第23話 蒼き狼

「おい、決闘だ」

「誰かと思えばプリンクじゃないか。謹慎は解けたのか?」

「俺が謹慎になったのもお前のせいだ。お前がもっと早く実力を発揮すれば、俺は逃げる必要はなかった。あの時にイカサマを使ったんだろう。どんなイカサマか知らないが魔道具だろう。今回はその手は通じないぞ」


 なに言っているんだこいつ。

 でも間違いを正してやる必要はないな。


「ばれなきゃ、どんなイカサマだろうが問題ない。だいたい戦争で大逆転するような人は、イカサマみたいな作戦を使っている。勝てば官軍なんだよ」

「とにかく決闘だ」

「言っておくが、カリーナを賭けたりはしないぞ」

「ならば金貨100枚だ」


 こいつ、金がないのか。

 ひょっとして例の風呂屋か。

 入り浸っているのか。

 聞いても仕方ないから聞かないけど。


「それで良い。商業ギルドで証文を作るぞ」


 商業ギルドは初めて来るな。


「この度はどのような案件でしょうか」

「証文を作りたい。ここの証文は貴族にも破棄できないと聞いた」


 ファントム情報ではそうなっている。

 ややこしそうな相手と商いする時は商業ギルドで証文を作った方が良いと言っていたな。


「左様です。商業ギルドを敵に回した貴族はおりません」

「では頼む」


 決闘の証文を作った。

 その費用は俺が持ったが些細なことだ。

 金貨100枚は手に入ったも同然だ。



 次の日、俺達の番がやってきた。


「では529番始めなさい」


 プリンクの番だ。


火球ファイヤーボール


 プリンクの火球はまるで豚だ。

 もっと恰好良く出来なかったのか。

 観客からも笑いが漏れる。

 的を少し焦がして終わった。


「1点」

「10点」

「2点」

「10点」

「10点」


 こいつ、審査員を買収したな。

 汚い奴だ。

 だが二人買収し損ねたらしい。

 詰めが甘い。

 まあ、プリンクらしいとも言えるが。


 俺の番は564番だ。

 その時を待つ。


「では564番始めなさい」

「はい」


 俺は片手を突き出した。


 変換器コンバーター起動。

 魔力が火魔法の波長に変換される。

 俺の前に狼の炎ができ上がった。

 炎の狼は黄色、白と色を変えていき、青になった。

 青い炎の狼が走る。

 的は灰になり、鉄柱は溶けて、液体になった。


「無詠唱は見事だ。10点」

「くっ、10点」

「初めて見る炎の色だ。10点」

「仕方ない。10点」

「これを出されたらな。10点」


 満点を取った。


「認めん!」


 プリンクが叫んだ。


「イカサマだ。身体検査しろ」

「近衛騎士様にやって頂きましょう。慣れているでしょうから」


 カリーナ、ナイスフォロー。

 これなら買収はされていないだろう。


「くそっ、好きにしろ」


 ウザルが来たので。


「チェンジ」

「ちっ」


 ウザルでない近衛騎士が俺のボディチェックをする。

 魔法でも異物が体の中にないか調べた。


「魔道具の類はなし。近衛騎士の名に懸けて証言する」

「くっ、イカサマだ。それ以外に何があるっていうんだ」

「往生際の悪い奴だな。お前に10点を出した審査員を取り調べさせようか」

「くっ」


「金貨100枚は取り立てるぞ。商業ギルドがな。金貨90枚で買い取ってくれる手筈になっている」


 商業ギルドから連絡がきた。

 プリンクはお金が足りなかったので、足りない分は建物を売ったらしい。

 金貨56枚で。

 買いませんかと言われたので、78枚で買った。

 金貨22枚も手数料を取るのかよ。


 文句を言ったら、壁紙とか痛んでいる所をただで直してくれた。

 この建物は、店舗だったので、カリーナにプレゼントした。

 ポーション屋を開くと良いと思って。


 魔法祭が終わった。

 当然俺は1位だった。

 カリーナは2位。

 ワンツーフィニッシュを飾ることができた。


 そして、カリーナのポーション屋が始まる。

 店員はみんな雇われだが、カリーナの作ったポーションを売っていることに変わりはない。

 贔屓にすることにした。


 もっとも、カリーナからエリクサーを10本貰ったので、戦闘では他のポーションの出番はないだろう。

 普段の生活では擦り傷を治すのにエリクサーは流石に勿体ないから、必要だな。


 プリンクだが、親父に黙って不動産を売って怒られて謹慎になった。

 よく謹慎を食らう奴だ。

 例の風呂屋には謹慎中でも顔を出しているらしい。

 ファントム情報だ。


 懲りない奴だ。

 スペシャルコースとやらを連発しているらしい。

 スペシャルコースが何なのか聞かない。

 必要ないからだ。


 母親がプリンクの遊ぶ金を出しているらしい。

 これもファントム情報だ。

 そのうち愛想を尽かされるな。

 でも身から出た錆だ。


 忠告してくれる人はいないらしい。

 そう考えると哀れな奴だ。

 俺も忠告はしない。

 そんな関係ではないからな。


 いや、忠告したら面白いか。


「プリンク、お前、派手に遊んでいるらしいな。ちょっとは控えたらどうだ。同じ血を引く者として恥ずかしい」

「なんの権利があってお前が言うんだ。俺は良いんだよ。悔しかったら、お前もやってみろ。カリーナは堅い女だからな。やらしてはくれないだろう」

「そうか、俺はカリーナと秘密の交わりをしているぞ。昨日もした」


 交換日記をな。


「くそっ、尻の軽い女め。俺が手に入れて再教育してやる」

「それこそなんの権利があってだ」


「うるさい。今後俺のやることに口を出すな」

「そうか。糞親父にチクってやろうか」


「それをしたらどうなるか分かっているだろうな」

「分からんな」


「戦争だ。お前を血の海に沈める」

「怖い奴だな。まあ良いさ」


 くくくっ、むきになったから遊びは辞めないだろう。

 転落しようがしまいが構わない。

 一応、忠告もした。

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