第2話 成長の日々

 絶対にこんなことでは死ねない。

 考えるんだ。

 魔法ってのは魔力を操作して現象を起こす。

 他人の魔力は操作できない。

 じゃあ、プリンクが放った魔法に俺の魔力を混ぜたら。


 俺の魔法となるはずだ。

 だが、俺は魔法を操れない。

 どうなるかな。

 実験するまでは何とも言えない。


「いいか、逃げるなよ。逃げたらまた杭に縛り付けるからな。火球ファイヤーボール


 当たる箇所に素早く魔力を移動。

 そして放出して混ぜる。

 くっ、失敗だ。


 でもこの前よりダメージは少ない。

 いくらか魔法を散らせたようだ。

 魔力を混ぜると魔法を散らせることができるのだな。

 俺に現象に変換する能力があれば魔法を乗っ取って、打ち返すこともできるのに。


「うひゃひゃ、最高。この調子だ。火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール


 よし、今度こそ。

 くっ、やはり食らった。

 ゼロダメージとはいかない。

 だが4割ほどは魔法を散らせた気がする。


 もっと早く動かし、もっと早く混ぜるのだ。

 火傷が痛い。

 こっそり見ていたのか、プリンクが去ったらカリーナが現れた。


「まあ、酷い。回復ヒール回復ヒール回復ヒール。どうですか」

「ありがとう。良くなったよ」

「まだ、痛そうですね。回復ヒール回復ヒール回復ヒール

「もう大丈夫」


 もっと素早く魔力操作を。

 俺は寝る間を惜しんで、魔力操作に励んだ。

 動かすだけでなくて循環ができるようになった。

 これなら、全身のどこに魔法が当たりそうになっても魔力が近くにあるから、混ぜるのが早くなる。


 魔力操作の訓練を始めてから2年、8歳。

 魔力循環の速度が上がり難くなった。

 俺は魔力を細くしたり、循環を二つにしたり、髪の毛の先まで循環するように工夫した。


 プリンクの魔法によるダメージは半分ぐらい無効化できるようになった。

 半分でも大きい。

 カリーナの回復魔法の腕の方がプリンクより上がった。

 プリンクはそれほど熱心に訓練してないらしい。


 魔力操作の訓練を始めてから3年、9歳。

 寝てても循環が途絶えなくなり、魔力循環の速度が頭打ちになった。


 プリンクの魔法は9割方散らせるようになった。

 ノーダメージまであと少し。


 そこで俺は考えた。

 魔力で体内にポンプを作って循環させよう。


 魔力操作の訓練を始めてから4年、10歳。

 魔力ポンプは完成に至った。

 循環速度は以前の倍以上だ。

 魔力を循環していると魔力量も倍以上になっているのに気づいた。


 ついにノーダメージを実現した。

 痛がる演技はしているのでプリンクは気づいてないらしい。


 魔力操作の訓練を始めてから5年目、11歳。


「おい、魔欠者がいるぞ。臭い臭い」


 プリンクより下の異母兄弟が俺を馬鹿にする。


「俺を馬鹿にしているのか。いいか、これはお前には無い俺だけの特徴だ。悔しかったら真似してみろ」

「こいつ、頭おかしいんじゃ。行こ行こ」

「そうだよ放っておけばいい」


 異母兄弟達が去っていった。


「俺は魔力操作キングだ。この称号ある限り俺はくじけない」


 俺は部屋に戻った。

 カリーナが来ていた。


「ごめんなさい。今日は魔法の練習で魔力を使いきって回復魔法が掛けてあげられないの」

「最近、怪我をしてないのは知っているだろう。気にするなよ」


 なんとなく俺の魔力をカリーナに分けて上げられたらと思った。

 やってみるのはただだし、やってみよう。


「手を出して」

「えっ、どうかしまして?」


 カリーナの手を握り、手から魔力を流し込む。

 流し込んだ魔力は霧散してしまった。

 駄目か。

 俺はつい癖で流し込んだ魔力をカリーナの体内で循環させはじめた。

 カリーナの魔力と流し込んだ俺の魔力が混ざる。

 流し込みを止めたが魔力は霧散しない。


「魔力を補充してみたから」

「うそっ、ライト。ほんとうですわ、魔力が戻っています」


 俺は今までの努力が報われた気持ちになった。


「カリーナ、ありがとう。俺にも出来る事が一つ増えたよ」


 それからは体内の魔力ポンプを増設強化。

 循環の速さと蓄える魔力量の増強に努めた。


 魔力操作の訓練を始めてから10年、16歳。

 俺の体内では常にグルグルと高速で魔力が循環していて、魔力量は今、100倍を超えていた。


 会話してても、プリンクの魔法は1ミリほども食らわない。

 これで攻撃ができたらなぁ。

 そうしたら無敵なんだが。

 魔力操作で攻撃。

 相手に密着すれば、体の中の魔力を乱せる。

 でもそれだと攻撃させないようにするだけだ。


「おい、クズ。ダンジョンに行くぞ。荷物持ちとしてついて来い」


 プリンクがまた無茶を言い始めた。

 ダンジョンはモンスターの巣窟。

 熟練の冒険者でも厳しい。


 プリンクに実戦経験などない。

 取り巻きも同様だろう。

 まあFランクダンジョンならなんとかなるか。

 Fランクダンジョンは最下級だから、かなり下の階層に行かない限り危険はない。


 プリンクも馬鹿ではないようで、Fランクダンジョンを初戦に選んだ。

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