第57話 ロークとサーニャの告白
あの話の後。関わった人に話をしながら夜まで様々な準備をした。
もう少しでこの街からもさようならだ。
その前に決着をつけておかなければならない事がある。
場所は再び時計塔。とは言ってもエドワードもガルベスは居ない。
肌寒さが目立つ中。俺は、ある人物を待っていた。
静かなこの場で、来てくれるか分からない女。
……サーニャ。これは俺の問題だ。
ずっと不確かなこの気持ちを抱いている訳にはいかない。
これまで自分に言い訳をしてきたのかもしれない。
気持ちを伝えないといけない。
そんな使命感を感じて俺はサーニャを待っている。
本当に来てくれるのか? ……いや、あいつなら来てくれる。
だって今までずっと戦ってきてくれた仲間だから。
それ以上の関係を望むのは……。
「ローク……」
「……! サーニャ」
分厚いコートのような服装に身を包みながら俺の前に現れた。
いつもよりも目を合わせられない。
とても緊張しているんだろうな。俺も、あいつも。
そして、トレードマークの赤髪のツインテールを下ろしている。
なんだ、いつもと雰囲気が違くてより一層意識をしてしまう。
……言葉が出ない。俺から呼んだのに。
男らしくないな。そんなんだから俺は……。
「こんな時間に、こんな場所に呼び出して……何の用だよ?」
「い、いや……」
昼間の事もあるし、ガルベスが余計な言葉をサーニャに言ったから。
妙にとても意識をしてしまう。
体温の上昇を感じる。だけど、この胸の中のモヤモヤ。
これは解消しとかないといけない。
軽く深呼吸をして、感情を押し殺して俺はサーニャと向き合う。
「正直、この気持ちの正体は分からない……でも、曖昧なままで戦っていくのはこの先駄目だと思ったんだ」
「そ、そうなのか」
俺はどうしたいのか? サーニャの顔が見れない。
うーん、上手く伝えられない。
もどかしいのか、恥ずかしさが勝るのか。
男らしくない。本当に、こんなんだから俺は今の現状なんだ。
……結局、立ち向かってきて必死に挑んできた。
けど、誰もまともに守れて居ない。
だから、強さも足りていない。今までずっと傷つけて、傷つけられて俺は後悔する時もあった。
そして、目の前のサーニャも今回も前回も命の危機までさらしている。
これで、安易にこのドキッとした感情をいう訳にはいかないよな。
「けど、俺は弱い……今回も色々な人の助けがなかったらみんな死んでいたかもしれない」
「いや、そんなことはねえよ! ロークは私なんかよりも十分に強いぜ」
「……実際、俺はこう考えてしまう、みんなを守りながら戦えるのかって」
「は? 言っただろ? そんなのあたし達も強くなればいいんだよ! だからさ、お前がそんな事を言うなよ」
庇ってくれるサーニャ。いや、守りながら戦えるとかそういう問題じゃない。
目の前で苦しい姿を見るのが嫌なんだ。
それに、俺の力で周りを巻き込んでしまうかもしれない。
色々な考えが頭の中で交錯する中。それでも、サーニャは言い続ける。
「それにさ、命がけで私の事を守ってくれたんだろ? それだけで……私は物凄く嬉しいぜ」
「サーニャ……」
「それで、ここに呼び出した理由は何だよ? 何かあるからここに呼び出したんだろ?」
サーニャは白い歯を見せながら笑顔を見せつけてくる。
あぁ、やっぱり俺とサーニャじゃ住んでいる世界が違う。
本当に光と闇という言葉で表現した方がいいだろう。
明るくて、真っ直ぐで何も負の感情がない。
俺と違って、羨ましいぐらいに太陽のように照らす存在。
……そうだ、だからこそ、俺は……。
「黙っているなら、私から言っていいか?」
言葉が出ない。いや、くそ、あれ。
言った本人がこれはダサすぎる……。
それにサーニャが俺に伝える事って何なんだ? 何か、俺に重要なことがあるのか。
「……ローク、私はあんたの事がす、好き」
「……は?」
そのサーニャの一言で頭が真っ白になる。
いや、それは……どういうことなんだ?
待て、落ち着け。落ち着けよ、冗談で言ってるんじゃ、ないよな?
思わず気の抜けた声が漏れてしまう。絶対に聞かれただろうな。
サーニャが俺の事を好き。その事実で俺は体全体の震えが止まらない。
それは、体験したことない出来事。
相手から自分に想いを伝えられるなど考えられなかった。
自分に魅力も強さも足りなかったから。
だけど、目の前の元気な女の子は俺なんかに……。
「だ、だから、わ、私と……う、うぐ」
あ、あぁ? どうしたんだサーニャ。
急に黙り込んでその場でうずくまる。
やばい、俺もこの場で溶けてしまいそうなぐらいだ。
いや、それは言ってるサーニャが一番だと思う。
心臓の鼓動がとてつもなく速くなる。
「だ、駄目だぁ、やっぱり慣れてねえし、こんなの恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ……悪い、ローク……こんなの言うべきじゃなかったよな?」
「い、いや……俺の方こそ、だって俺は」
「……ずっと、この街に来る前から私の心の片隅に芽生えていた気持ちなのかもしれない」
目を逸らすな。こんなに必死にサーニャが一生懸命に想いを伝えているのだから。
本当だったら、俺から言うべきことなのに。
……でも、断られるのが怖かった。これで関係性が変わってしまいそうで怖かった。
だから、今日。色々な人に言われて俺は自分に正直になった。
「上手く言えねえけど……一緒に冒険して、そして真実を知って、私が正しいって思うこと……そこにロークがいつも居たんだ」
「……サーニャ」
「ロークは自分の事を弱いって言っているけどとんでもないぜ! 何度も私を守ってくれて、その証拠に私は今ここに居る! こうやって、好きな人に想いを伝えられているのは……ロークのおかげなんだぜ?」
彼女、サーニャは俺には勿体無いぐらいに魅力的な女の子。
本当に幸せを望むなら、俺達と付いて行くよりガルベスと一緒に冒険者やってた方がいいんじゃないか?
……分からない。けど、俺もサーニャと同じ気持ちなのかもしれない。
「俺も……サーニャ、お前のことが好きだ」
「……ふにぁ」
「お、おい! どうしたんだ! サーニャ」
言ってしまった。けど、後悔はしてない。
寧ろ、何だこの満たされる気持ち。
足がよろついて倒れそうなサーニャを俺は体で受け止める。
お互いが密着して、サーニャの温度が俺に伝わってくる。
こいつ、小さいんだな……。今までは意識しなかったが、とても軽い。
それであんな力があるんだから、大したもんだ。
「わ、悪い……」
「い、いや、どうってことない」
駄目だ、何にも考えられない。
この空間の中で俺はどうすればいい。
気の利いた言葉なんて思いつかねえよ。
だけど、これではっきりとした。
俺は……サーニャが好きだ。どうしようもないぐらいに。
しばらくはずっとこのままがいい。
恥ずかしさよりも、もっとサーニャと触れ合いたい。
もっと、もっと……ぐぅ。
「……ほ、本当にいいのか? わ、私は、ローク……お前が相手にしている女の人より、うるさいし女らしくもねえぞ?」
「……それを言うなら俺だって、そんな立派な男じゃない、それに俺と一緒に居たらサーニャ、お前は幸せになれない……」
「そんなことはない!」
全力で拒否される。
顔を俺に隠して若干怒りながら俺に訴える。
どうして、そうやって決めつけられる。
少なくともこれからもっと戦いは激化する。
エドワードの言う通り庇いきれないかもしれない。
そこに本当に幸せが待っているのか?
けど、それでもサーニャは俺に。
「どんな状況になろうと、そこにロークが居れば……私は幸せだから! だからさ、そんな暗い顔するなよ! 笑おうぜ! にしししし!」
「……そうか」
「それに、ロークは立派な男だ! それは私が保証してやるよ! だから……これから宜しくな」
サーニャは俺の胸の中でそう言ってくれた。
なんだろう、滅茶苦茶嬉しい。
辛くて苦しい。まるで先の見えない暗闇が続く人生だと思っていたのに。
「やったぁ! 本当に、本気で、ロークとこういう関係になれたんだ! まだ、実感が湧かねーな」
「……それは俺だって」
「……ん」
「な、なんだ?」
差し出された手。俺とサーニャはお互い離れた後。
白くて小さな手を俺の前に出してきた。
「帰ろ! これからもっと忙しくなるんだろ?」
「お、おう!」
「これからは、仲間であり……こ、恋人同士として! 宜しくな……ローク!」
俺は彼女の手を握る。その言葉に俺は無言で頷く。
満たされる気持ち。そして、守るべき存在が出来た。
本当に負けられない。そして、絶対に倒さなければいけない。
でも、今は、この瞬間は。サーニャとの時間を大切にしたい。
「でもさ、たまには……わ、私と一緒に出かけよーな」
「あぁ! けど、その前にやらないとな」
そう、一番の目的は……あいつを倒す。
それは絶対に忘れてならない。
でも、今度からは一人じゃない。みんなと一緒に。
必ず、あの勇者と残りの一人を倒す!
俺は決意を新たに進みだす。
復讐、それはどんなことがあっても曲げられないだろう。
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