第92話 孫の手
プリンクが呪いの品をニヤニヤと眺めている。
それは骨の腕だった。
この骨の腕、魔力の残滓がある。
魔道具の一種だな、
どんな効果かは分からない。
「これが、死を告げる手か」
「はい、こっとう市で銀貨1枚で売られていました」
「魔力感知で診たら確かに微かに魔力が流れている。だが、本物なら銀貨1枚はないだろう」
「ですね。気味の悪い品ですし、金貨3枚ぐらいで売るのがよろしいかと」
「大儲けだな」
プリンクがいなくなった後に分身ナンバー2を使って、死を告げる手を起動してみた。
腕が少し動いただけだ。
えっと、どういうことだ。
この腕が動いて締め殺すとでも言うのか。
分身ナンバー2は別に異常はないぞ。
絞められてもいない。
いったいどういう魔道具だ。
人間でないと反応しないのかな。
本体で忍び込んで、魔道具を起動してみた。
やはり、少し動いただけ。
呪いを掛けられたような痕跡もない。
一体なんの魔道具だ。
それに骨に見えるが、実際は白い木みたいな物で作ってある。
何なんだろう。
こう、分からないというのはモヤモヤする。
「ライド様、お茶にしませんか」
邸宅に戻った俺にカリーナがお茶を淹れてくれた。
「いま、見てる骨みたいな魔道具の用途が分からないんだ」
「あれっ、どこかで見た気がします」
「どこだ?」
「祖父の部屋ですね」
「変なことを聞くけど、祖父は元気?」
「ええ」
カリーナの祖父が使っているのが、これと同じ品でないとしたら、割とありふれた物なのかな。
たくさん作られた物みたいだ。
分身ナンバー2をバッタ屋に行かせた。
「骨の腕の魔道具はあるか?」
「わははっ、若いのに背中が痒いんだ。軟膏を塗ると良いぞ」
「あれって、孫の手だったのか。確かに爪を立てるような動きだった。それって死を告げる手って商品名なのか」
「正式名は爪立てる骸骨。だが、その名前で呼ぶ奴もいる。背中が痒いのは年寄りに多いからな。これを使う奴はお迎えが近い」
謎が解けてスッキリ。
背中が痒いのは年寄りね。
乾燥肌の関係かな。
孫の手が呪いの品、笑える。
「それにしても悪趣味な魔道具だ。形と言い色と言い」
「作ったのは使ったら死ぬシリーズの作者だよ」
ギャグのつもりか。
ブラックジョークだな。
こんな物も作るなんて、たぶん作者は年寄りだな。
死を告げる手を俺も買って、ばらしてみた。
指の中心に糸が入ってて、引っ張ると爪を立てるような感じになる。
魔道具でもなくても、爪を立てた形に最初からして、孫の手にすれば良いのに。
でも、なかなか面白い作品だ。
ゴーレムに応用が利く。
ワイヤーを引っ張って、ゴーレムを動かすのはありだな。
物を掴むのに、指の関節を全部、動かさないといけないのは複雑だ。
これなら、引っ張るだけ。
動作は限られてしまうが、場面によっては役立つと思う。
この技術を応用すれば高枝切りバサミも出来るな。
アイデアだけカリーナに渡そう。
高枝切りバサミなんて大勢に影響がないからな。
ワイズベルが孫の手を分身に使ったらどうしよう。
大爆笑してしまいそうだ。
そうしたら監視しているのがモロばれだな。
笑いをこらえられるだろうか。
「嬉しそうですわね」
「まあな。あの骨の腕、孫の手らしいぞ」
「まあ、そうなんですか。不気味でしたから、何に使うのか分かりませんでした」
高枝切りバサミのアイデアをカリーナに話した。
「どうかな」
「この果樹を切って、挟んで固定というのは良いですね。果物を取る時に地面に落ちると、潰れてしまいますから」
前世の商品がそうだった。
おじいちゃんの家で柿とかよく採ったなぁ。
思い出したよ。
確か別パーツがあったな。
「別のパーツでノコギリもつけよう」
「高い所の枝を切るのに便利そうですね」
そう言えば振動魔法があったな。
これをノコギリに付ければ、簡易チェーンソウだな。
さて喜劇にするなら、クラフティにも情報を渡さないと。
さすがに情報屋は死を告げる手のことは知っているよな。
それをワイズベルが手に入れたと伝えてもたぶん笑われるだけだ。
呪いの品とぼかして伝えても、きっと裏を取るだろう。
クラフティは今回は休みかな。
分身ナンバー1がプリンクの店員を目にした。
「呪いの品、死を告げる手です」
自信満々で、店員が孫の手である死を告げる手を差し出す。
「これが、
孫の手を手に入れて勝ったつもりでいる。
事実を教える時が待ち遠しい。
監視しているのがばれないように、ネタばらしをしてやらないとな。
今から台詞を考えておこう。
呪いは手に入らなかったが、高枝切りバサミが作れたから、よしとしておきますか。
明日が楽しみだ。
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