第40話 性病

「うわー、医者は嫌だぁ」


 寮の廊下をプリンクが走り回る。

 その様子を分身ナンバー1が捉えた。

 なにやっているんだ。


「プリンクは性病を貰ったらしいぜ」

「へぇ」


 クラスメートが教えてくれた。

 派手に遊んでたからな。

 自業自得だ。


 大人しく医者に掛からないと、もげるぞ。


「薬の副作用が凄いらしくて、逃げ回っているんだ」

「奴らしいな」


 そして、次の日。

 見たプリンクは帽子を被っていた。

 教室にプリンクが入るとざわめきが起こった。

 性病の噂が駆け巡っているらしい。


「では授業を始める。プリンク君、帽子を取りたまえ」

「嫌だ」

「なぜだね」

「それは」


 プリンクが渋々帽子を取る。

 その下に髪の毛はなかった。

 誰も笑ったりはしない。

 薬でなったのだから、笑い者にするのは可哀想だとの思いがある。

 俺も前世での抗がん剤治療とか思い出して笑えなかった。


 みんなはプリンクに暖かい言葉を掛けた。


「ちくしょう、みんな内心では笑っているんだ。くそっ」


 プリンクは怒って教室を出て行った。

 薬の副作用のことでからかう奴なんかいない。

 そんなのはプリンクだけだ。

 自分がそういう人を見て笑うからといって、他人まで同じだとは限らない。


 嫌ならかつらでも着けてくれば良いのに。

 そして次の授業、プリンクはかつらを着けて来た。

 金髪横ロールの。

 これはちょっと。

 意表を突かれた。


 笑ったら悪いが、クスっときてしまった。

 他にもツボに入った奴がいてクスクス笑いが聞こえた。


「みんな笑ったらいけない。あの薬を服用することがあったら、笑われたら嫌だろう」


 俺は良い子ちゃんムーブしてみた。


「そうだな。プリンク似合っているぞ」

「男前だ」

「惚れるぜ」


 プリンクの顔が真っ赤になった。

 そしてカツラを床に叩きつけた。


 そして怒って出て行ったかと思ったら、数時間後、頭に入れ墨をして戻ってきた。

 今回のはいかついがいけてるな。

 最初からこのチョイスで来いよ。


 プリンクはみんなの反応に満足そうだった。

 放課後、分身ナンバー3がプリンクを捉えた。


「お客さん、うちは入れ墨のお客様はお断りしてます」

「何だと、俺は貴族だぞ。もう良い、二度と来るかこんな店」


 こっそりではなく堂々とプリンクの後をつける。

 プリンクはあの風呂屋に行った。


 しばらくすると。


「子供みたいで可愛いとか言いやがって。くそっ、どいつもくそだ」


 プンプン怒りながらプリンクが出て来た。

 懲りない奴だな。

 また性病に罹るぞ。


「こうなったら、女を手籠めにして憂さを晴らしてやる」


 プリンクが物騒だ。

 これは止めないとな。

 俺はプリンクの後をつけた。

 プリンクは女を物色すると、後をつけ始めた。


 こいつ、これは看過できないな。


「きゃー!」


 路地から女性の悲鳴が聞こえた。

 やりやがった。


 俺は分身ナンバー3を現場に飛ばした。

 魔力結晶は空を飛べるから便利。

 女性とプリンクの間に舞い降りた。


「お前はライド。邪魔をするな」

「犯罪は見逃せない性質でね」

「邪魔をするなら。火炎竜巻ファイヤートルネード


「ぬるい」


 服が燃えたので、分身ナンバー3は魔力結晶で服を作った。

 そして良い具合に熱くなった、指をプリンクの額に押し付けた。


「熱い。ひがっ」


 罰だ。

 俺は色欲を意味するルーンの火傷をプリンクの額に付けた。

 色魔とかそんな意味だ。


 呪いではないが、色欲のルーンに魔力循環を植え付けた。

 呪いを解析してできるようになった技だ。

 ルーンの所は循環がずっと続く。


 女性がそれを見て。


「いい気味。色魔の烙印を背負って生きたら良いわ」

「プリンク、守備兵の所に行くぞ」

「くそっ放せ。まだ熱いんだよ」

「火傷は罰だ」


 プリンクを守備兵に引き渡す。

 女性の証言があったので現行犯逮捕だ。

 だが、少し経って守備兵が残念そうな顔で来た。


「ロンタイド伯が来て事件はもみ消されました。あなたも吹聴しない方が良いですよ」


 あの糞親父め、ろくなことをしない。

 こうなったら。


 俺は事件の顛末を書いて、それをビラにした。

 そしてファントムに配らせたり、分身に配らせた。


 これ以上は思いつかない。

 次の日、魔法学園で。


「プリンク。色魔のルーンいかしているぜ。そこまでして笑いを取りたかったんだな。笑っちゃ悪いと今まで思ってたが、今後は笑ってやるよ」

「やあ、ゴプリンク君」

「そいつは良いな。今日からゴプリンクって呼ぼう」


「お前ら、ちくしょう。笑うな。俺はゴブリンじゃない。何で火傷が治らない」


 循環があると魔法とかを弾くんだよ。

 レジストしてしまう。

 ポーションもレジストする。


 魔力を枯渇させれば良いだけだが、医者に相談してないのかな。

 まあ恥ずかしい印だけど。


「いや、ゴプリンクだって、女性の強姦未遂をやらかしたんだって、ビラを見たよ」


「くそっ、ライドの仕業だな」


 プリンクは短剣を抜いて俺を刺そうとした。

 分身ナンバー1に短剣が刺さるわけない。


「誰か先生を呼んで来い」


 プリンクは警備員に取り押さえられて停学になった。

 このままだとプリンクは進級できないな。

 その時は、糞親父が金の力でなんとかするんだろうな。


 今回のことでプリンクの評判は最悪になった。

 もう社交界も絶望的だな。

 まともに付き合ってくれる貴族がいるのか怪しいところだ。

 いつかこんなことになると思っていたよ。

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