第52話 アジト

「ここだな」

「ここは下水道の入口だぞ。酷い匂いだ」

「我慢しろ。邪教のアジトなんだからな」


 下水道とはまた小悪党みたいだな。

 しばらく進むと、空気が綺麗になった。

 そして明らかに下水道ではない。

 かと言って天然の洞窟というわけでもない。


「ダンジョンだな」

「領都の地下にダンジョンがあるなんて知らなかった」

「邪教の訓練施設も兼ねているのかもな」


 ダンジョンは楽勝だ。

 デスがあるからな。

 問題はトラップだ。

 それもダンジョン由来ではなく人の手で仕掛けられた奴。

 ダンジョン由来のトラップは魔力の流れを断ち切ると簡単に無効化できる。


 もっとも壁の向こう側とて、流体把握フルイドグラスプで物の形状が分かる。

 だが、鬱陶しいんだよ。

 黒虹こっこう時限爆弾タイムボムを掛けて、手りゅう弾にして破壊しながら進む。

 これがもっとも楽で良い。


「ファントム、モンスターを収納しとけ。あとトラップから回収できるくず鉄もな」

「へい」


「いまの声は誰だ?」

「従者だよ」


「暗殺者上がりか?」

「まあ、似たようなものだ」


「しかし、恐らくここはAランクダンジョンだぞ。なんで散歩気分なんだろうな」


「ここはオーガダンジョンだな。ザコがオーガだから」

「ああ。難攻不落だろうな」


「ホクホクだな。オーガの皮は高い。1体、金貨10枚で売れる」

「値崩れしなければもっとだ」


「毎日1体、市場に流すつもりだ」

「勿体ないが仕方ないか」


「なんでクロフォードが損した気持ちになっているんだよ」

「貧乏だったからな」


「どんな生活だ?」

「邪教の洗脳と戦う日々だ。邪教の幹部の子弟の虐めは凄かったな。貴族と言う俺の地位が羨ましかったのだろうな。こんな領は今でも要らない」


「苦労しているな」

「でも暖かく親切にしてくれた人もいるんだ。そういう人を裏切れない」


 そうか、俺も優しくしてくれたカリーナは裏切れない。

 そういう人がいないと人間は駄目だな。

 俺は真っ当ではないが、人間社会でなんとかやれているのは前世の経験もあるが、カリーナのことが大きい。


 おっと宝箱だ。

 こいつはダンジョン由来だな。

 魔力が通っている。

 魔力を切断して蓋を開ける。

 ただのポーションか。

 まあ薬草変換グリーンサムして売るけどもな。


 もうダンジョン探索が流れ作業だ。

 デスをはねのけるモンスターはいない。


 流体把握フルイドグラスプをかいくぐれるトラップもない。

 ただ、ただ、めんどくさいだけ。

 くそっ、邪教の幹部達、お前達は死刑だ。


「さっきのザコはオーガファイターだった。Sランク近いモンスターだぞ」

「少しでかいオーガじゃないか。デス魔術で死んでいくようなザコだ」


 分かった。

 歯ごたえがないからめんどくさく感じるんだ。

 ゲームの経験値稼ぎみたいな感じに思える。


「ゲイリックになんて言おうかな」

「そうそう。お前、王子にスキル屋のことを教えたな」

「仕方ないだろ。逮捕されたら、洗いざらい喋る。でないと王に粛清される。消えて行った貴族も少ないながら存在するんだぞ」

「へえ。今回はファントムがやった。そう言えばゲイリックは納得するはず」


「ファントムは君なのに?」

「名声を得たくないという苦肉の策だ。同一人物だと知っている奴は知っているが、賢いなら藪は突かないものだ。何が飛びだすか分からないからな」

「分かるよ。君はびっくり箱だから。こんなに実力があるなら、もっと早く相談すればよかった」


「甘えは許さない。今回は邪教が癇に障ったからだ」

「だろうね」


 ああ、歩くのも怠い。

 飛ぶ座席に乗ってダンジョン攻略したい。


「おっ、ボス部屋だ」


 ボス部屋に入ると黒いオーガがいた。


デス、ザコだな」

「ハイオーガが1秒経たずにか」

「いやザコだから。黒い革鎧は高いだろうな。金貨30枚で売れないかな」

「値崩れしてなければ金貨100枚はかたいだろうね」


「そんなにか」

「全く、変な所で驚くんだね」


 このダンジョンのダンジョンコアは取らずにおいて、金が要りようになったら寄らせてもらうか。

 さて、次の階層は。

 弓を持ったオーガがいるな。

 めんどくさい。


デス、サーチアンドデストロイ。基本だな」

「オーガアーチャーも一瞬か。純粋に好奇心で聞くが、君はどうやったら死ぬ?」

「モンスターで俺を殺せる奴はいない。影武者もいるから。大抵の殺しの手口では殺せないな」

「ゲイリックは胆力があるよ。僕なら、君を敵に回すようなことは絶対にしない」


デスにはカラクリがあることになっている。みんなそれを信じたいのさ。俺が誘導しているんだけど。あまりに俺が目障りになると婚約者とかが狙われるからね」

「僕ならそんな恐ろしい手は打たないよ。失敗しても成功しても、大虐殺だ」

「まあね。そうなるだろう。だが、魔王ルートは行きたくないんだよね」


 クロフォードは魔王ルートって言葉は初めて聞いたなと感心してた。

 ぴったりの表現らしい。

 俺が魔王と呼ばれるのも時間の問題なのかな。

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