第6話 入学式
魔法学園の入学式だ。
「皆さんを栄えある魔法学園に迎えられたことを喜ばしく思います。切磋琢磨してより良い学園生活を送って下さい」
うん、型通りの挨拶だ。
教師の挨拶もこれと言って変わった所はない。
担任の名前がサマンサだと知った。
家名は分からない。
学園では家名は名乗らない。
そういうルールになっている。
あくまでも重要なのは魔法の手腕。
座学は既に知っている内容なので復習の意味合いしかない。
俺は実技でひとつ勘違いを知らされた。
魔力の循環は誰にでもできる技術じゃなかった。
魔法使い必須と最初に読んだ本には書いてあったが、一流の魔法使いになるにはという但し書きが付く。
とりあえず循環さえできれば魔力操作の免許皆伝らしい。
俺は魔力操作の才能があったのだな。
現象に変換できないことと関係あるかも知れないが、それを知ったところで何も変わらない。
高速循環を実技でやったら、教師に驚かれた。
超一流らしい。
その上のポンプを使った超高速循環とか、分岐循環とか色々と技があるんだけどな。
圧縮なんか見せたらきっと大騒ぎだろう。
圧縮は
カリーナも学園にいるが、俺には話し掛けてこない。
プリンクと喋っているところも見かけない。
板挟みになって苦しいのだろう。
なるべく早く迎えに行くよ。
学園の授業が午後3時頃に終わったので、簡単に荷解きを済ませた。
学園に通う生徒は寮から通うことになっている。
一人暮らしを経験しとけということらしい。
もっとも貴族は寮に使用人を住まわせているが、俺の部屋は1人部屋だ。
ファントムは夜になったら帰る。
街に出ることにした。
自衛のための魔道具を買うためだ。
ファントムが知っていた魔道具屋は下町にあった。
庶民が利用する店か。
気に入った物がなければ買わない。
その時は魔道具屋を梯子すれば良い。
その魔道具屋は30個ぐらいの魔道具が、一つの箱に突っ込まれていた。
乱雑だなと思う。
日本で行ったガード下のバッタ屋を思い出させる。
掘り出し物はありそうな予感はするが。
「店主、どんな敵も無力化する魔道具がほしい。言っておくが殺したら駄目だからな」
「へい、となりますと。そんな魔道具があったような。あれはどこだったっけ」
店主が箱をひっかきまわして探す。
「あったこれだ。ええと注意書きが貼り付けてあるな」
「寄越せ」
この魔道具は魔力を溜めて使うタイプではありません。
うん、直接使用者から魔力を引き出すタイプらしい。
敵の実力に応じて威力を加減する機能付き。
良いんじゃないか。
「思い出した。そいつはやめておいた方がいいですぜ。敵が強大になるとミイラになります」
「つまり、ドラゴンに対して使ったら、ドラゴンを無力化するだけの魔力を使用者から引き出して、使用者は死ぬと」
「ええ、その通りです。ですから、自分より弱い敵にしか通用しません」
「強さってのは魔力量で量っているんだよな」
「はい」
俺より強い魔力量の奴なんかいるのか。
なんだ問題ない。
形もスタンガンみたいで分かり易い。
おそらく電撃が出るのだろう。
「いくらだ」
「大銀貨1枚です」
安いな。
この世界の通貨は最低が銅貨で、それが10枚で大銅貨、それが10枚で銀貨、それが10枚で大銀貨、それが10枚で金貨、それが10枚で大金貨。
物価的には銅貨1つでパンが1個。
定食は大銅貨3枚。
安宿は銀貨1枚。
大銀貨1枚は、安宿10泊。
日本の安宿で考えると2万円ぐらいか。
まあ、スタンガンとして考えれば妥当か。
「買おう」
「くれぐれも大物に使わないで下さいよ。うちの店の商品で人が死んだとなったら困ります」
「分かってる」
うん、良い買い物をした。
やっぱりバッタ屋だな。
ファントムは他にもこういう店を知ってるのかな。
使える奴だ。
「ファントム」
俺は金貨1枚を投げた。
「えっと」
「良い店を紹介してくれたお礼だ」
「気前がいい親分は好きですぜ」
「お前、男色の気はないよな」
「ありませんぜ」
「なら良い。個人の趣味は尊重するが俺にそういう趣味はない。言い寄られたらきっぱり断る」
「さいですか。そういう人物が近くにきたら、報告致しやす」
「頼む」
さて次はモンスター寄せの香だ。
連れていかれたのは、これまた汚い店。
床なんか黒くなってギトギトしている。
この床は猛毒じゃないだろうな。
「モンスター寄せの香はあるか?」
「ひっひっひ、ありますよ。どういった物をお望みで。ひっひっひっ」
老婆が出て来た。
「金になるモンスターが良いな」
「ひっひっひっ、毛皮なら、ウルフ系。肉ならオークさね。ひっひっひっ」
「なんか弱そうなモンスターだな」
「ではどのような」
老婆から笑いが消えた。
「Aランクモンスターだ」
「良いのかい。オーガが寄って来る奴があるが、使ったら死ぬよ」
どっちが死ぬのかな。
「くれ」
「金貨1枚さね」
「買おう」
「まいど」
オーガ退治に行くときには使おう。
「解毒剤はあるか。どんな毒にも使えるやつ」
「そんなのが作れたらあたしゃお大尽様さ」
「エリクサーを探すしかないのか」
「参ったね。夢物語を聞かされたが、ちっともそれが不可能だとは思えない。目が曇ったのかね」
「いいや、俺はたぶんこの国で一番強い」
「信じるさね」
万能解毒剤は今後の課題だな。
まあなんとかなるだろう。
魔力操作で。
魔力操作の可能性は無限だと思っている。
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