第49話 シャノンを倒す秘訣


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


 一瞬にして余裕がなくなる。

 シャノンはエドワードが唱えた魔術。

 氷の槍によってシャノンの胸は貫通して叫び声が響き渡る。

 受けた傷が治る。それでも、エドワードの攻撃の前では無意味。


 ……やった。やったぞ!

 あのシャノンに攻撃が命中した。

 やっぱりあいつ(エドワード)は凄い奴だ。

 受けた傷以上の攻撃を命中させる事が出来れば関係ない。

 エドワードの氷の槍はそれに相当した。


 叫びが大きくなる。

 エドワードは俺の隣で冷静な顔で淡々としている。

 感情的な俺とは違って氷のように冷徹。

 とにかくこの勢いでシャノンを倒す。


「ふぅ……やっと攻撃が通じたか」

「いや、まだだ! シャノンは……これぐらいでやられる奴じゃない」

「だろうな、俺もあの人と関わった期間があるから分かる……これぐらいで倒れるような女じゃない」


 よく分かっているじゃないか。

 三姉妹の中でただでは転ばない性格。

 あの一撃で倒れるような奴じゃない。

 シャノンは血塗れの左手で髪をかきあげながらこちらを見つめる。


 ――――ゾクッとした。シャノンは怒らせたら怖い。

 立場が変わろうと関係性が変わろうとそれは確か。

 昔と比べて強大な力も手に入れた。

 俺達二人で敵う相手なのか? 駄目だ、そんな事を考えるな。


 ……とにかくこの街を守らないと。

 気を取り直して俺は剣を握り直す。

 ガルベスから授かった魔術剣を無駄にする訳にはいかない。

 俺は、真っ直ぐにシャノンと向き合う。


「はぁ……っ! 私に歯向かうつもり?」

「いや、やっぱりシャノンを殺さないと思っただけだ」

「……昔はロークが辛い時に慰めてあげたのに悲しい」

「いつの話だ? そんな過去の事はもうどうでもいいだろ!」


 トリス村に居た時の話をされても響かない。

 一瞬の隙。俺とシャノンは同時に動き出す。


「残念ねぇ、じゃあ全力で潰してあげるわ!」

「やってみろよ! このクソ野郎!」

「雷犬(サンダー・ドッグ)」


 ぐ! そんな魔術も使えるのか!?

 唱えられた魔術は俺の周りを囲む。

 不規則な動きに俺は翻弄される。

 それは犬のように駆けずり回って法則性がない。

 この雷の犬に意志が存在している。


 俺は、魔術剣を構えながら横目でそれを追う。

 だが、動きがはやく、雷の量も多い。

 まともに攻撃を受けたらただでは済まない。


 ――――っ! やばい!


 後退し続けていたら壁際まで追い込まれていた。

 やられた! こいつに気を取られて周りを見ていなかった。

 シャノンは微笑みながら俺の方に手を向ける。


「ゲームオーバー……」


 低い声が俺の背筋を凍らせる。

 動けない。魔術剣を振ろうと思っても体が動かない。

 だが、向かって来るシャノンの魔術。

 それは急に発生した冷気に防がれる。

 雷犬は消滅してビリビリとした感覚だけが残った。


「落ち着け! 過去の事を気にしないならこいつの発言に耳を傾けるな」

「え、エドワード……」

「相変わらず、邪魔ねぇ! もう少しで殺せる所だったのに」


 苛立ちを隠せないシャノン。

 舌打ちしながら俺からエドワードに視点を変える。

 そうか、そうだったな。俺は何をやっていたんだ。

 冷静になれ。落ち着け。過去の事に振り回されるな。

 どちらにせよ、シャノンは許されない存在。

 たくさんの人に迷惑をかけて自分は幸せになろうとしている。


 許される訳がないだろう。

 俺は、もう一度考え直して整理する。


「とは言っても俺もイラついているけどな……」

「ふ、そう言えば昔にあなたのお父さんと……一夜を過ごした事があったわ、懐かしいわね」

「……あんた」

「でも、人間ってあんなに簡単に心変わりしちゃうから面白いわね!

 どんなに愛があろうと、関係ないって思っちゃった!」


 こ、こいつ! 俺は再び怒りを感じる。

 だが、もう少しの所で抑えて深呼吸をする。

 比べてエドワードはとても落ち着いている。

 いや、こいつの顔立ちはまるで。


「あら、全然驚かなくてつまらないわ」

「……まぁ、大体想像通りだった、あんたがこの街に来てから様子がおかしくなったのは明白だったからな! 親父も壊されて、母親と妹もあんたに壊されたようなものだ」

「あら! そうだったんだ! それは残念ねぇ! 家族揃って私に崩壊させられたんだ! あっははは!」


 シャノンは腹を抱えて笑う。

 深くため息をエドワードはつきながら無表情を貫いている。

 でも、俺には分かる。こいつは、今にも暴れたいと思っている。

 それを必死に抑えつけているんだ。

 俺はエドワードの側まで駆け寄る。


「大丈夫か」

「大方、予想通りだったからな……それで何か目的はあったのか?」

「うーん……いい暇潰しになったと思うわ! おかげさまで、ね?」

「あぁ、俺もあんたを本気で殺す覚悟が出来てよかったよ」


 エドワード……。この話を聞いて俺も黙ってられない。

 今度は二人でこいつを倒す。

 一人では不可能な事も二人なら出来るはずだ。

 最初の方の俺なら考えられなかった。


 けど、仲間が出来て、一緒に付いて来てくれる人もいる。


「ローク、俺はあいつを許さない、お前だって……同じなんだろ?」

「あぁ、その為に俺は生きているようなものだからな」

「……とにかくあいつの動きを封じる必要がある、けど」


 軽く作戦を練りながらエドワードは首を傾げる。

 蘇生能力に強力な雷魔術。

 さっき唱えてきた雷犬も脅威。

 やはり普通に戦って勝てる相手ではない。

 しかし、俺は空をふと見上げてある事に気が付く。


 氷の槍と空の具合。さらにはエドワードの魔術。

 俺は閃いた事をエドワードに伝える。


「……なるほど、それを利用するのか?」

「あぁ、これだったら……シャノンを倒せるはずだ」

「あっははは! 二人がかりでも無理よ! 絶対にここで苦しませて殺してあげる!」


 いや、それは無理な話だ。

 俺はエドワードと協力してシャノンを倒す作戦を考えついた。

 終わりなのは、お前だ。

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