第33話 ピクニック

 街の外、カリーナの手を取って飛ぶ座席に座らせる。

 安全ベルトをしっかり締めた。


 メイドとファントムが乗り込んだ


「行きますよ」


 飛ぶ座席がゆっくりと動き出した。

 街道を飛び、すれ違う馬車の御者は目を見開いて驚いていた。


 かなり、オーパーツ的な物だからな。

 聞かれたら古代魔法王国の魔道具という触れ込みにしよう。


 街道を外れ、森に入り、木の上を飛ぶ。

 1時間かからず、目的地に着いた。

 結界のクッションシートを広げる。


 カリーナがバスケットに入ったサンドイッチと飲み物を置いた。


「キスぐらい構いませんよ」

「そんなこと、致しません」


 カリーナがメイドにからかわれた。


 俺はごろりと寝転んだ。

 どこまでも澄み渡った青い空が気持ちいい。


 誘蛾灯がバチっと音を立てた。

 無粋だが、虫に刺されることを考えたら仕方ない。


 そして、ご飯を食べ、たわいないお喋りをした。

 人間がやってくるのが見えた。

 冒険者かな。

 このエリアのモンスターは全て狩ったのに。

 近づいてくると、誰なのか分かった。

 近衛騎士だ。

 もちろんウザルもいる。


「せっかくのいい気分のピクニックの邪魔をするなよ」

「減らず口を叩けるのも今だけだ。おいカリーナに傷を負わせるなよ。カリーナは俺が調教して、エリクサーを作り出す雌奴隷になってもらうんだからな」

「今日、俺達はメイドで我慢してやるよ」

「そうだな。俺もメイドで我慢しておく」

「あとでカリーナに飽きたら、俺達にも使わせてくれよ」


 この現場を見ている奴がいようがいまいが関係ない。

 堪忍袋の緒が切れたという奴だ。


「カリーナと、メイドさん、目をつぶって下さい」

「はい」

「かしこまりました」


デス。ファントム、死体を収納しろ」

「へい」


 俺はウザル以外を殺した。


「な、なんで。近衛騎士は精鋭。最強のはずなのに」

「聞きたいのはひとつだけ。ここを見張っている奴はいるのか? いたら後始末を考えないといけない」


「いない。なぁ、殺さないでくれ。何でもする」

「じゃあ死んでくれ。デス


 ウザルは声も上げずに喉を掻き毟って死んだ。

 ファントムが死体を全て収納した。


「もう目を開けていいよ」

「私も貴族の娘。貴族同士の争いが死につながることも覚悟していますわ。そんなに悲しい目をしないで下さいまし」


 カリーナに殺人鬼の一面を知られてしまった。

 それが悲しい。


 だが、あれは我慢できなかった。

 とんだ、ピクニックだった。


 帰り道、俺は無言だった。


「私はあなたの一面が知れて良かったですわ。確かに悪い面ですけど、好きな人のことは何でも知りたいのです」

「こんな俺を嫌いにならないのか」

「私達を守ってくださったのですよね。モンスター以下の男達を生かして置いたら、私はあなたを見損なっていたかも知れません。かれらはきっと前にも似たようなことをしていると思います」

「記憶は上塗りできる。またピクニックに来よう」

「はい、喜んでご一緒しますわ」


 見張ってた奴はいないが、どこに何をしに行ったか前もって言っていた奴はいたらしい。

 夜中、殺し屋が来た。

 サクっと殺したが、これからこういうことは度々あるのだろうな。


 インテリジェンスアイテムが欲しい。

 自動迎撃ができれば俺の安全はぐっと高まる。


 敵対する貴族を皆殺しにしたい気分だ。

 今回来た奴らの身元はファントムが調べている。

 だが、敵対する貴族を皆殺しはたぶんできないんだろうな。

 子供とかいたら殺意が鈍りそうだ。


 どうするべきか。

 ファントムを呼び出して相談することにした。


「貴族はしつこいですぜ。裏の者も躊躇する奴がいるぐらいでさぁ」

「身元を調べて、その貴族の家を皆殺しにできても、親戚とかいるよな」

「へい」


 力の誇示か。

 だが、大軍を殺した英雄も流れ矢の一本で死ぬこともある。

 敵対した貴族は諦めないだろう。


「ファントム、すまん。俺の護衛をしてくれ。警戒してくれるだけで良い」

「へい」


 ファントムに護衛してもらうようにお願いした。

 流体把握フルイドグラスプの中なら、寝ていても接近を把握できるが、超遠距離攻撃とか爆弾を送りつけられるとな。

 人間爆弾をするほど敵が堕ちてないといいが、ゲスな奴の考えることだ。

 何をされるか分からない。


 分身を作ろう。

 魔力結晶でだ。

 そして、目と耳と口の機能を持たせる。

 魔力結晶に掛けた魔法は継続するから、魔法で機能を持たせるのは簡単だ。

 問題は質感と色だな。


「ファントム、隠蔽ハイド魔法って、別の色とか映せるか」

「へい、難しいですが、できますぜ」


 隠蔽ハイド魔法を会得しないといけないようだ。

 寝る暇も惜しんで、隠蔽ハイド魔法を覚えた。

 魔力結晶の分身ができ上がった。

 触るとばれるが、そこのバージョンアップはおいおいだな。


 俺は分身を魔法学園に通わせることにした。

 本体は大邸宅にこもる。

 壁を厚くして、狙撃とかができない部屋でだ。

 とりあえずこれで、解決策ができるまで粘る。


 とりあえずはこれでいいだろう。

 分身は3体作った。

 魔力操作の達人の俺としては、3体同時に操るのは簡単だった。

 攪乱してやれとの思いから3体作った。

 どれが影武者か分からないでさぞ混乱することだろう。

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