み止めができますね」

「そんなことなら簡単です。浸透する効果と痒みは別の物質のようですから」


 薬になるのか。

 なら飼育は許可制とかにするべきだな。


「痒み止めも作れるのでは」

「そうですね。かゆみ止めに浸透する効果を加えれば。この薬剤はヒット商品になりそうな予感がします」


 サマンサ先生はさっそく、浸透するかゆみ止めを作って出て行った。

 そして、ニコニコ顔で帰ってきた。


「効果あったんですね」

「ぼったくってやりました。痒みを止められるなら何でもすると言うものですから。とくにワイズベル君は大金を払ってくれました」


 誰か忘れていると思ったら、プリンクか。

 プリンクの治療は誰もしてないな。

 分身ナンバー2の映像を見ると、プリンクは体中を氷で冷やしてた。

 冷やすと痒みがましなのか。


「サマンサ先生、プリンクっていう商人がいるんですが、彼も山芋トカゲで苦しんでます。ぼったくってみては」

「あのプリンク君ですか」

「ええ、退学したプリンクです」

「そうですか在学中は迷惑を掛けられましたから、その迷惑料を含めてぼったくりましょう」


 今回の事件に関わった者は全員、悲惨な目にあって散財したな。

 良い気味だ。


 それにしても、かゆみ止めと痛み止めは、売れるんだろうな。


「サマンサ先生、さっきの二つの薬、カクルド家から売り出しませんか。悪いようにはしませんから」


 カリーナがさっそく粉を掛けた。


「構わないですよ」


 二人は利益の取り分で話し合い始めた。

 プリンクが忘れ去られている。

 サマンサ先生に思い出させてやる義理もないな。


 プリンクよ、耐えるのだ。

 痒みで発狂した世界で最初の男になるかもな。


「先生は、これからプリンク君の所に行ってきます。研究室の戸締りをしておいて下さい」


 戸締りしている最中にブツを見つけてしまった。

 れいのブツだ。

 ブーンと音を立てるあれだ。

 俺はカリーナの目に入らないように、そっとサマンサ先生の机にしまった。

 カリーナは分かってますと言わんばかりに微笑んでた。


 これはアレが生徒に見つかって、噂になるのもそれほど掛からないな。

 サマンサ先生、強く生きて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る