第44話 変態

「決闘だ」


 そんなことをプリンクが言う。

 停学が解けたんだな。

 背負いに何かたくさん詰め込まれているが、武器だとて構わない。

 魔力結晶と色々な技でなんとかなるはずだ。

 それぐらいの自信はある。


「お前、金がないんだろう。何を賭ける。債権なんて言うなよ」

「名誉を賭ける」

「そんな物、要らないんだよ。そうだ負けた方が裸で校内を一周するってのはどうだ」

「それで構わない。お前に変態のレッテルを貼ってやる」


 決闘をやると聞いてまたかよと思った奴は多いが、プリンクが笑えるので観客は多い。


「では、これより。プリンクとライドの決闘を始める」


 審判はまいどおなじみの先生ね。

 今回はナンバー1でなくて本体が相手をする。

 怪我をしない例の結界内で戦闘は始まった。


 どうするのか見ていたら、プリンクは背負いからパンを出して食べ始めた。

 これは能力アップパンだな。

 良くもそんなに食えるなと思うほどプリンクは食べて、ゲップをした。


「神速を得た俺に敵う者はいない」

「御託は良い」


「あがが」


 何にもしないのにプリンクの手足が折れ曲がった。

 ダメージが蓄積。

 プリンクが石舞台より弾き出された。


「ダメージ蓄積により、ライドの勝ちとする」


 結界の効果で怪我はないはずなのにプリンクの手足は折れ曲がったままだ。

 いや瞬間的に治ってまた骨折した感じだ。

 ええと、身体強化と筋力アップの違いは。

 身体強化は体の内部に魔力で力場を作り、筋肉と骨を保護する。

 一方、筋力アップは筋肉を強くするだけ。

 強くし過ぎると骨折するんだな。

 だよな。

 保護機能のない強化なんて怪我のもとだ。


「がぁ、誰か。いだだ。ぐがぁ……」


 プリンクが気絶。

 時間が経って筋力アップの付与が抜けるまで、プリンクは骨折し続けた。

 付与がある程度解けて、ポーションが使われプリンクは復活。


 プリンクがわざとらしく口笛吹いて、俺に視線を合わせないようにして、一歩二歩と遠ざかる。


「おい、何、行こうとしてるんだよ。裸で一周だろう」

「あんな約束は無効だ」

「証文にサインしただろう。しょうがない奴だな。手伝ってやるよ」


 フライングソードが、宙を舞い、プリンクの服を切り刻んだ。


「みっ見るな」

「ゴプリンクには裸がお似合いだ」


「うわー」


 プリンクが着替えを求めて駆け出して行く。

 途中転がったりしながら。

 大爆笑が起こった。


 良い道化っぷりだ。

 もう道化師になって王に仕えた方がいいんじゃないか。


 プリンクには変態のレッテルが貼られた。

 あんなことがあったら俺なら恥ずかしくてしばらく学園に来れない。

 だがプリンクは堂々としたもんだ。

 羞恥心という言葉はないんだろうな。


「よう、ゴプリンク君。裸はもう良いのか」


 クラスメートがプリンクをからかう。

 プリンクは怒りもせず。

 なぜが服を脱ぎ始めた。


「見たいなら見ろ。特に女の子に見てもらいたい」

「きゃー、変態よ」


 先生が呼ばれてプリンクは連れて行かれた。

 また停学だな。

 露出に目覚めるとはとんだ変態だ。


 プリンクはもういいや。

 街をナンバー3で歩く。


 そしたら、裸にマントを着けたプリンクが歩いていた。

 女性が通りかかると身を包んでいるマントの前を開けて、恍惚した顔で喜んでいた。

 本当に変態になっちまったんだな。


 守備兵に通報してやった。

 守備兵の追跡を筋力アップパンを食って振り切るプリンク。

 ちょうど良い量を割り出したと見える。


 俺はプリンクの体の中に筋力アップの付与を植え付けた。

 骨折して悶えるプリンク。

 悪は捕まるんだよ。


 一件落着だな。


 バッタ屋では大売り出しをしていた。

 通常より2割引きとのぼりが立っている。

 だが値札を見ると、前に見た時から値引きはされてない。


「おい、この値札からさらに値引きするのか」

「しないよ。2割引きって書くと良く売れる」

「良いのか」

「良いんだよ。俺の店にリピーターという言葉は存在しない。お前以外はな」


 面白い店だ。


「何か面白い品はないのか?」

「使うと死ぬシリーズが入っているぞ。石を降らす魔道具だ」

「石を降らしてどうなるんだ?」

「さあ、範囲攻撃じゃないか。この魔道具の凄い所は、使用者にも石が当たる」


 使えない魔道具だ。

 だがメテオとか良いな。

 ロマン魔法だ。


「星を落としたりできないのか」

「人がひとり干からびたぐらいでは無理」

「1万人ではどうだ」

「作れんだろう。星まで魔法が届いたなんて話は聞いたことがない」


 駄目か。

 さすがにメテオは無理か。


「筋力アップするけど服がはじけ飛ぶ魔道具とかどうだ」


 プリンクが好きそうだから言ってみた。


「そんなの売れるのか」

「ああ、プリンクという奴がいて高値で売れると思うぞ」


 バッタ屋にそんな話をしたら、本当にプリンクの所に魔道具を収めやがった。

 だが、この魔道具欠陥品だ。

 体が大きくなるのは一瞬ですぐにしぼんでしまう。

 だよな。


 ずっと、強いなんて魔道具があったら、兵士とかに正式採用されているはずだ。

 プリンクに二つ名が付いた。

 全裸早漏フィニッシュ。

 でも一撃は強いらしい。

 オークを殴って殺したという噂が流れて来た。


 お笑い魔道具は別に良いのだが。

 プリンクは街に出没しては女性の前で服を破いて全裸になっている。


 一瞬だけ早いのですぐに通報を受けて捕まる。

 何がしたいのか。

 全裸の罪は罰金で、それをモンスターを殴り殺すことで払っているらしい。

 金も少し潤沢になったようだ。

 うん、決闘に来ないかな。

 来たら金を毟り取ってやるのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る