第106話 魔力コンピュータ

 縮小焼き付け魔法で魔力回路の小型化が進んだ。

 電卓の大きさは前世の物と変わりない。

 もっと小さくできるが、ボタンがあるので、小さくはできない。


 プログラムが可能なコンピュータも作られた。

 アセンブラなのでちんぷんかんぷん。

 基本は数値の移動と、足し算などの計算と、分岐とスタック操作と、サブルーチンなんだけどね。


 ここまで来ると専門家に任せた方が良い。

 俺もアセンブラは詳しくない。

 C言語なら大学にいた時に少し齧った。

 簡単なプログラムなら出来るけど、そんなに詳しくない。


 アセンブラもC言語もほとんど変わりないとプログラムが得意な奴は言ってたけど、とにかくC言語の色々を本にまとめて、コンパイラを作れと差し出した。


「凄い。画期的ですね。こんな言語を思いつくなんて」


 研究室でサマンサ先生が目を丸くした。

 前世の研究者が凄いだけだ。


「抜けがあるから、便利になるように補完しながらやってほしい」


 C言語の命令は多岐にわたる。

 全部覚えてはいない。

 基本的な所だけだ。


 標準関数も全部は覚えていない。

 こういうのは必要に応じて作れば良い。


 C言語ができれば、コンピュータ社会はもう目前だな。

 きっと30年も経てば、物凄い発展を遂げるはずだ。


 テレビモニターだが、光の魔力回路をたくさん並べて実現している。

 前世のブラウン管後のテレビモニターと同じだ。


 これも魔力回路を小さく描くという技術が成しえたことだ。

 価格はなんと金貨181枚。

 これでも抑えたほうなのだとか。


 大量生産が始まれば値段はきっと下がっていく。


「これは魔導インクの値段が高騰するのではないでしょうか」

「カリーナの読みは正しいな。サマンサ先生、魔導インクの材料は?」


「赤い染料、魔石の粉、各種モンスターの血よ」


 赤い染料はともかく、魔石の粉とモンスターの血の増産はどうにもならない。

 モンスターを飼うわけにはいかないからな。


「モンスターの血が魔導インクの性質を決定するんだよね」

「ええ」


 要するに、電気部品に例えると、血の種類が変わるとコンデンサーになったり、抵抗になったり、トランジスターになったりするらしい。

 魔力がどう変化するかは周波数だ。

 血は周波数を変えるらしい。

 だから、魔力の周波数を変える物質を作り出せば代替品にできる。


 魔力の周波数を変える物質ね、難しい問題だ。

 人間は思念で周波数を変えている。

 思念を物資化できればいいのだが。


「思念の物資化か」

「想いを永久に保存できるなんてロマンチックですね」

「別の意味でロマンですね」


 思念はなんだ。

 普通に考えたら、超能力だろうな。

 だが待てよ。

 電気が魔力に影響を及ぼしているってことはないか。

 この仮説が正しいとしても、どうやってインクの中に電気を仕込む。

 モンスター素材でそんなのがあったとしても、それじゃ本末転倒だ。

 人工的にモンスターの血の効果を作ってこそだ。


「魔力を流すと微癪な電気を発声する物質。これが作れれば良い」

「ええと、作れるような気がします」


 サマンサ先生は作れるらしい。


「詳しく!」

「魔石が染まると、そういう物質になります。どうやって染めるかですが、雷に打たれるとそうなるらしいです」

「電気が魔石の中に残留するのか。非科学的だな」


 どういう理屈だろう。

 きっと魔石の性質が雷のエネルギーで変わったのだな。

 謎だがそういうことにしておこう。


 巨大魔石で、電撃を起こして、魔石に当てる。

 こんなんで良いのかな。


 変化した魔石を粉にして、染料はまだいいや。

 それで魔力回路を描こうとしたが、この魔石は魔導インクのどれにあたるのか。


 今までの魔導インクが微癪な電気を発していれば、計測できるはずだ。

 これを最初にやっておけよということだな。


 数日後、サマンサ先生は魔導インクの電気波形を検知する魔道具を作った。

 デジタル魔力回路が成しえた技らしい。


 推測の通り、魔導インクは魔力を通すと微弱な電気を発生しているようだ。

 思念はないのか。

 サイキックエネルギーとかロマンなのにな。

 脳内や神経の電気信号が魔力を操っていたんだな。


 電気の強さは関係ないらしい。

 というか強いと駄目のようだ。

 本当に微弱な電気が魔力に影響を及ぼす。


 人工魔導インクも問題なく動作した。

 染める時の電圧で、魔導インクの種類を決定できることが分かった。


「後は魔石の量を確保だな」

「ネズミのモンスターなら飼育できます。ペットとして飼われてて、愛好家もいますよ」

「ペットはな。心が痛む」


「ああ、ハモンスターですか私も飼ってました」

「白いハモンスターが人気なんですよね」


 カリーナとサマンサ先生は愛好家だったらしい。


「ペットではないモンスターが良いな」

「黒いブラックハモンスターは、不吉なのでペットとして飼われてませんけど」

「不吉なのは理由がありそうだな。飼っていた村が滅びたとか」

「ええ、そういう逸話が残ってます」

「それは伝染病じゃなかったか?」

「そうです」


 ブラックハモンスターは病気を媒介するらしい。

 これを飼うのは俺もさすがに嫌だ。


「伝染病が蔓延したら嫌過ぎる」

「ダンジョンのブラックハモンスターを増殖させれば良いんです。ダンジョンから疫病が出たという話は聞きません」


 ダンジョンは菌を殺すのだな。

 病気でダンジョンのモンスターが滅びたなんてことになると不味いのは分かる。

 だから、何らかの仕組みが働いているんだろうな。


「スタンピードを起こさない程度に増やして討伐か。良いね」

「幸い、ブラックハモンスターは、第1階層のザコですから」


 残飯を入れればモンスターは勝手に増える。

 ダンジョンに養殖してもらうのは良いかもな。

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