第80話 差し入れ

「プリンクに、マフィアの構成員が接触しました」


 蝶々部隊のブラウからそう報告を受けた。

 分身ナンバー2の映像を拡大して、音声のボリュームも上げた。


「牢内に差し入れしたいんですが」


 そうそう、マフィアのボスと手下は警戒の緩い牢へ移った。


「牢内の差し仕入れは家族しか許されてない」


 プリンクはなんでそんなことを知っているのかな。

 きっと、自分が捕まった時のことを考えたんだろう。


「まあそうですね」

「ふふふっ、分かっているぞ。偽の結婚や養子縁組だな。金さえ出せば何でもするというやつらはスラムにゴロゴロいる。家族にする書類は任せろ。役人は貴族だから伝手がある。だが、差し入れに何を持って行くかは俺は関与しない。言わなくて良いからな。知ってたら不味い」

「心得てます」


 何を差し入れるか蝶々部隊が突きとめてくれた。

 パンの中にはヤスリ。

 ソーセージの中には針みたいな暗器。


 果物の中には金属のワイヤー。

 他にも武器になりそうなものが入れられていた。


 さて、合法的にマフィアのボスを殺すには脱獄させてからの方が良い。

 脱獄の決行日が決まったら、牢番を避難させておくか。

 いいや、適当に交戦して逃がすように言おう。


 王様の執務室。


「よう」

「今度は何だ?」

「マフィアのボスが脱獄する。脱獄したら殺そうと思う。構わないか」

「ああ、あいつか。重罪人ではなかったから処刑できなかったが、脱獄したなら即殺しても問題ない。むしろありがたい」

「決行日が決まったら、連絡する。牢番とかに犠牲者が出ないように上手くやれよ」

「王にそんな命令するのはお前ぐらいだな。まあ内容が嬉しいので、腹は立たないが」



 全ては俺の手の平の中。

 邸宅に帰ると、蝶々部隊のシャーロットから報告があった。

 分身ナンバー3の映像を拡大、音声のボリュームを上げる。


「情報屋の話だと、マフィアのボスが脱獄するらしい。殺したら褒美が貰えるかもな」

「ええそうね」

「お金になりそう」


 クラフティ達も動くらしい。

 脱獄したマフィアのボスを狙っているようだ。

 マフィアの構成員はピンキリだが、やる奴はAクラス冒険者にも引けは取らない。

 クラフティ達に殺せるか。

 たぶん駄目だな。

 だが、混乱は歓迎する。


 道化たちよ踊れ。


 サマンサ先生の研究室へ行くと、サマンサ先生はなぜか渋い顔。


「研究に行き詰っているらしい顔ですね」

「分かる?」

「ええ、聞かせて下さい」


「魔石モーターはトルクが足りないの」

「ギヤは流石に難しいか。円盤の大きさを大きくするべきだな」

「そうすると馬車ぐらいの車体には積めない」

「なかなか上手く行かないな」


「魔石エンジンは、摩擦熱とか色々な熱で、焼きつくのよ」

「オイルや冷却装置だな。ラジエーターまで、細かい仕組みは分からない」

「冷却の魔道具はあるから別に良いのだけど、そうすると消費魔力が馬鹿にならないの」


 うん、魔力自動車の開発は前途多難だな。


「ゴーレムも駄目か」

「ゴーレムは魔法で制御する場合、辛うじてできるけど、複雑な動作はむり。魔道具制御だと決まったパターンしか動かないわ」


「今まで作られてないってことはみんな挫折しているってことだよな」

「そうね」


「魔石モーターはギヤだな。これはギヤチェンジが無ければ簡単だ。歯車の技術はあるから何とかなるだろう。だけどパワーを出すギヤを組んだ場合に速度は遅くなる。回転数で補わないといけなくなる。そういうのも含めて試行錯誤だな」

「頑張ってみるわ」


「魔石エンジンはお手上げだ。エンジンはこの世界の文明には早すぎる。開発休止するべきだな」

「そうかもね。とりあえずアイデアが出るまでは休止しましょう」


「ゴーレムは制御に難ありか。デジタル魔力回路が開発できれば問題は解決しそうな気もする」

「特殊な魔力回路が要るのね。ライド君の頭の中には完成形があるみたい」

「まあな。とりあえず、魔石モーターを仕上げたら良い。ゴーレムも休止だな」

「ええ、そうするわ」


 何日かして、ギヤを組み込んだ魔石モーターの試作品が完成した。

 馬車がゆっくりと動く。

 魔石モーターばギュンギュン唸っていた。


 むっ、モーターがひとつだと何時から思ってた。

 4気筒エンジンがあるように、4つのモーターを動かせば良い。

 4つで足りなければ8でも良い。


「モーターの数を増やしましょう」

「同期をとるのが難しそうね。でも何とかなりそうだわ」


 魔石モーターが8つ付けられた馬車でなくて、キックボードができた。

 いきなり馬車は大変だからな。

 設計図を描いたらサマンサ先生が作ってくれたのだ。


「キックボードぐらいなら、魔石モーターのトルクで十分ですね」

「ゆっくりと歩くぐらいのスピードしか出ないけどね」


 この魔力キックボードはカリーナにプレゼントされた。


「これ、楽しいですね」

「スピードは出ないけど」


「早くなったら危ないのでは」

「まあね。それに石畳みだとでこぼこも多いから危ない」


「これで遊ぶ場所を作りましょうか」

「うん、金貨1000枚ぐらいで作れるかな」


 キックボード場を作ることになった。

 変形スキルで100メートル四方はある一枚板の石が敷かれた。


 その上でキックボードを使った子供達が楽しんでいる。

 サマンサ先生はなんと魔動車いすを開発してしまった。

 形が前世の電動車いすにそっくり。

 スピードも同じぐらい。


 これは流行るなと思ったら、お年寄りに大好評。

 サマンサ先生は利益が出たのが嬉しかったのか、大はしゃぎで魔石モーター駆動の馬車を開発している。


 馬車は前途多難だが、そのうち解決策が見つかるだろう。

 実は解決策なら知っている。

 魔力電池に魔力結晶を使えば良いのだ。

 そうすると魔力消費の問題がなくなって。

 凄い数の魔石モーターを同時に駆動できる。


 だがこれは無理筋だ。

 カリーナ専用に作るのならいいけどな。

 だが、サマンサ先生に魔力結晶を公開するつもりはない。

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