第117話 ちびった

 クラフティ達に付けている分身ナンバー3の映像。

 死を覚悟したのかクラフティ達は飲めや歌えやの大騒ぎ。


「しょうがない奴だ。宴会したところでドラゴン対策にはならない」

「そうですわね」


 隣にいるカリーナが同意する。


「だが、いつまで酒で死の恐怖を抑えられるかな」

「わたくしにはこの人達のことが分かりませんわ」

「今さえ良ければいいって考えなんだろう。明日は明日の風が吹くというわけさ」

「あら、動き始めたようですわね」


 クラフティ達が相談を始めたようだ。


「駄目だ。死ぬと考えたら酔いなんか醒めちまう」

「ええ、役者の良い男といちゃついても頭にドラゴンが浮かぶ」

「そうね。金がいくらあっても命がなくなったらお終いだわ」


「こうなったら、ドラゴンに一矢報いようぜ」

「ええ、上手く急所に当たれば倒せるかも」

「確率は0%じゃないわ」


 クラフティ達は移動を始めた。

 方向から察するにウラント山だろう。


「戦うのならもっと早く行動しろよ。必勝の策とか練ってな」

「酒で気が大きくなっているのだと思いますわ」

「酔った勢いでドラゴン討伐に出発か。道中酔いが醒めなきゃ良いけど」


 クラフティ達は酔いが醒めたら不味いと考えたのか、馬車の中で酒盛りしている。


「くそっ、ファントムはなぜ動かない。それに勇者のスェインもだ」

「きっと、私達がドラゴンに殺されると知っているのよ」

「そうね。村人の目撃者は多かったから、伝わってもおかしくないわ」


「王がとめたのかもな。ドラゴンは都市を焼いてない。関係者さえ殺せれば文句ないんだろ」

「何でドラゴンの巣穴なんかに入ったのよ。私の馬鹿、馬鹿、馬鹿」

「過去に戻ってやり直したい」


 酒を飲んでも愚痴が止まらない。

 死が迫っているのを肌で感じているのだろうな。


 助ける道理はないが、王に頼まれているから事態の収拾はするけどもね。

 ドラゴンがこいつらの命で赦すと言ったら、容赦なく切り捨てよう。


 遠くにいるモンスターの雄叫びが聞こえた。


「ひっ」


 クラフティ達が怯える。

 野良のモンスターにも怯えるのは相当きているな。


「どうするおつもりですか?」


 カリーナに尋ねられた。


「真勇者ごっこはお終いだな。これだけのことをやらかせば、貴族も納得するだろう」

「名誉勇者はソロになるのですか?」

「そうだ。カリーナ、名誉勇者パーティに入らない?」

「良いですわね。二人でどこまでも行きましょうか」


「仮面を手に入れないとな」

「それなら仮面舞踏会用の仮面がいくつもあります。蝶々部隊の誰でも良いので、仮面舞踏会用の仮面を持って来てくださる?」


「ではわたくしが」


 蝶々部隊のひとりが仮面を取りに行った。


 再びクラフティ達の映像。


「何だ、ただのモンスターじゃないか」

「ドラゴンが来たと思って震えたわ」

「あっ、クラフティ、少し後ろを向いてて」


 カルエルはちびったらしい。

 下着を替え始めた。


 慌てて分身の映像を切る。

 カルエルは慎みという物がないのか。

 男がいる前で着替えるなよ。


 もっともパーティを組むと、水浴びや、一緒のテントで寝たりすることもある。

 あっ、カリーナと一緒のパーティで行動するってことは、そういうこともあるのか。

 いいや、カリーナのことだから侍女が付いて来るに違いない。

 今までも必ず侍女が付いて来た。


「パーティの遠征には侍女が付いて来るんだよね?」

「ええ。それが何か?」

「いいや確認したかっただけ」


 婚前旅行とはいかないらしい。

 カルエルの着替えが終わったらしい。

 映像を復活させる。


「俺はちびってない!」

「クラフティ、どうしたのよ」

「そうね」


「いや」

「もしかしてちびったの。着替えなさいよ。外でお願いね。御者さん馬車を停めて!」


 クラフティが外で着替える。

 鎧があるので着替えには時間が掛かる。


「実は私もちびったの」


 馬車を覗くとスロベニーがそう言った。

 全員かよ。

 まああれだけ酒を飲めばちびるのも当然か。


 クラフティの裸も見たくなかったので映像を切る。

 こいつら、どうしようもないな。

 真勇者を名乗るなら、モンスターの咆哮ぐらいでびびって漏らすなよ。


「全く締まりのない奴らだ」

「わたくし、モンスターの前に普通に立てば粗相するかも知れないですけど、ライド様と一緒なら邪神が現れても平気ですわ」

「俺もだよ。カリーナと一緒ならどんな敵にも立ち向かえる」


「こほん」


 俺とカリーナが見つめ合ってたので、蝶々部隊のひとりが咳をする。


「ええとキスなんかしないさ」

「仮面を持ってまいりました。さっきから声を掛けていたのですが」


「ごめん。二人の世界に入ってた」

「仮面はこれが良いですわね」


 カリーナが選んだのは、目だけ隠すタイプの仮面。

 これだと、誰かというのが分かりそうだが。

 別に良いのか。

 スキャンダルってことでもないからな。


 勇者パーティに入るのは名誉だからな。

 クラフティ達の着替えが終わったらしい。

 馬車が動き出した音がした。

 映像を繋ぐ。


「このことは絶対に言うなよ」

「ええ、言わないわ」

「私も。忘れましょう」


 ちびった事実を忘れることにするらしい。

 だが俺は知っているぞ。

 こいつらが生き残って、このことをからかう機会が訪れたら言ってやろう。

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