第53話 決戦と闇の剣技


 始まりの時計塔。ここで全てを終わらせる。

 神秘的な雰囲気だ。中央には大きな時計と砂時計。

 噴水もあり、見ているだけで心が落ち着く。

 天使の銅像もあってそれはじっと私を見つめてくる。


 ……はぁ、天使など今の私に一番不要な存在。

 私はここで、この場所で終わらせる。

 あっははは、ここまで追い詰められたのは計算外だった。

 だけど、これ以上は……。


「よぉ」

「……あは、なんで」


 計算外は続く。

 目の前には私を睨んで立っているロークの姿があった。

 有り得ない。私は胸が締め付けられるような感覚に陥る。

 その瞳は憎しみに満ち溢れている。当然だ。

 私はすぐに雑念を振り切ってロークと対峙する。


「……貴方の大切にしている人は、私が」

「あぁ、それか、それなら、生きてる」

「……? まさか」

「今までと違って一人じゃなくてな」


 一瞬の隙。ロークは剣を振り抜いて私に向かって来る。

 見えない。風のように颯爽とロークは移動していた。

 気が付けば首元を狙われて、私は斬りつけられた箇所を手で摩る。


「やっぱり、速い」

「簡単に仕留められないか、そりゃそうだよな」

「えぇ、貴方には無理よ、弱いからね」


 そう、勝てない。

 ロークにはそんな力も強さもない。

 けど、何なの? この感じ。

 やばい気がする。それでも、私には届かない。


「驚いたわ、ここまで追いかけてきてさらには……私を殺そうとしている」

「あぁ、その為にここまでに来た」

「ふふ、それは絶対に……」


 距離を詰める。この時計塔には天使が宿っていると言われる。

 この街の言い伝え。そして、魔力源。

 それを全て私が利用出来るとしたら。


「勝ち目がないわ!」

「……!」


 室内でも関係ない。

 私を魔力を留めて一気に放出する。

 それは電撃となって形となりロークを殺そうとする。

 始まりの時計塔。ここには溜められた魔力が全てある。

 どちらにせよ、使用しないのは勿体無い。


「場所を移動して勝ち目があると思った? 残念……最悪の場所を選んでしまったわね」

「なるほど、この時計塔は」


 気付いた時には遅い。

 もう既にロークは私の攻撃の射程内に居る。

 相手よりも速く攻撃を繰り出す。


「魔術……雷球【サンダーボール】」


 超巨大な雷の球。

 流石の私でも時計塔の魔力を足さないと発動が出来ない。

 制御する実力が無ければこの球を作る前に崩れてしまう。

 だから、私は最後の切り札にこの時計塔という舞台を用意していた。


 死ね。惨めにこの雷球に巻き込まれて死ね!


 一瞬でロークの周りは雷撃によって粉々となる。

 衝撃波が凄い。私は薄い防御壁でそれに備えた。

 足腰がグラついてこの魔術の威力を肌で感じた。

 ここまでおよそ数秒。

 煙が立ち込める中で私は静かに言い放つ。


「……惨めね」


 これで後は邪魔者を始末するだけ。

 いや、この街自体を破壊してもいい。

 証拠も残らず、それが賢明な判断。


「凄い威力だな、本当に死んでしまう所だった」

「……!?」

「魔力剣、これが無ければ本気でやばかったな」


 あの剣……そうか、あれで防いだのか。

 それでもこれだけの魔力を完璧に防ぎきるのは不可能。

 剣以外にもロークにはまだ何かあるはず。


「けど、お前たちのおかげで俺の力は覚醒した……感謝するぜ」

「は? 何を言っているの?」

「もうあの頃には戻れないが……戻るつもりもないから使わせて貰う」


 その瞬間。ロークの体から黒い湯気が発生する。

 なに、これ。初めて見る力に私は険しい表情となる。

 自分でも驚いている。まさかロークに怖さを感じているなんて。


 あの頃に戻れない? は……何を言っているの?

 あんな小さな村の出来事など私の中で黒歴史。

 思い出したくもない記憶。私だって戻るつもりはない。


 私が戻るのはトウヤの元。

 ロークよりもかっこよくて。

 ロークよりも力があって。

 ロークよりも落ち着きがあって。

 ロークよりも……。


「あっはははは! 何を強がっているの? そんなのこっちから願い下げよ! もう貴方とは決別したの!」

「それはこっちの台詞だ」

「強がっているつもり? 一回防がれても何度でも……」


 そう、何度でも作り出せる。

 魔力がある限りこれは何度でも作り出せる。

 時計塔の魔力。たくさんの人達が集めていた魔力を私だけが使う。


 これも私に待っている明るい未来の為に。

 トウヤの元に……。


 雷球は再びロークに放つ。

 今度こそ本当に終わりだ。

 でも、ロークの力は私の想像を超えていた。


 噓でしょ? 全力の私の魔術は完全に防がれた。

 それだけじゃない。あの剣は私の魔力を全て吸い込んでいる。

 やばい、流石にあれを受けてはただでは済まない。


 そうね、ここは退散するのが賢いわ。

 段々とロークの姿が異様になる。

 黒い煙に包まれて剣を後ろに引く。

 ……剣技の類だと思うけどあれだけ溜めたら相当な攻撃が放たれる。


 ふふ、少しは認めるわ。貴方が少しはやるってところ。

 けど、私は残念だけど殺せない。

 またトウヤと一緒に来て貴方なんて痛めつけてあげるわ。


「そうはさせるか」

「な、なぁ!?」


 足が動かない。

 冷気がこの場を支配する。

 魔力を使い過ぎたか……反応が出来ていない。

 睨み付けたその先にはあいつがいた。

 白髪を風で揺らしながら目付きの鋭い私の生徒。


「……なんでここに来た? 俺一人で決着をつけるつもりだったのに」

「俺にも戦う理由があるからな、それに一人じゃきつそうだろ」

「……ありがとうな」


 なになに? 勝手に盛り上がってるの?

 こんな奴らに私が負けるはずがない。

 天使は私を祝福している。勝てと言っている。

 それをこんな屑に止められるはずがない。


「させるかよ」

「ぐぅぅぅ! どうして、邪魔するのよ! 私は貴方の教え子なのよ!」

「えぇ、だからこそ成長した証をここで見せないといけないと思ってね!」


 駄目だ、どんどんと拘束している氷は大きくなっていく。

 冷たい、寒くて凍え死にそうだ。

 気が付けば両手も防がれて魔術は上手く扱えない。

 その間にロークは準備を完了しようとしている。


「これは貴方にとっての報いだろうな? 当然だろう、俺の家族を滅茶苦茶にして……いや、それだけじゃない! 貴方はたくさんの人を苦しめた」

「……あっははは、それはやられる方が悪いのよ」

「そうかもしれませんね、だからこそ俺は今のこの世界を変えないといけないと思いましてね」


 世界を変える。そんなの無理に決まってるじゃない。

 私は確信している。

 トウヤが……トウヤが世界を守ってくれるの。

 私達の生活も守って。


「終わりだ、シャノン……もうすぐサーニャと同じ場所に迎えてやるよ」

「ぐぁぁぁ、生意気ね! 地獄に行くのは貴方よ!」


 ロークの力は強くなっていく。

 そして、黒い力を帯びているロークから放たれる剣技。

 それは私を破壊するのに十分過ぎる程のものだった。


「剣技……【血に狂う暗黒剣(ブラッドアーツ)】!」


 赤い光と黒い光。血が混ざったようなそれは私に迫る。

 動けない。避ける事が出来ない。

 私はただそれを待ち受けるだけ。

 恐らく攻撃を受けても死ぬことはない。

 自動で回復してくれる。だから安心すればいい。


 その後にじっくりとロークを痛みつければいい。


 でも、それは大きな間違いだった。

 私の意識はここで……眠ったかのようになくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る