第93話 お前はもう……

「ええと何?」


 ワイズベルが物陰から現れて、分身ナンバー1に死を告げる手を突き付けて起動した。


「ふはは、お前はもう死んでいる」


 笑いをこらえるので本体の腹筋が痛い。


「ぷぷぷっ。あのね、ごっこ遊びに付き合ってあげたいけど、俺はお子様じゃないから」

「馬鹿にしたな。いいさ、死ぬ時を待つんだな」

「はははっ、孫の手でどうやって殺すつもり。それって死を告げる手だろう。孫の手だと知らなかったの。カリーナの祖父の愛用品なんだぜ。だからよく知っている」

「くっ」

「わはは、はははっ。くくくっ、笑い殺すつもりなら成功しているかもな。ひぃ、おかしい。孫の手で、お前はもう死んでいるだって」

「くそう、覚えていろよ」


 分身ナンバー1が姿を消してワイズベルの後をつける。


「恥をかいた」


 ワイズベルは賢者の塔の部室に行くと、側近に当たり散らした。

 そして、プリンクの所の店員が現れた。


「どこが、呪いの品だ孫の手だって言うじゃないか」

「死を告げる手だって言いましたよね。商品の名前は間違っていません」

「何で孫の手にそんな名前が」

「知りませんよ。代金は返しません」

「くそっ、僕が間抜けだったのか」


 分身はそっと部屋を出た。

 いい気分だ。

 分身ナンバー1がカリーナの分身を連れて、サマンサ先生研究室を訪ねる。


「見て下さい。バイブ、矩形波バージョンです」

「最先端の技術をそんな物に使うなよ」

「先生らしいですわね」


「だって、考えついたから」

「振動魔法の魔力回路を持ってきたんですが、要らないですね」

「何言っているの、ソフトな振動、ハードな振動、色んな振動があっていいじゃない。先生はそう思いますよ」


 目的がエロでなければな。

 最初に作った、棍棒みたいなマッサージ器タイプは肩こりにも使われている。

 あれな形の奴は、魔力電池式だ。

 そして今回のは小さい玉子型。


 なんで前世の物が網羅されているんだ。


「魔力コンピューターはどうなんですか?」

「ええと、鋭意、小型化を模索中。研究費が足りない。ゴーレムに魔力回路を描かせるのは良いけど、すぐに時代遅れになってしまって。それで廃棄して、新しいゴーレムを作るから、金が湯水のようになくなるの」


 分かっているよ。

 前世でも半導体開発は、湯水のように金が消えてったからな。


「分かった。金貨10万枚を支援しよう」

「ライド君、愛してる」


「サマンサ先生!」


 カリーナが声を荒らげた。


「サマンサ先生、そう言うことを言うと支援を打ち切りますよ」

「うそうそ、ライド君なんか愛してない。愛しているのはお金だけ」

「全く、今度そういうことを言ったら、貸し出している魔力鉱山を取り上げます」

「カリーナ様、赦して下さい」

「今回だけですよ。失言には気を付けて下さいませ」


 細かい、魔力回路を描くなら、水魔法を応用したらどうだろうか。

 魔導インクを水魔法で動かすとか考えたが、ナノメートル単位で、水魔法を駆使するのは無理だ。

 魔道具に作ってもたぶん無理だろう。


 ナノメートル単位の思考か。

 ならば、縮小魔法はどうだ。

 拡大、縮小魔法は存在しない。

 物理法則に反するからな。

 拡大だとどこから材料を持ってきたとなる。

 縮小だと余った物はどこへ行くとなる。


 だが拡大よりは縮小は簡単だ、

 余った材料はゴミとしてしまえば良い。

 魔導インクがたくさんゴミとして廃棄されることになるが、


「サマンサ先生、縮小魔法を開発しましょう。なに縮めて余分な所はゴミとすれば良いのです」

「金が掛かりますが、良いアイデアです。ゴーレムになるべく小さく描かせて、縮小魔法でさらに小さくする。これも開発にお金が掛かりそうです」

「金なんか稼げばよいのですわ」

「カリーナの言う通り」


「持っている人は違いますね」


 縮小魔法は割と簡単にできた。

 ただ大量のゴミが出たが。

 リサイクル魔法も考えないとな。

 半導体もシリコンウエハーの端とかリサイクルしてたからな。


 魔力鉱山があるので魔力は枯渇しない。

 抽出の魔道具で、リサイクルはできるはずだ。


 金の抽出より簡単だ。

 魔導インクのリサイクル魔道具もでき上がった。


 使ったら死ぬシリーズの作者に会いたいな。

 きっと新しい視点があると思う。

 だが、きっと気難しくてマッドサイエンティストなのだろう。

 作った作品を見るとそんな感じだ。


 魔導電卓が完成した。

 形も前世の電卓と一緒だ。

 キーを叩けば計算できる。


 キーのスイッチは魔力感知。

 指の魔力で押すのを感知する。


 表示はLEDみたいな光の表示。

 明るい所だと見づらい。


 液晶みたいな感じの部品の開発が急がれる。

 サマンサ先生にアイデアを話したから、そのうち何とかなるだろう。


 魔導電卓は消費魔力も少ないから、使用者から常に魔力を吸うタイプの魔道具だ。

 価格は金貨1枚。

 商家や役人に爆売れしているらしい。


 まあ、ここまで技術が進めば、コンピューターもすぐにできるな。

 テレビモニターが欲しい所だ。


 なんか文明が歪なような気がする。

 テレビよりラジオかな。

 この文明でラジオやるなら、魔力式ラジオだな。

 魔力を飛ばして声に変換する。


 となると、ラジオ局は、魔脈の近くに建てないといけないか。

 そうでないと大量の魔力が用意できない。


 コンピューターの次は、ラジオ、テレビだな。

 カメラもまだだったな。

 開発すべき物は多いな。


 よし、次は魔力ラジオ、魔力カメラを考えよう。

 サマンサ先生が頑張ってくれるはず。

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