第102話 チート害悪論
「チート害悪論か……」
今日も研究室デート。
「悩み事ですか」
カリーナに心配されてしまった。
「青春ですねぇ。先生はチートを持つ人間が、良心と責任と覚悟を持っていればいいのではないかと思います」
サマンサ先生の答えは模範解答だ。
綺麗事とも言う。
俺は今までの行動に責任を持てるだろうか。
少なくとも良心には背いてない。
覚悟もある。
責任はちょっと。
責任なんか持ってられるかと言いたい。
名誉勇者で、勇者の責任から俺は逃れた。
どうやら、俺は責任というものが嫌いらしい。
魔道具技術の開発だって、悪用されてもそんなの俺の責任じゃないと言いたい。
使った奴に意思があるのだから、悪用したら、そいつが悪い。
責任なんてものを背負っていたら、きっと俺は押し潰される。
これがチートを持つ者の苦悩か。
いや、思うところはあるよ。
殺されたモンスターにだって家族がいたんだなとか。
だけど、殺さなければ人間が殺される。
盗賊だってそうだ。
殺さなければ誰かが傷つく。
それに責任なんか感じてはいられない。
「結局、世の中なるようにしかならない。良心が痛むのは嫌だから、悪事は働かないけど。他はわりかしどうでも良い」
「わたくしとしては、サマンサ先生の言うことは間違っていると思いますわ。現実は力が正義なのです。ちから無き者は集団になるなりなんなりして力を持たなければ、やっていけません。チートはそれだけで正義なのです」
カリーナはチート信奉者だな。
まあ、力がないとモンスターが溢れるこの世界じゃやっていけない。
力が正義とは考えたくないけど、実際はそうなんだよな。
そこには良心も責任も覚悟もない。
「カリーナさん、力には理想が必要です。先生はそう思いますよ」
理想を考えて力を振るったことなどないな。
必要だからしただけ。
こう考えると、俺は流れに従っていただけだ。
正義も理想もない。
だから、ある意味ぼっちなのか。
カリーナ以外に本当に親しい者がいない。
カリスマみたいな物が皆無なんだな。
「分かったよ。もう悩まない。俺はカリーナさえいれば良い。俺の理想と正義はカリーナとの幸せな生活だ。そのためならチートを容赦なく振るう」
「ライド君は、カリーナさん第一主義なのですね」
「そうだ。昔からずっとそうだ」
チートなんか関係ない。
良心も責任も覚悟も関係ない。
カリーナだけが俺をこの世に繋ぎとめている。
それがなかったら俺は恐らく、地球への帰還を目指しただろうな。
悩む必要なんかなかったんだな。
すっきりしたよ。
「インテリジェンスアイテムについて、研究は進みましたか」
「計算機がやっとなのに無理ですよ」
「デジタル魔力回路が発展すると、インテリジェンスアイテムになるのですか?」
「それに近くなるかな」
小型化か。
ゴーレムと縮小の魔法を使っているけど、限界があってそこから小型化が進まない。
レーザー加工は無理だよな。
コンピュータがあればまた別だが。
とりあえず目指すのは初期のゲーム機ぐらいだな。
それを作るのにはやっぱり集積回路が必要だ。
魔力回路を描いている台紙は紙や板なんだよな。
金属板にしたいところだ。
金属板にすると、魔導インクが付着しない。
「金属に付着する魔導インクの開発からだな」
「ふむ、金属の板の上に魔力回路を描くわけですか。簡単ですよ。糊を混ぜれば良いんです」
そんな簡単に。
でも理に適っている。
糊を混ぜた、魔導インクの印刷か。
ハードルが上がるな。
インクジェットもまだ完成してないのに。
小さく描くには、台紙を動かして、描く方が良いのだろうな。
なんか、ICのはんだ付けみたいだ。
ゴーレムでやるべきだな。
マイクロの単位で動くのを制御するなんて出来ないだろう。
ミリが限界かな。
フィルムを焼き付けるみたいなことが可能なら良いんだけど。
レンズもそんなに精度の良い物はないな。
「ゴーレムでレンズ磨きをしましょう」
「なぜにレンズですか」
「物が大きく見えたり小さく見えたりするのはレンズが必要です。集積魔力回路に必要かどうかは分からないですが」
「レンズ、良いですわね。祖父の目が悪くなってますから、良い眼鏡を作ってあげたいですわ」
「分かりました。開発させていただきます」
「描くんじゃなくて、レンズを使って小さくして、焼き付けるが出来たら良いんですけどね」
「そこで魔力回路と繋がるわけですか。魔導インクを焼き付けるのは魔法なら可能かも知れません。台紙が金属なら焼けたりしないですから。ただ制御が問題ですね。小さく描くなんて人間にはできません」
うーん、ここでも制御か。
人間がやるならミリ単位が限界か。
マイクロやナノは無理だな。
ええと、大きい魔力回路なら焼き付けて描ける。
この魔法自体を縮小したらどうかな。
威力を縮小するんじゃなくて均一に範囲を縮小する。
「範囲縮小魔法はできませんかね。レンズで小さくするみたいに」
「魔法のレンズですか。効果範囲を拡大する魔法はあります。逆もできるかも知れません」
「ああ、その魔法ができても、レンズ磨きゴーレムは作ってね」
「はい、パトロンの意向は大切ですから」
魔導インク焼き付け魔法と、魔法範囲縮小魔法の組み合わせでどうか。
サマンサ先生の開発を待とう。
今回のブレークスルーは台紙を金属にすることだな。
集積回路もシリコンの上に描かれている。
考えたら、金属の方が耐久性もある。
良い事尽くめだ。
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