第118話 集結

 奇しくも、ウラント山のふもとにプリンク達、ワイズベル達、クラフティ達が揃った。


「揃いましたね」


 カリーナが呆れている。


「まあな」


 俺も呆れた口調で返した。


「皆さん久しぶりですね。皆さんもドラゴン討伐に?」


 嫌味ったらしくワイズベルが尋ねる。


「ええと……」


 ばつが悪そうなプリンク。


「そうだょぅ、討伐に来ただ」


 酔っぱらってフラフラなクラフティ。

 ここまでくるうちに飲み続ければそうなるよな。


「クラフティさん達は戦力にならなそうですね。後ろで寝てて良いですよ。プリンクも何やら気が進まないようですね」

「いや、必ず討伐する。必勝の策として箱を用意した」

「何が入っているんですか?」

「秘密だ。その時がくれば分かる」


 卵を盾に取ったら殺されること間違いなしだな。


「まあ、良いでしょう。先陣は切らせてもらいますよ」

「構わない。存分にやれ」


 ワイズベル達が先陣を切るらしい。

 きっと蹴散らされて終わりだな。


「ワイズベルさんは自信がありそうですね」

「レッサードラゴンだって、軍で戦ってやっと撃退したぐらいなんだぞ」


 カリーナと俺は相変わらず雑談していた。


 ワイズベル達がえっちらおっちら、山を登る。

 死刑台に登っていると、こいつらは考えてないのかな。


 ワイズベルは巣穴のすぐそばに陣を敷いた。

 とうとう始まるな。


「斥候隊、巣穴の中に入り、ドラゴンをおびき寄せろ」

「良い物がある。これを見せて、これが何か分かるのなら出て来いと言え」


 プリンクが卵拓を取り出した。

 いいのか。

 きっと、ドラゴンが激怒して出て来るぞ。


 まあ、その時は俺が事態を収めてやろう。


 斥候が巣穴に入る。

 しばらくして、大音量の咆哮が聞こえた。

 クラフティ達が腰を抜かし、盛大に漏らす。


 そして、青い顔をした斥候が全速力で戻ってきた。


「プリンク様、卵拓は逆効果では」

「そういうこともある。だが、これだけ人数がいれば撃退ぐらいできるだろう」


「ワイズベル様、不味いですよ。激怒してます」


 斥候がワイズベルに報告する。


「計算通りだ。おびき寄せられれば問題ない」


 意に介さないワイズベルだが、上手く行くものかな。


「やっぱり、そうなりましたわね。貴族がそんなことをされれば激怒します。いいえ全ての生き物がそうでしょう」


 カリーナの意見に俺も同意だ。


「そういうひとの心が分からないやつらばかりだから」

「人の心を失いたくはないですわね」

「全くだ」


 そして、足音を響かせドラゴンが現れた。


「愛しい我が子を辱しめた奴は誰だ」


 そう言うとドラゴンはブレスを吐き、ウラント山の上の方を吹っ飛ばした。


「ええい、怯むな。魔道具を撃ちまくれ」


 ワイズベルの号令で、賢者の塔の会員は魔道具を撃ち始めた。

 火球がこれでもかと発射され、ドラゴンが炎に包まれる。


「ほわー、心地いいぞ。もっとだ」


 ぜんぜん効いてない。

 まあ、そういう落ちだよな。


「怯むな。冷気に切り換えろ」

「はい」


 火球は冷気に切り換えられた。

 ドラゴンが氷に包まれた。


「温められたあとに冷やされシャキっとしたぞ。これも良きかな」

「駄目だ効いてない。俺は逃げる」


「逃げるな!」


「どうやら俺の切り札の出番だ。おいドラゴン、これが何か分かるか。卵だ」


 そう言ってプリンクは卵の入った箱を指差した。


「卵を殺されたくなければ、俺の命の保証と、財宝をくれ」

「お前が卵泥棒か。許さん。ガァァァ!!!!」


 ドラゴンは咆哮すると卵が入った箱にブレスを吐いた。

 卵は全力ブレスでなければ、温める効果になる。

 だがその温度でも人間は死ぬ。

 ドラゴンが躊躇するいわれはない。


 当然、箱の周りにいた人間はみな逃げた。


 箱は焼けて中身の卵が見える。

 ドラゴンは卵を尻尾で持ち上げると、優しく頬ずりした。


「愛しい我が子よ。大事なかったか。人間め、許さん。この場にいる者は皆殺しだ。逃げても無駄だ。地の果てまで追いかけて行く

「許してくれ。頼む」


 涙を流して、懇願するプリンク。


「ちょっと温めて冷やしただけだ。心地いいと言ってたじゃないか」


 言い訳するワイズベル。


「巣穴に入ったことは謝るぅ」

「謝るから」

「そうよ。この通り」


 土下座するクラフティ達。


「卵泥棒の一味を逃がす訳なかろう」


 ドラゴンは容赦しないようだ。

 そうなるよな。


「学園の生徒には死んで欲しくないですわ」

「カリーナが言うなら善処するよ」

「てすがお仕置きは必要ですわね」

「学園の生徒には先生達からきつく叱ってもらって、課題をどっさり出すように言おう」

「便所掃除も付け加えて下さいまし」

「そうだな。そう言っておこう」


 あー、遂に俺の出番か。

 全く、世話が焼ける。

 まあ、登場するのは分身達だけどな。

 卵がドラゴンの手元に戻った今なら交渉できるかも。

 交渉できなければ、分身を魔力に戻してドラゴンを殺すしかないな。

 話ができるモンスターは貴重だからできれば殺したくないのだが。

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