第74話 情報網

「信用できる人間が欲しいな」


 ファントムに相談してみた。

 情報網みたいなのを作りたいと思ったからだ。


「あっしに言われても困りますぜ。裏社会の人間は金でどちらにも転ぶ奴が多いってもんです」

「絶対に裏切らない奴はいないのか。プロとして契約を守るみたいな」

「そんなの皆無ですぜ。そういう人材ならカリーナ嬢に相談するのが良いですぜ」


 カリーナの家の人材か。

 身辺調査はしているはずだからそれで行くか。


「というわけなんだよ」

「メイドを増やしてお断りの手紙を書かせておりましたが、最近手紙の数も少なくなりまして、3人ぐらいなら構わないですわ」


「助かる」


 メイドが3人、ライド邸にやってきた。

 まず最初に質問領域クエッションフィールドを展開する。

 俺とカリーナを害する気持ちはあるかと魔力で尋ねた。

 否との返答。

 合格だ。


「諸君、これから君達がやる任務は秘密を伴う。コードネームはアルファ、ブラウ、シャーロットだ。検討を祈る」

「えっ、何をやったらいいの」

「言われたことをやってればいいんじゃない」

「任務の説明を?」


「悪党を見張る仕事だ」

「潜入捜査なんて出来ないよ。そりゃメイドだから使用人で入れるけども」

「アルファ、侵入するのはこれだ」


 俺は魔力結晶で作った蜘蛛を見せた。


「きゃっ、蜘蛛嫌い」

「ブラウ、恐がることはない。作りものだ」

「でも動いてる」

「思念で動かせる。実際は隠蔽いんぺい魔術を使うから見えない」

「もっと可愛い物を希望します」


 仕方ない。

 魔力結晶を変形して蝶に変えた。


「蝶々を動かして、悪党の秘密を探り出せば良いんですね」

「シャーロット、その通りだ。さあ、楽にしたまえ。魔力を魔力結晶と紐づける」


 メイド達の魔力を魔力結晶に混ぜた。

 繋がりが出来たから、問題なく動かせるはずだ。


 蝶が滑空する。

 だから蜘蛛にしとけばよかったのに。

 蜘蛛なら風に乗って飛んでもおかしくない。

 蝶の滑空は、違和感しかない。


 だがしばらくして3人は蝶を羽ばたかせることに成功した。


「これほしい」

「私も」

「玩具としては、面白いですね。子供が生まれたら、これで遊ばせてあげたいです」

「任務を成功させれば考えなくもない」


 玉虫色の回答だ。

 やる気を出させるためには嘘も使いようだ。


 映像と音声と隠蔽の魔術を蝶に掛ける。

 各自の前に映像が表示され音声が流れる。

 透明な蝶が街に出ていく。

 蝶の映像を見ながら3人は感心してた。



「こんな物があればどこにでも侵入できるね」

「王族の秘密とか見て殺されたりしたりして」

「秘密は守らないといけないようですね」


 ここで怖気ずくと不味い。

 金で解決するしかないな。

 金は恐怖を忘れさせる。


「毎日、金貨1枚の報酬を約束しよう」

「うひゃあ、金貨1枚。やる、何でもやる」

「うっかり秘密を喋らないために禁酒しないといけないかも」

「この3人で個室で飲めば良いのではないですか。金ならあります」


 とりあえず、蝶々部隊は、ワイズベルに付けた。

 手紙の追跡をするためだ。


 ワイズベルが一番活発に活動しているからな。

 プリンクは店からほとんど出ない。

 寝てるか食べているかだ。


 クラフティ達はやる気をすっかりなくして、討伐要請を無視している。

 盗賊に負けたのがそんなにショックか。


 王様から俺のところに討伐要請がきた。

 ええと、バジリスクね。


 魔力結晶って石みたいなものだけど石化するのかな。

 分身ナンバー3とファントムを派遣した。


 ファントムは遠くで見守っている。

 分身の隠蔽魔術を解いて姿を現すと睨んできたが、問題ない。

 炎のブレスも熱は魔力に吸収させた。

 もっとも、魔力結晶が何度で溶けるかは確かめてないけど。


 もう良いかな。

 デス起動。

 バジリスクはあっけなく死んだ。


 恐る恐るファントムが近寄り、バジリスクの死骸を収納する。

 死んでるって。

 臆病だな。


 討伐が終わり、バジリスクの死骸は王都で競りに掛けられた。

 金貨3178枚もの値が付いた。

 おお、大儲け。


 ある病気の特効薬を作るのにバジリスクの肉が必要らしい。

 詳しくは知らないが、助かる命があるのならやった甲斐がある。


 分身ナンバー3をクラフティ達のいる宿へ戻すと、彼らは話し合っていた。


「俺達が無視した依頼を誰かこなしたらしい」

「不味いわね。このままだと私達の存在が忘れ去られる」

「金が銅貨1枚も入ってこないのは問題よ」


「やったのはたぶんファントムだな。誰かがバジリスクの情報を流したんだろう」

「悔しいわね。私達がファントムを切り捨てた気になってたけど実際は逆」

「ええ」


「俺は絶対にファントムに頭を下げたりしないぞ」

「私もよ」

「そんなことするもんですか」


 仲が良いことだな。


「バジリスクは流石に無理だ。今後このクラスの依頼しか来ないなら、やっていけない」

「じゃあどうするの?」

「私達でもできる目立つ依頼をこなせば良いのよ」


「それなら、良い手がある。情報屋に聞いたんだが、盗賊事件の黒幕は魔法学園のワイズベルって奴らしい。こいつはきっとまた事件を起こすぞ。そいつの悪だくみを潰そうぜ」

「盗賊とバジリスクじゃ注目度が違うわよ。そういう結果になったら目立てない」


「だからよ。ワイズベルの企みに薪をくべてやるんだよ。大火事にしてから消火する」

「いいかも。お金をたくさんもらえると良いわね」


 ワイズベルの邪魔するなら放っておこうと思ったが、大火事にするとは許せなくもない。

 俺とカリーナに火の粉が来なければ別に良い。

 だけどたぶん火の粉が飛んで来るんだよな。

 そんな気がする。

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