第75話 マッドサイエンティスト

 ふむふむ、ワイズベルの次の企みはマッドサイエンティストに発明をさせて、成果を奪い取る。

 そして、そのマッドサイエンティストを成敗して名も上げる。

 つくづくマッチポンプが好きな奴だ。

 考えが硬直しているのかも知れない。


 いくら賢いとは言え、所詮ボンボンだからな。

 俺ならワイズベルの立場なら3つぐらい保険を掛けるだろう。


 蝶々部隊が、マッドサイエンティストの屋敷を突き止めた。

 どんな研究かと言えば儀式魔法だ。

 大勢の人間から力を集め一人の超人を生み出す。


 ただその方法が淫魔法の応用なんだよな。

 淫魔法そのものではないから法律的にはグレーゾーンだ。


「力を抜き出す事には成功しただと」


 とワイズベル。


「はい」


 側近が答える。


「詳しく報告しろ」

「肌を接触させて同時に二人から魔力を抜き出しました」

「ふん、大勢の人間と行うなら、非接触で出来るようにしないとな」

「そこは彼もそう考えているようです」

「賢者の塔の会員全てから少しずつ力を貰えれば、俺は無敵だ。恐らくライドには負けない」


 いや、俺の魔力を超えることなどできないと思うぞ。

 人間なら吸い取ったら枯渇する。

 俺は自然界から順次集めているからな。

 ほぼ無限だ。


「彼に要望の実験台はどうします」

「奴隷を当てろ。犯罪奴隷なら殺しても罪に問われない」

「はい」


 さて、分身ナンバー1を側近に付けてマッドサイエンティストの顔を見に行くか。


 側近は奴隷商人から犯罪奴隷を買った。

 そして、マッドサイエンティストの屋敷に連れって行った。


「ふはは、それが新しいドールちゃんですか。可愛がってあげまちゅよ。ふひひ」


 如何にも行っちゃってるって男だな。

 犯罪奴隷のひとりが椅子に拘束された。


 マッドサイエンティストが奴隷の腹に手を当てた。


搾取エクスプロイテーション

「ぐがぇ、やめてくれぇ」

「良い声でなきまちゅね。可愛いでちゅよ」


 奴隷は泡を吹き始めた。


「このドールは蟹さんかな。ふひひ」


 奴隷は死んだ。


「頻繁に死人が出るようでは困る」

「ドールは最初から生きてませんよ。ドールでちゅから。ふひひ」

「長く楽しみたいとは思わないのか」

「長く。良いね。実にいいでちゅよ」


 次の犯罪奴隷はぐったりしたが死ななかった。


「非接触で24時間が理想なんだがな」

「そんなの面白くなーい」


「あんまり無理を言うと資金援助を打ち切るぞ」

「どいつもこいつも俺の芸術が分からない。魔力を抜きだせるこの技がどんなに偉大なのか分かってない」

「いや、有効性は分かっている。だから援助している」

「分かってるなら良い」

「とにかく非接触だ」


 側近はその場を後にして酒場に寄って、酒をがぶ飲みし始めた。

 だいぶ、きているな。

 そうだろうな。

 あんな奴と付き合えるのは狂人しかいない。

 俺なら付き合える。

 ていうか、搾取エクスプロイテーション魔法はすでに自分の物とした。

 淫魔法とほとんど変わってない。

 ただ、淫魔法が快楽を伴うのに対して搾取魔法は痛みを伴う。


 イメージが血の出血みたいな感じだ。

 これの完成形なら、汗のイメージにすれば良い。

 それなら痛みを伴わない。

 汗みたいに魔力を噴出させ吸収する。


 アドバイスするほどのことではない。

 汗のイメージの魔法は、スウェットかな。

 ただ汗ではないので、噴出とか回収の方が良いかも。


 俺にとっては要らない魔法だな。

 マッドサイエンティストの所の犯罪奴隷を助けてやるつもりはない。

 犯罪奴隷は死刑と変わりないからだ。

 だから薬の試験とかに使われる。

 死ぬなら発展に寄与してから死ねという存在だからな。


 思う所がないわけではないが、俺なら死刑なら一思いで殺してやる。

 ただ、犯罪奴隷を殺して回るほどでもない。

 そんなめんどくさいことはしない。


 死刑論議はしない。

 俺とカリーナに関わりがないのなら関係ない。

 実際に日本でも自分に関わりがないなら死刑について思う所はない。

 問題が難し過ぎて答えが出ないからだ。


「カリーナ、犯罪奴隷についてどう思う」

「その人が有罪なら、どんな形であれ罪を償う必要があるのではないでしょうか」


 犯罪奴隷が死ぬのは償いか。

 やっぱり俺には難し過ぎて分からない。

 ふと考えた。


 回収を完成させて、犯罪奴隷を魔力電池にしたらどうか。

 刑務所で長い時間、魔力電池として生きる。

 世の中に為になるし良い生き方なのかも。


 回収コレクト魔法はすぐにできた。

 魔力回路も出来た。

 ただ回収は良いけど、何に魔力を使うかだ。


 現代日本なら電気一択だけど。

 異世界では電気製品はない。

 巨大な魔石にプールして、使うならありだけど。


 そんな巨大な魔石は存在しない。

 魔力結晶なら爆発するまでにかなり溜められる。

 だが、魔力結晶の技術を国に提供してよいものか。


 不安だ。

 魔石を結合することを考えた方が良さそうだ。

 魔石って恐らくタンパク質かコレステロールだよね。

 魔力を溜める成分がタンパク質とかなのかは、分からないけど。


 タンパク質やコレステロールを溶かして結合なんて分からない。

 そういう化学知識は持ってない。

 魔法に頼るしかないか。


「サマンサ先生、結合魔石を作りたいです」

「ああ、それね。魔法を使うと魔石の中の魔力と反応して失敗するのよ」

「じゃあ、魔石の魔力を空にすれば」

「結合には変形の魔法を使うんだけど、魔法を掛けると魔力を帯びて、結局は失敗する」

「変形魔法は使えますか?」

「ええ」


「やってみて下さい」

変形トランスフォーム


 サマンサ先生の魔力をパリィして、魔石の魔力と反発しないようにした。

 ふたつの魔石が溶けあってひとつになった。


「出来ましたね」

「ええとライド君天才。でも表に出せないわね。きっと国に監禁されて製造機にさせられる」

「ですね」


 とりあえず、巨大魔石は作れる。

 クズ魔石をたくさん仕入れて1メートルはある巨大魔石を作った。


 王様の執務室にお邪魔する。

 護衛と王様がいつものやり取りをする。


「今度はなんだ?」

「プレゼント」


 俺は収納魔術で巨大魔石を出した。


「こんな巨大な魔石を持ったモンスターを倒したのか?」

「うん、海って凄いね。こんな魔石を持つモンスターがいるんだから。島ぐらいの大きさがあったよ」


 嘘も方便。


「これを何に使う」

「それを使う魔道具はいま作っているところ。後で届けるよ」

「何が欲しい」

「犯罪奴隷を全員」

「何だと、世界の仕組みを変えるつもりか」

「そんな大層なことは考えてないよ。ただ償うなら長い時間の方が良いかなと」

「残酷だな」


 終身刑と死刑のどっちがましかは考えたくない。

 答えが出ないから。

 ただカリーナならこのアイデアを気に入るはずだ。

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