第48話 実力差と助っ人


 街の騒ぎなど関係なしに。

 俺は一心不乱にシャノンの元へと向かって行く。

 高く飛び上がりながら。俺は目付きを鋭くしながら。

 しかし、俺の標的は待ち構えていた。


「……っ!」

「久しぶりねぇ! ローク!」


 シャノンは不敵な笑みを浮かべている。

 口元を隠しながら。まるで自分の素性を隠しているみたいだ。

 元々こいつはやっぱり自分を偽っている。

 今回だってまさかここまで腐っているとは思わなかった。

 ……何で、俺は。何も出来なかった自分に苛立つ。

 すぐに剣を取り出して、シャノンに向ける。


「もう再会の挨拶は要らねぇだろ!」

「それもそうね! じゃあ、惨めに死んで!」


 力一杯剣でシャノンに攻撃を仕掛ける。

 案の定だけどその杖で防がれる。

 武器の性能はやはり桁違い。アレースレン王国で作られたその武器。

 やはり、強靭で芯がしっかりしている。

 俺は体を回転させながら、剣技を発動しようとする。

 だが、その瞬間だった。


「残念ねぇ……それは読んでるわよ」

「ぐぉぉ!」


 か、体が動かねぇ! これはあの時のか!

 覚えがある。トリス村の時にやられた魔術。

 成す術もなく、俺はこいつに動きを止められた。

 動きと共に自由とこの世界で生きる権利も。

 こいつらが王国でどんな風に心変わりしたかは分からない。


 だけど、俺は……。


「……え」

「それはもう通用しねえよ! このクソ野郎!」


 魔術剣を持っているだけで。並大抵の魔術は通用しない。

 ガルベスに感謝しながら。シャノンが唱えたパラライズを打ち消す。

 俺は驚くシャノンに動じず剣で攻撃する。

 しかし急所は避けられる。


「そ、そういうことね……」


 シャノンは片腕で俺の剣の攻撃を受け止める。

 血飛沫が地面に垂れながら。シャノンは表情を歪ませている。

 間髪入れずに俺は一気に剣技を発動させる。


「逃がさねえよ! 剣技……【螺旋斬り】」


 剣を後ろに引いて俺は一撃を与えようとする。

 しかし、シャノンは直前で手を俺の方に向ける。


「……魔術【雷刃(サンダーカッター)】」


 突然俺の周りに雷撃と刃が発生する。

 無数のそれは俺の手足を襲う。

 う! こ、こいつ……。剣技が途中で中断されてしまう。

 致命傷は避けられたが、このままでは不味い。

 俺は地面に倒れ込みながら、シャノンから目を離さない。


「やったと思った……?」

「ぐぅ!」

「でも、あの時よりかは強くなったんじゃない? ローク?」


 痛いな。両腕と両足から血が流れ落ちる。

 魔術のキレと判断力などやっぱり全然違う。

 恐らく、こいつと普通に戦っても勝てない。

 そして、さらなる絶望が俺を襲う。


「でもやっぱり私には敵わないかもね? ほら……」


 き、傷が回復している……だと?

 これが天職と呼ばれている奴の力なのか。

 何とか立ち上がって俺は抵抗しようとする。

 しかし、この光景を見て戦意を失いかける。

 いや、それでは駄目だ。


「ロークに受けた傷もこうやってすぐ治るんだから……もう諦めなさい」

「はぁ? そんなの出来る訳……」

「私は忠告をしてるのよ? 貴方のそのちっぽけな復讐で……この街の人を何人失いたいの?」

「お前……それは」


 シャノンの脅しは本気なのか。

 いや、こいつは真面目に言っている。

 両手を広げながらシャノンは目を細めている。

 こいつにとって街の人達なんて関係ないのだろう。

 そもそもまともだったら、異性を誑かす様な真似はしない。

 痛みを我慢しながら、俺は回復薬を使用する。


「便利な物を持っているのね! 流石に無策で突っ込んでくる程……馬鹿じゃないか」

「ふざけるなよ、街の人達を巻き込むのは……」

「ふざけているのはそっちじゃないの?」


 すぐにシャノンは反論してくる。

 ふざけているのは俺の方。それを主張するかのように。

 シャノンは急に真剣な瞳に変化する。


「街の人達……という所を気にしている時点で貴方は駄目なのよ」

「何も関係ない人を殺すのは……絶対に許されない事だろ!」

「それだったら、証拠が残らない様に全員殺せばいいのよ! どのみち……この街も後々に支配されるんだから」


 俺はシャノンのその言葉に引っ掛かる。

 後々に支配される……どういう事なんだ?

 それにしても、恐ろしい事を言うな。

 全員殺せばいい。やはりトリス村に居た時とは……もう違う。

 心が死んでいる。王国と勇者の存在がそんなに人を変化させるのか?

 考えれば考える程に理解が出来なくなる。


 しかしこれだけは言える。


「だったら、俺もお前を殺す! 復讐もそうだが、そんな事させねえよ!」

「威勢だけはいい……のね! 本当に何も変わらないのね」


 再び戦闘が再開される。

 しかしこの圧倒的な実力差。

 魔術剣を使用してもシャノンの魔術を打ち消すだけで精一杯である。

 体力も疲弊して、段々と動きが鈍くなる。

 遂にはシャノンの魔術をまともに受けてしまう。


「ちぃ!」


 雷球か。痺れと痛みを両方感じてしまう。

 微妙な電流が剣を伝ってきているのか。

 動きが鈍くなっているのはこの影響か。

 屈みながら俺は呼吸を荒くしている。

 このままでは……ぐ!

 そして、急に俺の首元が掴まれる。上体を無理やり起こされる。


「それが今の現状だとしたら?」

「あがぁ、ど、どういう事だよ」

「昔からさ……威勢だけよくて何も考えてなくて、無鉄砲に突っ込むロークが」


 低い声が俺の耳に届く。

 女の癖に……とは言ってはいけない。

 こいつは考え方とか性格は最悪だが強い。それだけは確か。

 苦痛を感じながら、俺は振り解こうとする。

 だが、振り解けない。無理だ。

 そして、密着されて吐息が当たる。この独特な雰囲気に俺は耐えられない。


「ねぇ? どうして……勝てないって分かっているのに……挑む訳?」

「はぁはぁ」

「いい加減に現実見た方がいいわよ? もう、貴方は終わりなんだから」


 そう言えばトリス村に居た時。

 遊びでもシャノンに勝った事は数える程しかなかった。

 加えてこの状況。勝てるはずがない。

 シャノンは俺と顔を近付けながら。


「このまま私の為に死んでよ? その方が貴方にとってもいいんじゃないの?」

「ふ、ふざけるなよ……」

「それはこっちの台詞よ! ほら、はやくしないと……街の人がどうなってもいいの?」


 最低だ。だからこそ俺はこいつを倒さなければならない。

 既にシャノンは俺の命を握っている。

 どうなるかはこいつの行動次第。生かすも殺すも……。


「街の人は安心しろ! それよりもまずはこいつを殺す事が先決だ!」

「……助かった、エドワード」


 そこには完全に回復したエドワードが立っていた。

 高台から飛び降りながら氷魔術を唱える。

 作られた氷の槍。それは、シャノンの胸を貫通をせるには容易だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る