第25話 札
暇だな。
授業の内容は既に暗記済み。
「ファントム、何か面白い話はないか」
授業中、姿を消しているファントムに話し掛けた。
「魔法陣の札が出回ってまさぁ。偽物ですがね」
「ふーん、魔道具と札はどう違うの?」
「札は使い捨てなんで、魔道具の劣化版みたいな感じですぜ」
「だから、普段は目にしないのか。偽物の札は売れているんだろう。劣化版だと売れないんじゃないか?」
「それが、古代魔法王国の物という触れ込みなんで」
「効果が凄いと謳っているわけか」
「その通りでさぁ」
退屈な授業が終わった。
サマンサ先生の研究室はいつも通りだった。
本が乱雑に置かれ、作業台の上には工具が置いてある。
何に使うか分からない実験器具も置いてある。
「ライド君、今日は何だね」
「全ての魔法が使える魔道具は作れました?」
「それがまだなんですよ」
「その魔道具は俺は要らないので、急がなくても良いですが、絶対に完成させて下さい」
「ええ、興味ある研究課題ですからね。魔力の波の波長を変える魔道具を作れば良いだけだから、時間を掛ければ完成するはず」
「今日は札と魔道具の基礎を教えてもらいに来ました」
「いいよ。魔道具も札も基礎は一緒。何種類かの魔導インクで回路を描けば良い」
「簡単だね」
「ところがね。問題は、魔導インクの種類が変わっても、全部同じ色なんですよ」
ええとパーツを組み合わせるんだが、そのパーツはどれも形が一緒みたいな感じか。
組んだひとにしか分からないってわけか。
「秘密が漏れないようにそうしてる」
「ええ、そうですね。基本以外の回路は全部秘匿されてます」
それはまた、なんというか、発展していかないな。
途絶えた回路もあるわけだ。
古代魔法王国の札がもてはやされるのが分かる。
サマンサ先生に基本の回路を教わった。
描く時は設計図を見て描く。
設計図は一色ではなくカラフルに描かれている。
魔導インクの瓶の色と対応させてある。
少し記憶力が必要だが、同じ色のインクでもさほど難しくない。
死ぬシリーズとしてライトの魔道具と札を作ってみた。
ひとつはフラッシュ。
目くらましだ。
札として作る。
もうひとつは常に懐中電灯ぐらいの光を放つ魔道具だ。
うん、上手くできた。
がわの付いてない魔道具を眺めてというか、魔力の流れの感触を調べて、気づいた。
俺って魔力回路の流れが分かっちゃう。
秘匿技術を盗み放題だ。
まあ、魔道具職人になるつもりはないから、別に要らない技術だな。
光のフェアリーが飛び回る魔道具を作って宝石箱に付けたいのだが、そんな回路はない。
無ければ探すまでだ。
バッタ屋に行くと、いつもと変わらず箱にいくつもの魔道具が無造作に突っ込まれてた。
「フェアリーの形を飛ばす魔道具ってある?」
「あるか。そんなマニアしか買わないような魔道具」
「ないの。がっくりだな」
「魔法の形を変える魔道具はない。古代魔法王国の物ならあるかも知れないが」
「そういうのはどこで手に入るの?」
「ダンジョンだな」
ドロップ確率は低いとみた。
前世ではこういうのは大抵ドロップ確率より低かった。
大当たりしたことなどない。
麻雀でも引きが良かった記憶などない。
ええと、俺は魔力の流れを自由自在に操れる。
魔法も魔力操作で再現してる。
ええと、フェアリーの形の光が灯る魔法をやってみる。
その魔力の波長と流れはしっかり記憶した。
あとは、魔導インクでその流れを再現すればいいだけだ。
魔導インクで描かれた回路も所詮、魔力の流れを制御しているだけだから。
苦労の末フェアリーの光ができ上がった。
宝石箱に組み込む。
ファントムに宝石箱を託した。
カリーナからは、手作りのクッキーが送られてきた。
手作りクッキーは美味かった。
ただ、形がちょっと不細工だったのは仕方ない。
手作り感が出てとっても良いと思うのは、愛するがゆえだろうか。
もう全ての魔法は、魔道具にできると言っても過言ではない。
魔力波長変換の魔道具を作る。
サマンサ先生の研究室の扉をノックする。
「はーい」
「魔力波長変換の魔道具ができましたよ」
そう言いながら中に入った。
「えっ、そんなっ、学界に発表してセンセーショナルな話題を独り占めだったのに」
「サマンサ先生の名前で論文書いて良いですよ」
「先生にもプライドがあります。共同研究にしましょう」
「いいですよ。俺は差別されているであろう魔欠者を救いたかっただけだから」
魔力を現象に変換する魔道具の魔力回路は公表した。
この技術は途絶えて欲しくないからだ。
しかし、前に作ってもらった魔力波長を色として見る魔道具。
よく魔力回路があったな。
ええと、数値を色として見る回路があるのか。
ええと魔力を見るのは一般的にあるのは分かる。
波長の感知は何だ。
ああ、音の高さを調べる回路があるのか。
都合よくありもので組まれているな。
サマンサ先生って優秀かと思ったが、意外にポンコツかも知れない。
音の高さを変える回路を魔力を出す回路に組み合わせれば、簡単にできるんじゃ。
ああ、音の高さを調べるのと、変えるのでは違うのか。
音の高さが変えられればシンセサイザーができる。
この世界でそういう楽器は見たことがない。
ということは波長を変えるという回路は失伝していたのかな。
次にカリーナに贈り物をするとしたら、シンセサイザーだな。
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