第67話 賢者の塔

 分身ナンバー1は、弟のワイズベルに付けている。

 ワイズベルはいよいよ動くみたいだ。

 賢者の塔なる組織を作って会費を集め始めた。


 賢者の塔の会員は下級、中級、上級、最上級、塔主に分かれている。

 塔主はもちろんワイズベルだ。


 まず会員になる利点だが、授業の攻略ノートが閲覧できるようになる。

 参考書みたいなものだ。

 階級が上がると閲覧情報が、試験問題の予想だったり重要な物となる。

 当然、階級を上げるにはお金と貢献度が必要だ。


 賢いがごっこ遊びの範疇を出ない。


「ライドを倒す計画を練らないといけない」

「賢者の塔の会員を殺し屋に仕立てましょうか。貢献度を餌にすれば問題ないですね」

「とりあえず毒殺からだな」


 毒殺ね。

 分身ナンバー1の腹の空間に食べた物は収まる。

 とうぜん分身は痛くも痒くもない。


 しかし、魔法学園の生徒を殺し屋に仕立てるとは。

 分身がワイズベル側近の後をつける。


「ライドに下剤を入れろ。そうすれば中級会員にしてやる」

「下剤ですか」

「ああ、悪戯だよ」

「下剤なら」


 下剤じゃないのを俺は知っている。

 即死する毒なんて言ったら怖気ずくからだろうけど。


 俺の本体が魔法学園に来る時は気をつけよう。

 その日からたぶん毒が入れられた。

 分身は何事もないように毒入りの食事を食べる。


「くそっ、毒は入っているんだよな」

「はい。おそらく解毒の魔法か魔道具を使ったと思われます」


「魔法や魔道具でもダメージはゼロにはできない。少しずつ弱っていくはずだ。続けろ」

「はい」


 いや、ダメージゼロだから。


「椅子に毒針を仕込め」

「はい」

「関係ない者が死んだり、ライドが死んでから毒針の回収を忘れるなよ」

「はい」


 側近の後をつける。


「この針を座席に仕込め。そうすれば中級会員だ。なにチクっとするだけの悪戯だ」

「分かりました」


 次の日、いつも座る椅子に毒針があった。

 分身なら座っても問題ないが、影武者だと判るのもよろしくない。

 毒針を無造作に摘まんで、ポケットに入れた。


 放課後、分身が姿を消して、賢者の塔の部室に忍び込む。


「なぜ、毒針が分かった」

「用心深いのか、金属探知系の魔道具でも使ったのか、どちらかでしょう」

「金属の毒針は駄目か。失敗したな。植物のとげを最初から使っていれば。隙を見て靴の中に毒針を仕込め」

「はい」


 この世界、西洋と同じで靴は滅多に脱がない。

 寝る時ぐらいだ。

 もっとも分身の服と靴は魔力結晶で出来ている。

 一体化していると言っても良い。


 靴だけ分離も出来るが、そんなめんどくさいことはしない。

 靴を脱いだら針を仕込もうと、生徒が俺を尾行しているのが魔力の流れで分かる。


 ご苦労なことだ。


「なにっ。靴を脱がないだと。寝る時もか」

「寝てないそうです。椅子に腰かけて微動だにしないと言ってました」

「それは寝てるのではないか」

「靴は脱いでません。休む椅子に毒針を仕込みましたが見破られました」


「用心深くさせてしまったな」

「それと、姿を消している時間帯があるようです。放課後はどこにいるのか掴めません。門番は出て行ったことはないと言ってます」

 ここにいるぞ。


「秘密の抜け穴があるのかもな。それは良いな。賢者の塔も魔法学園からこっそり出れる抜け穴を作ろう。きっと金になる」

「手配します」


 分身が霧化できるのは言わない約束だ。


「情報屋から情報を買ったのだが、気になる情報がある」

「なんですか」

「ファントムとの繋がりが見受けられる」

「あの名誉勇者のファントムですか?」


「名誉勇者パーティの馬鹿がファントムを追放した。これが意味するところはライドにファントムという手駒がいるということだ」

「毒針の件で報復があると?」

「ああ、こちらも気をつけねば。痛っ。これはライドに仕組んだ毒針。解毒剤を早く」


 うん、やり返させて貰った。

 毒は洗ってある。

 こいつを殺しても別の弟が来るだけだ。

 弟を皆殺しは流石に俺でもちょっとなと思う。

 必要があればするけどな。

 特にカリーナに手を出したら殺す。

 問答無用で殺す。


「ファントムの仕業でしょうか」

「間違いない」

「どうします。食べ物に毒を入れるのはやめますか」

「いまさらやめてどうする。仲良く休戦しようとでもいうのか。うっ、腹が」


 ワイズベルがトイレに駆け込む。

 1時間ほどしてげっそりとしてトイレから出て来た。


「解毒剤の副作用ですか?」

「いいや、夕食に下剤を仕込まれた。甘いな。俺なら即死の毒を仕込む。だが、警告なのだろうな」

「休戦しますか」

「しないと駄目だろうな。ファントムがどんな手口で毒を仕込んだのか分かればな」


 休戦か。

 プリンクとは違うな。

 引き際はわきまえているということか。

 もっとも穴がありすぎでへっぽこだけどな。


隠蔽ハイド魔法ではないですか」

「感知の魔道具は揃えてある。振動と音感知という一般人は知らないような物までな」


 おお、振動感知と音感知か。

 バッタ屋も知らなかった奴だな。

 ちなみに分身は宙に浮いている。

 移動には一切音を立てない。

 振動もないと思う。


「ファントムの正体は幽霊ではないですかね」

「まさか。だが、それぐらい突拍子もない正体かもな」


 ファントムの情報は取られても構わない。

 知る人ぞ知る公然の秘密だからな。


 貴族の耳聡い者ならたいがい知っている。

 ただファントムの本当の実力を知っているのは王家だけだ。

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