第4話 子分

デス


 詠唱は要らないが、魔法らしく見せかける訓練だ。

 実際は高濃度の魔力で包むだけ。

 モンスターは喉を掻き毟って死ぬ。


魔力譲渡マナトランスファー


 これはカリーナにやっていた行為だが、魔法らしくした。

 実際に死と魔力譲渡の魔法は伝説だ。

 デス魔法は物騒だ。

 とりあえず穏便な魔力譲渡マナトランスファーに目覚めたとしておこう。

 助かったのは親切な冒険者に助けられた。

 その冒険者に魔力を譲渡したことにすれば良い。


探査サーチ


 この技は地味だな。

 元になった魔法も地味だからな。

 でも俺のは高性能だ。

 本家にも負けないと思っている。


 今一番怖いのは魔力切れだ。

 魔力が切れたら俺は一般人だ。


 なので体外を循環している魔力と自然界の魔力を混ぜる。

 そして俺の物にする。


魔力吸収マナアブソーブ


 魔力吸収だ。

 4つの魔法モドキができた。


 ただ魔力感知マナセンサーの魔法を掛けられたら種がばれる。

 魔力譲渡マナトランスファーだけなら問題ないだろう。

 魔力が相手の体に入るだけだからな。


 魔石を採りながら進んだが、ポケットがそろそろ一杯だ。

 サクサクと進むか。

 上層の弱いモンスターの魔石は安いから、そんなに金にはならない。


 目立つのが問題だな。

 100メートルの範囲で探査サーチ魔力吸収マナアブソーブ

 50メートルの範囲でデス

 この体勢で進んだ。


 冒険者がいる所は迂回して進む。

 誰にも会わずにダンジョンから出られた。


 ダンジョン脇の換金所で魔石を換金する。

 金貨1枚を超えた。

 おお、これだけあれば腹いっぱい食える。

 これからは食事には困らないな。

 盗み食いしていた生活よさらば。


 今まで、使用人は見て見ぬふりをしてくれてたようだ。

 可哀想に思ったのだろうな。

 その恩には報いるよ。


 さて、準最強祝いだ。

 酒、行っちゃうか。

 ダンジョン村の酒場に入る。


「エールとソーセージ、いやステーキの高いのは何があるの?」

「一番高いのはオーク肉だね」


 オークはCランクモンスターだ。

 まあこのクラスの酒場ならそんなもんか。

 ドラゴンステーキが出て来たら驚く所だ。


「じゃあ、それね。パンも頼む」

「はいよ」


 噂話に耳を傾ける。


「貴族の馬鹿がダンジョンで死んだってよ」

「ボンボンなどいくら死んでも構わない」

「だよな」


 プリンクが死んでたら良いんだけど、そう上手くは行かないよな。

 逃げて行く足音が聞こえたし、あの階層から来た道を逆に辿れば問題ないはずだ。

 奴ら、トラップも書き込まれた地図を持っていた。

 死ぬ可能性は低い。


「恐ろしく腕利きの冒険者が試し斬りに来てたらしいぜ」

「へぇ。だがFランクダンジョンだろう」

「広間のモンスターハウスのトラップを起動させたらしい。そこのモンスターを皆殺しだからな。しかも傷がない」

「窒息魔法の類かな」

「それはおとぎ話だろう。実際は水球だな」

「ああ、水は何気に強い。口から侵入させれば息ができないからな」


 ふーん、今後、どうやって殺したとか問われたら、デスと答えられない時は、水魔法と答えるのがいいかもな。


「貴族のボンボンがエクストラポーションを取ってきたらしい」

「Fランクダンジョンでか」

「運が良かったんだろうな」

「持っている奴は何でも持っているんだよな」

「ああ、羨ましいぜ」


 俺は驚くほど何も持ってないな。

 これから、手に入れればいいか。

 デスがあれば問題ないだろう。

 ドラゴンだって勝てる気がする。


 あれっ、見えない奴がいる。

 用心のために循環している魔力に引っ掛かった。


 魔力はそこに何かいると言ってるのに実際はいない。

 隠蔽ハイドかな。

 難しい魔法だ。


 俺はその歩いている見えない奴に足を引っ掛けた。

 そいつは突然転ばされ、魔法が解けた。


「おい、暗殺者だ」


 暗殺者だったのか物騒だな。

 ターゲットは俺じゃないよな。


 男は捕まった。

 守備兵が男に縄と魔力封じの魔道具を付けて連れて行く。

 魔力封じの魔道具は脅威だな。

 でも力技で壊せそうな気がする。


 悪い事をするつもりはないが、対策は常に考えておかないと。

 そして、悠々と食事を終えた俺を待っていたのは、捕まった男だった。

 もう釈放されたのか。

 お礼参りかな。


「何の用だ?」

「子分になりたいと思いまして」

「へっ、子分?」

「あっしの魔法は見破られたことがなかったんでさぁ。どうやったんで?」

「企業秘密だ」

「そうですか。まああっしも切り札は明かせませんぜ。ハイドと申します」

「ライドだ。名前が似ているな」

「あっしのは偽名でして、変えてもよござんす」

「じゃあファントムを名乗れ。そっちの方が格好いい」

「へい」


「ファントムは何だ」

「ケチな掏りでして」


 そう言ってファントムは手首を見せる。

 そこには入れ墨があった。


「前科の印か」

「これがあると次は手首を切り落とされちまいます。足を洗うのに潮時かと」

「そうか。じゃあしばらくはこれで暮らせ」


 俺は金貨を投げた。

 受け取ったファントムは驚いた顔をした。

 金貨なんか目じゃない。

 そんなのは山と稼げる。


「気前の良いこって」

「ケチなのは柄じゃない」

「そのなりで言われても説得力がありませんぜ」

「目立ちたくないだけだよ」


 手下ができた。

 初めてなにか持てた気がする。

 女の子分よりは気楽でいい。

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