第16話 野営

 順位戦が終わり、退屈な授業の日々が流れた。

 そして郊外実習の季節がやってきたようだ。

 生徒の話題はそれで持ち切りだ。


 どうせ、ゴブリンを倒して終わりの退屈な課外授業だ。

 一応、1泊の予定だ。

 収納魔法があるから荷物はほとんどない。


 歩くのが退屈なだけだ。


「親分、最近モンスターの分布がおかしいらしいですぜ」


 ファントムが姿を消したまま俺に話し掛けた。

 話をしながら歩く方が退屈が紛れて良い。


「へぇ、一波乱あるかな」

「そう言えばオークのスタンピードもイレギュラーだったらしいな」

「へい。大物が現れたって推測が飛び交っております」


 大物ねぇ、死竜巻デストルネードの試し撃ちをやりたいな。


「まあ、大丈夫でしょう。ドラゴンが出て来ても余裕、余裕」

「そうですね。親分なら余裕でしょう」


「みなさーん、この野営地で野営します。テントを張って下さい」


 サマンサ先生の合図で生徒が野営の準備に入る。

 今回、郊外実習するのは俺達のクラスだけだ。

 野営地に30人はギリギリの数だ。

 あちらこちらで収納ストレージ魔法からテント、食材、食器、薪などを出す光景が見られた。


 俺も補給係の生徒からテントを受け取って組み立てに掛かる。

 前世では何度もキャンプはやった。

 子供の頃なんか、夏休みの半分をテントで過ごしたこともあるぐらいだ。


 まず、溝を掘る。

 これは雨が降ってきた時にテントの中に水を入れないためだ。



 地面を均してから、シートを何枚も敷く。

 下の地面はでこぼこしているので、寝心地が悪い。

 運搬の重量に制限がないのなら、普通こうする。


 テントを張ってペグでしっかり止める。

 慣れていればこんなのは簡単だ。


 レンガを組み合わせてかまどを作る。

 子供の頃は川から石を拾ってきて作ったが、今回はレンガが支給されている。


 着火剤代わりに紙をくちゃくちゃにしたものを入れてその上に薪を組む。


「ファントム、火を点けてくれ」

「へい、点火イグニッション


 鍋に水を張り切った食材わ入れる。

 前世の子供の時のほうがよっぽどアウトドアだったな。

 その時は魚釣りして、魚をてんぷらに揚げた。

 魚の内臓を取るのはすぐに慣れた。

 カミソリで腹を裂いて、指を突っ込んで内臓を掻き出すのだ。

 浮袋がくびれていて二つになっていたのが面白かった。

 水に浮かべて遊んだものだ。


 寄生虫が怖いのでてんぷらはかなり焦げた感じまで揚げた。

 それでも出来立ては美味かった。


 今回作るのはスープだ。

 メニューは串肉派とスープ派に分かれるようだ。


 パンがぼそぼそしてなきゃ俺も串肉にしてた。

 米の飯が食いたい。

 時間ができたら探してみよう。


 スープはすぐにでき上がった。

 煮込みが足りないので味は良くない。

 味が染み込むまで煮ていたら夜遅くになってしまう。

 串肉を選んだ奴はそれが嫌だったのかも。


 とりあえず食えるというスープでパンをふやかして食べて夕食を終えた。

 さて、寝るか。

 流体把握フルイドグラスプを目一杯展開する。

 小便に起きる生徒に起こされるんだろうな。

 いまだに敵味方の識別はできない。


 この前の外での訓練で一時間おきぐらいに起こされるのはなれた。

 熟睡できないので疲れは取れないが、1時間寝れば次の日眠たいということはない。


 若いからだろうな。

 見張りの役目も回ってくる。

 人数が多いので、ヘマすることはないと思いたい。


 流体把握フルイドグラスプの最大値は100メートルぐらいだ。

 何とかもっと広げられないかな。

 そんなことを考えながら眠りに就いた。


 夜中、見張りが慌ただしく動いて、流体把握フルイドグラスプに触れて起こされた。


「敵襲! 訓練ではない! 敵襲」


 敵はどこだ。

 まだ100メートル圏内には入ってないらしい。


 照明ライトの魔法で街道が照らされる。

 何十人もがやるので野球場のナイターより明るい。


 そして見えた。

 なんだオークかよ。

 だが、一部の生徒には手に余るだろうな。


「あっしがやりましょうか」

「どういう作戦でだ」

「無限に魔力を供給してくだせぇ。魔法を撃ちまくってこんがり焼いてご覧にいれますぜ」


 ファントムを固定砲台として使うのだな。

 うん、それで行くか。


 ファントムが火球を撃ち始めた。

 俺は魔力譲渡マナトランスファーで魔力を供給し始めた。

 生徒も釣られて火球を放つ。

 そして、早い奴は10発も撃つと魔力切れになった。

 オークは街道を使って続々とやってくる。


 これは、俺の魔力量が一般人の100倍設定で行くと手に余る。

 1000倍設定というのは不味い。

 そうなると人外だからな。

 禁忌の手法を使ったのではないかと評判が立ちそうだ。


 ファントムに仮面を被って、姿を現してもらうか。

 どうやらそれしかないな。


 それにしてもオークの数が多い。

 もう500はやっただろう。

 だが、一向に減る気配がない。

 2000ぐらいで止まるだろうか。


 こんな量のオークがどこに隠れてた?

 まあ、原因究明は後で良い。

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