第91話 再び勇者との対決、そして覚醒の時

 ……とにかく俺はこんな所で。

 俺の中で生き続けるサーニャ。

 どちらにせよ、俺たちは弱過ぎた。何も知らなさ過ぎた。そして、心も体も未熟だった。

 だから、こんな悲劇を生み出してしまった。

 胸にキュッとくる込み上げてくるもの。これは、悲しみからくるものもある。だけど、それ以上に……。


「絶対、ぶっ殺す!」

「ローク……」


 願望とか野望とかそんな生半可な気持ちではない。

 絶対に成し遂げてやる。

 だから、みんな待っててくれ。


「ろ、ローク……」

「……!? どうした?」


 この声はパティなのか。でも、いつものような元気はない。何が起こっているんだ? 俺たちがこっちで戦闘している間。パティやエドワードは無事だっただろうか? いや、無事なはずだ。あいつらは俺なんかより強い。だから、安心していいよな?


 でも、パティは俺に助けを求めている。


「……こっちの状況は最悪、あの勇者にみんな……」

「どういうことなんだ?」

「とにかくはやく助けに」


 ここでパティの声は途絶えてしまう。

 勇者にみんな……どうなった? まさか、やられるはずがないよな? だって、あいつらは……。


「こっちも終わったようだな?」

「お、お前……」


 颯爽と現れたのは勇者トウヤ。

 崩壊した街の瓦礫を吹き飛ばし、俺達の前に立ちはだかる。隣に居るコルニーは酷く怯えている。

 既に体は傷だらけでお互い限界だ。

 勇者、トウヤは黄金の剣を振り下ろしこちらに向けてくる。


「この街はもう俺達の配下となった……有能な人材は王国に引き入れるが、それ以外は奴隷として使うことにしよう」

「……わざわざそんなことを言いにきたのか?」

「いや、お前にはさらに絶望を与えないといけないと思ってな」

「……ふざけるな」


 このクソ野郎はどこまで。俺はもうこいつのおかげでどれだけ心身に痛みを受けてきたか。

 今にも動き出して殺したい。

 怒りの感情が爆発しそうだ。でも、冷静に対処しなければいけない。同じ失敗を繰り返してはならない。でも、その前に。


「コルニー……お前はどうするんだ?」

「ど、どうするって?」

「ここからはもう引き返せないぞ、戻るんだったら今のうちだ」

「……それは本気で言ってるの? ここに君と居る時点でもうその選択肢は僕の中にないよ」


 なるほど、覚悟は決まってるのか。

 でも、窮地になったら裏切るかもしれない。

 一応は信用しておくが、危険になったら始末するしかない。それぐらいにここからは激しい戦いになる。


「引き返す? 言っておくが、そんなの出来るはずがない! ここであいつらと同じようにお前たちも殺すだけだ」

「……ということは!?」

「まだ気が付かないのか? お前らの仲間という奴は俺が殺してやった……まぁ、やる前からそのつもりだったけどな」


 それを聞いて俺は驚愕する。

 こんなに簡単に倒されるとは思わなかった。

 あり得ない。エドワード達は俺より強く、凄い力を持っているのに。勇者が率いるアレースレン王国はそんな俺達を簡単に捻り潰してしまった。


「それで、お前もだ」

「ぐ……ぐぁぁぁぁ!」


 コルニー!? 勇者に慈悲の心はない。

 同胞であろうと裏切ったらすぐに痛めつける。

 利用価値がなくなったら捨てる。

 勇者が手を俺達に向けると、コルニー苦しむながら地面に倒れる。何が起こったのか? とにかく、一瞬の隙も見当たらない。


「安心しろ、少し眠って貰っただけだ」

「……俺の、仲間がお前なんかに」

「ふん、残念だが肩慣らしにもならなかったなぁ……さて、お前は少しは楽しませてくれるか? ローク」


 もうこの街に残っているのは恐らく俺とこいつ。

 俺からも全く仲間の気配が感じられない。

 ……本当に殺されちまったのかよ、

 パティの声も無くなり、エドワードも居なくなり、サーニャも死んだ。ガルベスは敵に捕らえられた。

 ……俺は何をしているんだ? 何をやっていたんだ?


「言っただろ? お前には絶望を味わせてやろうと……」

「……それが、この結末ってことかよ」

「いや、この結末は分かっていたことだろ? この街はもう俺達の配下になる、そうなったら、お前の居場所はもう何処にも無い」


 居場所もない。元々、そのつもりでここまで戦ってきた。だけど、心の居場所としてヌクヌクと仲間を作って、それで堪えてきた。なのに、待っていたのはこの結末だったとは。


「そう言えば、思い出すな? あの村でお前と俺は戦った」

「……」

「場所が変わろうと、状況が変わろうと、結果は変わらん……それを覆しかったらやはり力だ」


 淡々とやはり氷のように冷たい瞳。

 事実だけを伝えられて、俺は剣を握る。

 その通りだ。こいつの言う通り……俺は戦うしかない。


「さて、時間をあまりかけたくない……そろそろ、お前も殺すとしよう」


 目にも止まらぬ速さで勇者を俺に近付く。

 剣がぶつかり合って、俺は体勢が崩される。

 だが、感情がそれを助けて、俺は勇者との鍔迫り合いを制する。


「ほぉ、力は大したものだ、だが」


 ……蹴りだと!? 体が宙に浮いて俺は近くの民家に弾き飛ばされる。強烈な一撃だ。体を強い衝撃を受けてしまって動けない。さっきの魔物との戦闘。疲労と失った仲間の悲しみによって俺は動けなかった。呼吸が出来ない。ここまで全力で戦いすぎたか。その反動がこんな大事な時に……。


「もう増援の心配もないからな」

「がはぁ……くっそ」

「……どうして、勝てないと分かっているのに、そんなに立ち向かう? 分からんもんだな」


 この野郎……顔を見上げると勇者は俺に剣を突き刺していた。とてつもない痛みが俺を襲う。

 体を突き刺され、血が止まらない。

 痛みが限界を突破して、意識が朦朧とする。

 剣を握ろうとするも、力が全く入らない。


 そのまま俺は首を掴まれて持ち上げれる。


「これで、アレースレン王国は……完全に世界を支配する事になるか」

「がぁぁぁぁぁぁ」

「そんなに喚くな、一思いに殺してやる」


 もう、本当に終わりだ。

 俺はこいつには敵わない。

 この瞬間に全てが終わろとした。

 でも、俺の眠っていた力が……ここで目覚めてしまうこととなる。

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